ピーター・ティール、「極右のキングメーカー」まっしぐら

イーロン・マスクを含む元ペイパルマフィアの「ドン」と呼ばれるペイパル創業者・元CEOのピーター・ティールは、その莫大な財産の力を行使して、アメリカの右派政治における重大なパワープレーヤーとしての地位を確立しつつある。

ティールは、億万長者のベンチャーキャピタリスト、技術系起業家という肩書きを持ち、オハイオ州の空席となっている連邦上院の共和党予備選挙で当選したJ.D.ヴァンスを支援する選対本部に1000万ドル以上をつぎ込んでいる。ティールは、以前ヴァンスを自分の投資会社で雇用し、ヴァンスが立ち上げた中西部専門のベンチャーキャピタルファンドの主要な投資家でもあった。

ヴァンスはトランプ支持白人層の実態を暴く書籍『ヒルビリー・エレジー』の作者だ。同書は住民の3分の1が貧困にあり、離婚や暴力沙汰、薬物依存症も珍しくない、中西部の「死んだ町」の実情を描いている。そのような「死んだ町」の住人たちが自暴自棄になりトランプに票を投じている、と考えられている。

トランプを熱狂的に支持した絶望する白人の素顔 『ヒルビリー・エレジー 』
著者が描くのは、住民の3分の1が貧困にあり、離婚や暴力沙汰、薬物依存症も珍しくない、中西部の「死んだ町」の実情です。このような町に取り残された「絶望した白人」が、トランプを支持したのです。

ティールはいっとき反目していたヴァンスがトランプ前大統領と和解するのを助け、トランプの熱狂的な支持を確保し、それがヴァンスを4月の世論調査で後半に躍進させる原動力となった。ヴァンスは予備選の混戦を約32%の得票率で破り、少なくとも予備選直後は、11月に共和党が議会を奪還できる中間選挙の波の中で、上院の議席を獲得する有力候補と見られていた。オハイオ州は共和党寄りである。

しかし、2カ月後、ヴァンスの立候補は揺らいでいるように見える。最近のいくつかの世論調査では、民主党の対立候補であるティム・ライアンと基本的に同点であることが示唆されている。さらに悪いことに、7月15日の締め切り前に公開された連邦選挙委員会の提出書類によると、ライアンは第2四半期に910万ドルを調達しており、ヴァンスの230万ドルの3倍以上である。

J.D.ヴァンス。Photo by New America - Small Talks DC: Securing the American Dream for Young Children - Attribution 2.0 Generic (CC BY 2.0)

ティールの伝記を書いたブルームバーグのジャーナリスト、マックス・チャフキンは「5月以降、大口献金者がヴァンスへの大口献金を避けるようになったのは、ティールが選挙に費やした記録的な金額に比べれば、自分たちの献金が小さくなり、ヴァンスが当選した場合の政策形成への影響力が限られることを感じたためだ」と共和党関係者の取材源として書いている

もうひとり重要な子飼いの部下がいる。ティールは昨年8月には、アリゾナ州の上院議員選挙の共和党予備選で、以前ティールのもとで働いていたブレイク・マスターズを支援するために1,350万ドルを投じた。

マスターズは、2020年の選挙に勝ったという前大統領の嘘を受け入れ、上院選でトランプの支持を得たが、来月の予備選を前に党員の支持を固めようと、「2020年に起きたと主張する不正行為が2022年にも起きる」と疑問を投げかけている選挙戦略を展開しているのだ。

マスターズは右派ポピュリストを煮詰めた人物だ。1月6日の連邦議会襲撃はFBIが密かに指示した偽旗だと示唆した。彼は銃の乱射事件を黒人のせいにしている。「アメリカの第一次世界大戦への参戦は『モルガンとロスチャイルド家』による秘密工作のせいである」と非難したこともある。

このような発言は、ナチス・シンパからの熱烈な支持を得た。ネオナチのブロガー、アンドリュー・アングリンは、白人至上主義者のサイト「デイリーストーマー」で、マスターズを全面的に支持したのである(マスターズは彼との関係を否定している)。

Blake Masters. Photo by Gage Skidmore. (CC BY-SA 3.0)

トランプとの距離

どちらのケースでも、ティールは自分の資金(彼の資産は60億ドル程度と言われている)を、2022年の中間選挙で共和党の右派ポピュリスト、あるいは極右であるトランプ派の政策に沿った候補者の支援に投入したことになる。両候補とも2020年大統領選挙で大規模な不正が行われトランプの再戦が捻じ曲げられたという「トランプの主張」を支持している。

トランプ派は2016年大統領選の地滑り的な勝利の後に共和党を席巻し、ジョージ・ブッシュ大統領時代の副大統領であるディック・チェイニーの娘のリズ・チェイニー下院議員のような伝統的な共和党政治家グループとは対立している。

ピーター・ティール、極右活動に本腰か
【ブルームバーグ】共和党トランプ派の支援者として知られるベンチャー投資家ピーター・ティールはフェイスブックの取締役を辞め、マーク・ザッカーバーグを敵対者リストに加えた政治家候補を支援している。

ティールはこれまでトランプを助けてきた。英ガーディアンが引用した試算によると、ティールはトランプの選挙不正路線を支持するほかの2022年の上下両院の候補者15人に2,500万ドルを寄付している。

ティールにとって、ヴァンスとマスターズの支持は、2016年のミズーリ州司法長官選に立候補した極右上院議員ジョシュ・ホーリーの選挙運動への30万ドルの寄付に続くものだ。また、トランプ大統領を当選させるために寄付を行い、共和党全国大会ではトランプの代理として演説を行った。

ティールは2020年の大統領選には参加せず、代わりにイスラム教徒の移民・訪問者の登録制度創設を提案していたカンザス州務長官クリス・コバチを支援する選対本部に210万ドルを寄付している。

学部生時代には保守的なスタンフォード・レビューを立ち上げ、1995年にはカリフォルニアの高等教育機関における多文化主義と「ポリティカル・コレクトネス」の影響に疑問を投げかけた『The Diversity Myth』を共著で出版している。

2003年、彼は米国の情報機関のテロ対策を支援する会社パランティアを共同設立。SOMPOと富士通が未上場時に投資したパランティアは蜜月のトランプ政権で多くの政府契約を勝ち取った。トランプの任期が終わる寸前にパランティアは上場を遂げた

パランティア上場は蜜月トランプの落選を想定した出口戦略
SOMPO持ち分は大統領選挙後までロックアップ

今年初め、ティールは初期の投資家であり、マーク・ザッカーバーグCEOの顧問を長く務めたメタの取締役を退任した。彼の政治活動がメタのソーシャルメディア事業と軋轢を持ち始めたことが背景にあると言われている。

ティールのリバタリアンとしての評判は、2016年に、レスラーのハルク・ホーガンが起こしたプライバシー侵害訴訟に資金提供し、ニュースサイト運営者Gawkerを倒産させたときに公に確立された。Gawkerは2007年にティールのプライバシーを暴露していた。