元起業家のPMがFacebookのプロダクトマネジメントとターゲティング広告と社内政治を解説『サルたちの狂宴(下)』

本書は、Facebookの中の社内政治とプロダクトマネジメント、ターゲティング広告製品開発の最初期を学べる一度で3度美味しい書籍になっています。

「サルたちの狂宴(下)」(Chaos Monkeys)の後半は著者のアントニオ・ガルシア・マルティネスがFacebookに入社するところから始まります。マルティネスは非常に「典型的な」経歴の持ち主です。彼は物理学の博士課程をドロップアウトし、ゴールドマン・サックスでクオンツを務め、2008年の金融危機の後、アドテクスタートアップに転じ、職場の同僚とYコンビネーターに応募し、アクセラレーションプログラムを受けて、スタートアップを創業しました。その会社をTwitterに売却して彼は共同創業者と別れてFacebookに入社したのです。

あなたが本書を読むべき最初の理由は、マルティネスが非常に重要な時期(2011年から2013年の間)にFacebookの中にいたからです。彼は、女性のFacebookerは自己主張の弱い服を着ることが期待されており、マネージャーは軽視されて互いに絶え間なく戦っていることを知ります。従業員がスプレー缶を手渡され、壁に本物の何かを作るようにザックから言われたとき、Facebookersがオフィスを粗い洞窟の絵で汚すのを見ました。彼は最新のアドテクノロジー(広告技術)をFacebookに持ち込むために一生懸命働きましたが、幹部または利害関係の対立する人々によってすぐに拒絶されました。同社はかなり垂直的な組織構造を持っているようであり、近年も政治広告の課題を解決するためにFacebookに雇用されたYael Eisenstatが、経営陣にとって好ましくない提案をしたため、仕事をする権限を与えられないまま放置されたと説明しています。

ダン・リオンズの『Disrupted: My Misadventure in the Start-Up Bubble』(邦訳は『スタートアップ・バブル 愚かな投資家と幼稚な起業家』とかなり恣意的に変えてある)のように、本書でも楽観的なスタートアップの従業員である著者が、次第に冷笑的になっていきます。そして中間管理職の悲哀を常に味わうことになり、社内政治の渦の中で、とても劣勢の立場に置かれるようになるのです。Facebookはいくつものプロジェクト(互いに利益が相反しているものを含んでいる)を同時に進め、そのなかから好ましいものを取り出すようにしています。マルティネスのプロジェクトは、ビジネスサイドが期待する製品の「噛ませ犬」のようなものでした。彼はそれを知らずにFacebookの誘いに乗ったことになります。彼の就労意欲はストックオプションが付与されるのを待ち望むだけのものになりました。

この本を読むもう1つの理由は、FBの広告のプロダクトマネージャーがプライバシーについてどのように考えているかについての洞察を提供することです。これは重要な視点です。なぜなら、CPOや弁護士ではなく、製品設計者が多くの企業で実務決定を下す人だからです。マルティネスは、FBはプライバシーの問題については責任を負わない、と記述しています。 そして、彼はオンラインでのプライバシー侵害は、FBではなく広告主によって推進されています。 Facebookは単に消費者へのメッセージをルーティングしますが、広告主はクレジットカードの購入やデータブローカーを通じて何十年もあなたを見てきたため、あなたに何をルーティングするかを知っています。マルティネスが去った後には、Facebookの広告システムにデータブローカーの保持するオフライン情報をマッチングする機能が追加されました。これらは、ケンブリッジ・アナリティカ事件フェイクニュースソーシャルメディアの兵器化等の問題により非常に厳しい視線が注がれています。

この本を読む最後の理由は、本書はFacebookのプロダクトマネジャー(PM)が同行動するかをまなぶ教本にもなっていることです。特にマルティネスのこの説明は社内でPMがどのうような役割を担っているのか情景が浮かんできます。

「実際に手を動かすコーディング作業を除いて、プロダクト周辺で必要なあらゆる仕事を担う。個人情報保護を扱う法務チームとの延々と続くミーティングに出て、何をするプロダクトなのかをかなり慎重に言葉を選んで切り貼りして伝え、いささか時代錯誤の法規定もクリアできますと説明するのもそうだ。にこにこして頭が空っぽのセールス担当がひしめく部屋でプロダクトの説明をし、大事な新プロダクトにクライアントがお金をつぎ込んでくれるよう促してもらうのもそう。他のPMと交渉して、プロダクトに変更をかけてもらったりエンジニア関連のリソースをくれとたかったりするのも仕事。経営陣が顔を揃える会議で新プロダクトの顔になり、彼らが描く基本的な青写真のなかに、素早く落ちていくテトリスのピース並の場所を確保するのもそうだ。ほかのPMが頼み事をしてきたり、うちのプロダクトをすすめるためにそっちのプロダクトの優先順位を下げてもらえないかと持ちかけてきたりしたとき、そうした外からの略奪行為からチームを守るのも仕事だ」。

Facebookは、最初期のスタートアップを早期に買収し、そのまま社内プロダクトチームに転換するとを好んでいます。FBは起業家精神を持った「ハッカー」文化があることを重んじていて、買収などにより取得した企業の設立者だったPMが相当数います。人材の獲得を狙ってチームを買収する場合、Facebookは通常、10人未満、しかもその大半がエンジニアで構成される小規模なチームを狙います。その企業の設立者やCEOがPMとして迎え入れられることがしばしばあるのです。Googleの元PMも少なくありません。『世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本 トップIT企業のPMとして就職する方法』はこの事情を詳しく教えてくれるのでおすすめです。