Facebookにおけるプロダクトマネジャーの役割とは?
Facebookは本書で紹介する企業の中では最も技術面を重視し、技術に明るいプロダクトマネジャーを求めています。起業家精神を持った「ハッカー」文化があることを重んじていて、買収などにより取得した企業の設立者だったPMが相当数います。
私はスタートアップの創業者として最初期のチームにプロダクトマネジャー(PM)を加えるか検討したことがあります。そのときに会社がPMをどう定義するかは、その会社の性質自体と深い関係が生じざるをえないことに気が付きました。私は自分自身で最初期のPMをやろうと思いましたが、そのときに調べたことを埋蔵しているのはもったいないため、こうしてブログとして公開することにしました。今回はFacebookにおけるPMです。
まとめ
Facebookは起業家出身者にPMとして大きな責任を与え、かなり自由を与え、かわりに大きな成果を期待する
- FacebookのPMには自分でハックする能力と同時に得られるデータを分析する能力、さらにチームを上手くコントロールする能力と複合的な力が求められる
1.起業家精神
『世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本 トップIT企業のPMとして就職する方法』はとても有用な書籍です。
この書籍で、著者のGayle Laakmann McDowell と Jackie Bavaroはこう記しています。
Facebookは本書で紹介する企業の中では最も技術面を重視し、技術に明るいプロダクトマネジャーを求めています。起業家精神を持った「ハッカー」文化があることを重んじていて、買収などにより取得した企業の設立者だったPMが相当数います。Googleの元PMも少なくありません。新卒者は1チームにつき4ヵ月、計3チームをローテーションするものです。
FacebookのPMは独特です。
Facebookは技術力が高く起業家精神を持ったPMを求めます。Facebookではプロダクトマネジャーの誰もがコードを書くこと(少なくとも基本を学ぶこと)を期待されていて、6週間のFacebookブートキャンプを経験します。これはPMとエンジニアがツールについて学びバグを修正するプログラムです。これは、なんでも自分でやる企業文化にふさわしいものです。PMが自分の担当プロダクトの初期プロトタイプを自分でコーディングすることは、めずしくありません。
Facebookは他社の従業員を雇用する目的でその会社を買収することがあり、これをacqui-hiring(訳注: 人材の獲得を狙って買収すること)と呼ばれています。人材の獲得を狙ってチームを買収する場合、Facebookは通常、10人未満、しかもその大半がエンジニアで構成される小規模なチームを狙います。その企業の設立者やCEOがプロダクトマネジャーとして迎え入れられることが、しばしばあります。
Facebookはこのようにして優秀なチームを獲得します。チームが10人未満の段階で、リスクがかなり高いゲームを戦っている最中に高額のバイアウトプランを提示され、さらに最高水準の待遇で迎えられることを提案されたとしましょう。普通の創業者は提案を承諾するに違いありません。
起業家出身者を好む傾向は『サルたちの狂宴』という書籍からもわかります。著者であるアントニオ・ガルシア・マルティネスは自身が起業した3人で構成されるアドテクスタートアップをTwitterに売却した後、Facebook Exchange(FBX)のPMに転身しています。自身が手がけるFBXが、社内のカスタムオーディエンスという商品と競合することにマルティネスが苦しむ状況を、本書は描いています。書籍内では明言はされていないものの、FBXはあくまで「噛ませ犬」であり、カスタムオーディエンスがうまく行かなかったときの「保険」とFB上層部が捉えているような感じが漂っていたものです。こういうときのPMはつらそうですね……。おっと余談が過ぎました。
書籍が扱うのは2010年台前半の2年程度でFacebookの「ハック」文化の頂点のような時期です。FBは他社が成功したプロダクトの特徴を即座に模倣する力があります。FBは中国テンセントを模倣しゲーミングプラットフォームとして一時的に成功しました。ソーシャル以降のメッセージングアプリの隆盛にもFacebook Messagerと買収したWhatsAppで乗ることに成功しました。その後ライバルとなったカメラアプリSnapchatの機能はすべて、買収したInstagramに取り込みました。そしてその後現れた中国のアプリ工場BytedanceのTikTokの機能もすぐさま取り込んでしまいました。この速度感は起業家出身のPMが多数いる証左かもしれません。
『サルたちの狂宴』とアドテクについては詳しくはこちらの記事を読んでください。
『サルたちの狂宴』でアドテクの変遷を振り返る 独占が自由市場を駆逐した理由
2.自由とプレッシャー
FacebookのPMはかなり自由自在にプロダクトマネジメントができそうです。しかしこれは高い成果の期待も求められているのでプレッシャーがありそうです。
Facebookはまとまりがなく、エンジニアリングに中心を置いている企業です。プロダクトマネジャーの人数は比較的少ないと言えます。多くのチームはプロダクトマネジャーがいない状態でスタートし、後から必要性が明らかになったら1人だけ人に就きます。1つのチームには2人以上のPMがいる場合もありますが、業務の範囲は広く、各人が独立して仕事をしています。
FBのPMはデータ分析、新しいプロダクトのアイディア出し、プロトタイピング、さらにそのカイゼンなど八面六臂の活躍が期待されています。途中でマーク・ザッカーバーグとの検討を挟む所も社風を感じます。
Facebookでは企業として予定されている取り組みもありますが、人々がどのようにサイトを使い、どんな問題にぶつかっているかを観察することから多くのアイディアが生まれます。PMは注目すべき領域を見つけ、シナリオをまとめて、何を作りたいかを、期待されるせいかとともに提案します。PMの自由度は高いため、自分のアイディアを会社の枠組みの中で位置づけ、全体のミッションの中にうまく組み込む方法を理解することが重要です。
それからチームはプロトタイプを作り、対象絞ってテストをして、期待される成果があがるかどうかを確かめます。PMはマーク・ザッカーバーグや部門長と提案を検討して、承認を得ます。その後、チームにデザイナーを招き入れ、機能を社内に公開して、社内の人からフィードバックを得ます。
開発している間、プロダクトマネジャーはプロダクトのレビューを繰り返します。プロジェクトマネジメントのオーバーヘッドは多くありませんが、PMはログを見て、エンジニアが新しいコードを組み込むとすぐ確認することができます。すべての準備が整うと、PMはローンチに向けて公開の計画を調整し、マーケティングと連携します。
NYオフィスでのPM職の応募要項が出ていたので、それをつぶさに見てみましょう。職責には以下のようなことが書かれています。
- アイデア、技術開発、革新的な製品の発売を先導
- 優先事項に関するコンセンサスを構築することにより、会社全体で共有ビジョンを確立する
- ワールドクラスのエンジニアとデザイナーのチームで製品開発を推進
- ユーザ満足度の調査、研究、市場分析を製品の要件に統合し、ユーザの満足度を高めます
- 製品の成功を知らせる指標を定義し分析するFacebookの戦略的かつ競争上の地位を理解し、業界で最も認められている製品を提供する
- プロセスが流動的で創造的な解決策が一般的である、絶えず進化する環境で効率を最大化する
印象としては「スーパーマン」かもしれません。米国ではいざしらず日本にこの水準のプレイヤーがどの程度いるのでしょうか。これは耕されていない畑であり、むしろチャンスと見ていいかもしれません。
3. 創業者経験
繰り返しになりますが、Facebookは創業者経験者をPM候補として好む傾向があります。
アジア、アフリカの発展途上国で展開されている Facebook Lite のプロダクトマネジャーを務める Tzach H.のインタビューを参照しましょう。
Tzach氏はテルアビブで自分が起業したスタートアップに携わっていたが、インタビュー収録時の三年前にFBに参加したそうです。非常に典型的なパターンかもしれません。
私のスタートアップに別れを告げてFacebookに参加するのは簡単なことではなかったし、Facebookがどのようなものであるかについて前もって考えをたくさん持っていました。 大きな会社は長いプロセスを必要とし、それが素早い動きを難しくするという考えです。実際は全く異なりました。Facebookは「大きなスタートアップ」のようなだと感じられます。
結局のところ、Facebookにおけるプロダクトマネージャの役割は、実際にはPMというより起業家であることに最も近いと思われます。 その役割は、製品に対するビジョンの設定、メトリクスと目標の定義、チームメンバーと関係者間の調整の達成、そしてもちろん実行に対する「けじめ」という挑戦的なものです。 他の会社でのいくつかのPMの役割とは異なり、あなたの手を握っている人はいません。それは本当にあなただけのショーです。 会社の「Be Bold」というモットーは、文書や手順に関するものではありません。それは、物事を成し遂げるためのすべてです。
Henry E. C.は 3つのスタートアップを設立した後、彼は新たな挑戦を探していて、Facebookのボトムアップ文化に魅了されたそうです。 彼はFacebookで3年間働き、最近はPublisher Solutionsの製品管理をサポートしているそうです。
この人の起業歴はとても興味深いです。
私は私のキャリアの最初の部分を起業地で過ごし、12年間で3社を設立しました。 私の最初のスタートアップはSpoonfedと呼ばれ、私はロンドンにある私の最後の大学で始めました。 Spoonfedは、人々がロンドンでやるべきことを発見するのを助けたロケーションベースのアプリでした。 私が2回目に始めたのはEventlyで、イベント主催者や会場運営者が自分たちのイベントについて広く知らしめるためのプラットフォームでした。 そして、Listoraと呼ばれる私の最後のスタートアップは、メディア企業とハイテク企業がデータセットを最大限に活用できるようにするためのデータインフラストラクチャ企業でした。 12年間のジェットコースターの後、私は新たな挑戦を見つけることに着手しました、そして私は目の前に3つの選択肢を持っていました:新しい会社を始める、成長段階のスタートアップに加わる、または大手ハイテク会社のために働く、です。
彼は「スタートアップの創設者からFacebookで働くまでに、どのようなスキルが最も役に立ちましたか」と問われ、基本的には起業家としてのスキルがそのまま役に立つと答えています。
私がスタートアップという環境にいる間、私は先導し、物語を語り、戦略を立て、市場の動向と顧客のニーズを理解し、問題を迅速に解決し、そして私たちが行っていた仕事により人々を鼓舞しました。 これらはすべて私が現在の職務で使用し続けている資質と特徴です。 違いはFacebookで、私たちは人々に何をすべきかを言うのではなく、実例と影響力でチームをリードしています。
結論
「#起業しろ」ということらしいです。起業家出身者に大きな責任を与え、かなり自由を与えるが、そのかわり成果をガッツリ出してね、というのがFacebook流のようです。「#起業しろ」は気の利いた冗談です。あなたの検索センスを問うことになりますが。
Reference
- 『世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本 トップIT企業のPMとして就職する方法』
- Facebook "What it's Like to be a Product Manager in Facebook, With Tzach H.”
- Facebook "Product Manager New York, NY"
- Facebook "Making an Impact at Scale at Facebook"
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