SPACブーム、閉幕へ

2020年から2021年にかけて米株式市場を席巻した特別目的買収会社(SPAC)のブームが終りを迎えつつある。弱気相場が続き、規制当局が網を絞った結果、その複雑で高コストな上場手法の正当性が崩壊した。

メディケアとメディケイドの支払いサービスを提供するMSPリカバリーはSPACとの合併を完了し、24日にナスダック市場で取引を開始した。その後、この株はすぐに価値の半分以上を失った。

MSPリカバリーは2021年7月の発表時に326億ドルのバリュエーションが与えられ、シンガポールのグラブについで史上2番目に大きなSPAC取引であった。これは夏の終りの最後の花火大会のように見えるだろう。

史上最大のSPAC取引のグラブも悲惨な運命をたどっている。ソフトバンクグループが筆頭株主の同社はSPAC取引合意時に400億ドルのバリュエーションを与えられた。しかし、いまや92億ドルと4分の1以下までメルトダウンしている。

史上最悪のSPAC案件の座はガラスメーカーのビューに与えられそうだ。この会社もまたソフトバンクGが筆頭株主である。ビューは2021年3月のSPAC取引完了から数カ月で発覚した会計スキャンダル以降、決算報告書を提出せず、上場廃止が差し迫っている。ビュー自体も余命数ヶ月と考えられている。ビューはSPACとの合併で得たキャッシュの大半をソフトバンクGが筆頭株主であったグリーンシルへの高利の負債の返済で使い果たし、上場して数ヶ月で会社は死に体となった。グリーンシルは巨大なスキャンダルを巻き起こしながら倒産し、今も余波を残している。

ソフトバンクの過酷な真実
世界で最も過激なハイテク投資家集団のソフトバンクは見事な復活を遂げた。しかし、その欠点はまだ残っており、次のストレステストが近いかもしれない。
グリーンシル問題はSBG、東京海上、クレディによるババ抜き
英国の一大スキャンダルとなったグリーンシル問題。同社が残した大損失を誰が補填するか、これを決めるババ抜きが始まった。プレイヤーはソフトバンクG、東京海上、クレディ・スイスの三者だ。

投資銀行が手を引き出した

ウォール街の投資銀行はSPACから手を引いているという。金融機関は最近まで、このような「空箱」を市場に押し出し、合併や株式公開のターゲットとなる企業(残念ながらあまり良い企業ではない場合が多い)を見つける手助けをして、多額の手数料を徴収することに満足をしていた。しかし、米国証券取引委員会(SEC)が、SPAC上場を引き受けた投資銀行に対して、合併の目論見書に記載される情報の保証を要求したため、彼らは怖気づくことになった。そうなれば、投資銀行も大きな法的責任を負うことになる。

規制の厳格化によってSPACとの合併は上場のための近道ではないくなっているという。SECは現在、必要書類の審査にさらに数カ月を要している。例えば、クリプト(暗号通貨)取引所BullishのFar Peak Acquisition Corpとの合併は、最初に発表されてから1年前後で完了する見込みだ。

SPACはすでに株式市場に参加するための余りにも複雑で費用のかかる方法であった。SPACのスポンサーは新規株式公開(IPO)で資金を調達し、いわゆる白紙委任会社を設立し、その現金で購入する企業を探しに行くというものである。

その際、スポンサーはIPO投資家に対して、1口10ドルの投資に対して、株式とワラントと利息を含むマネーバックを保証するという信じられないような条件を提示する。スポンサーは、IPOで売り出される株式の20パーセントを手数料として取り、上前をはねる。

米スタンフォード大学ロースクールのマイケル・クラウズナー教授と米ニューヨーク大学のマイケル・オーロッギ助教授の研究によると、IPOで発行されたワラントによる希薄化、スポンサーの実質的な無料株、IPOと合併の両方にかかる銀行手数料(SPACは従来のIPOの2〜3倍)などが、合併後に企業が手にする現金を圧迫していたことが判明した。このようなコストを残りの株主に転嫁したため、最終的に企業のキャッシュは当初より40%減少した。

SPACの冷静な見方
SPACは未上場企業にとって株式公開のための安価な方法であるが、SPACの投資家がそのコストを負担しているだけであり、これは持続不可能な状況である。プロセスの中で33%の現金が消え、合併後の株価が平均で3分の1以上下落する。

LinkedInの創業者リード・ホフマンとテクノロジー系起業家マーク・ピンカスがスポンサーとなっているSPACは好例だ。彼らのReinvent Technology Partnersは4つのSPACを立ち上げたが、そのうちクローズしたのは3つだけである。最初のものは2020年9月に上場したが、これはブームが到来しているときだった。2021年8月10日にJoby Aviationとの合併に合意すると、IPOの初期投資家の62%が株式の償還を選択した。Hippoとの2回目のIPOが8月2日に終了したときには、約84%の株主が退場を希望していた。Hippoの株価は現在約1.60ドル、Joby Aviationは6ドルを下回っている。最も新しい案件であるAurora Innovationとの取引は11月に終了し、4ドルを下回って取引されている。IPO投資家の77%以上が償還を選択した。

英経済誌エコノミストによると、2021年の第1四半期には77件の買収が発表されたが、2022年の同時期では27件の買収が発表されたに過ぎない。2021年第1四半期に上場し、970億ドルを調達したSPAC298社のうち、196社はまだ合併を発表していない。全部で600以上の米国上場SPACがまだターゲットを探しているという。

SPACが調達した1,600億ドルが信託口座で宙吊り
2021年第1四半期に上場し、970億ドルを調達したSPAC298社のうち、196社はまだ“脱SPAC”を発表していない。全部で600以上の米国上場SPACがまだターゲットを探している。現在、約1,600億ドルが信託口座に保管され、リスクのない国債に投資されている。

合併の見込みのないSPACに大量の資金が閉じ込められている。エコノミストは、現在、約1,600億ドルが信託口座に保管され、リスクのない国債に投資されている、と指摘している。これは、マネーマーケット・ファンド(格付けの高い外貨建ての短期証券(CP、銀行引受手形、政府またはその機関の発行した証券など短期証券)や国債などの短期債券などを中心に運用される商品)に投資しているのと同じだ。

皮肉なことにSPACが合併するよりも合併しないまま低リスク資産に投じられている方がパフォーマンスがいいらしい。