グリーンシル問題はSBG、東京海上、クレディによるババ抜き
英国の一大スキャンダルとなったグリーンシル問題。同社が残した大損失を誰が補填するか、これを決めるババ抜きが始まった。プレイヤーはソフトバンクG、東京海上、クレディ・スイスの三者だ。

英国の一大スキャンダルとなったグリーンシル・キャピタルの破綻は、東京海上、ソフトバンク、クレディ・スイスによる「ババ抜き」の様相を呈している。
現状、ジョーカーを保持しているのはクレディ・スイスだ。クレディが運用する100億ドル規模のファンドが、グリーンシルが売掛金を担保として実行した融資を証券化した金融商品を引き受けていた。グリーンシルの融資先にはガバナンスの問題を抱える企業や、WeWorkのIPO失敗騒動以降、融資を得るのが難しくなっていたソフトバンクビジョンファンド(SVF)の企業が含まれていた。グリーンシルが破綻した時、クレディは顧客資金回収の必要性に駆られることになった。
クレディが重要な回収手段としてみているのが、東京海上が提供した取引信用保険である。グリーンシルは借り手の債務返済を保証するために保険を使っていた。この保険のおかげで、グリーンシルはクレディ・スイスに債権を売却することができ、その債権はほとんどリスクがないものとして投資家に販売された。この保険を提供していたのが、東京海上の豪子会社ザ・ボンド&クレジットCO(BCC)である。
今週、東京海上はグリーンシルが豪子会社に対して詐欺を働いたとの主張を発表し、クレディの保険金請求を押し返しにかかった。東京海上は「保険の引受けに重要な事柄が、グリーンシルによってBCCに不正に伝えられた」とし、保険が合意され延長される前に「重要な事項」を開示しない「不正な失敗」があり、東京海上が2019年にインシュアランス・オーストラリア・グループ(IAG)からBCC事業を買収した後も不正告知が続いていたとした。

IAGも火の粉が降りかかりつつあるアクターである。3月にはグリーンシルの破産管財人が豪州でIAGの子会社を提訴している。
グリーンシルは最初、IAG傘下だったBCCと保険を締結した。東京海上は2019年にBCCを買収した際に、この保険を引き受けた。東京海上は2020年にこの契約の調査を行い、2021年に保険の延長を拒否し、この保険に依存していたグリーンシルが破綻した経緯がある。もし、BCCが保険金請求に応じざるを得なくなった場合は、保険引受の責任の所在をめぐって、東京海上とIAGの間の係争に発展する公算が高い。
このような潜在的な敵対の可能性を踏まえてか、現状、両者は緊密な協調体制にあるようだ。東京海上が訴えるグリーンシルの「詐欺」という主張が通れば、両者とも請求を免れることができる。
もうひとつ、クレディが回収の対象と考えている日本企業が、ソフトバンクグループ(SBG)だ。2019年5月からSVFはグリーンシルに14億ドルを投資し、グリーンシルにある役割を期待したと言われている。
英エコノミスト誌の調査報道によると、グリーンシルは、他の金融機関が融資をためらうソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)のポートフォリオへのレスキュー役として機能していた可能性があるという。

当時、SVFのポートフォリオの中には、カテラ(2021年に経営破綻)やオヨ(最近、IPOの先送りと企業価値のカットが報じられた)のような、お金をひどく必要としている企業があった。WeWorkの破滅的な新規株式公開頓挫の後、大半の金融機関はSVFのポートフォリオ企業に近づかないようにした。グリーンシルは事実上その穴を埋める役割を担っていたという。
「SBGが投資先のグリーンシルを、死にかけている別の投資先企業を救助するために使い、その結果、最終的な資金の出し手であるクレディの顧客やグリーンシルの他の株主に損失を負わせた」というストーリーが組み立てられれば、これはSBGによる明快な利益相反と言えるだろう。
しかし、SBGが大本のクレディのファンドにもそっと5億ドルを投資していたことで事態はかなり複雑になっている。この投資によってSBGは被害者の列に混ざっているのだ。
これが、クレディがSBGと法廷闘争を行う上でロジックの組み立てを難しくしていることは、想像に難くない。興味深いことに、クレディは事実関係を精査した後、SBGによる5億ドルを償還している。
クレディは英国でのソフトバンクの提訴に向かっていると報じられており、係争の中心に置かれそうなのが、米国の建設会社カテラに貸し付けられた4億4,000万ドルだ。これまで報じられたところによると、クレディが訴訟で槍玉に挙げようとしているのは、カテラが経営難に陥った際、グリーンシルが融資返済を免除し、SBGがグリーンシルに追加資金を注入したことで、クレディに損失を負わせる一方で、自分が投資先は優先的に生き残らせようとしたことだ、とこれまでの報道では言われている。ただ、実際には表沙汰になっていない情報は大量にあると考えられるため、提訴が実行されるまでは不確実だ。
東京海上からの保険金請求とソフトバンクGの利益相反の立証、それぞれの難易度と回収できる資金によって、クレディはリソースの投下先の判断を逐次変えていくだろう。ただ、アルケゴス破綻の一件でも大打撃を受けたクレディには、簡単に引き下がるという選択肢は存在しないはずだ。
いまのところ、ババ抜きのジョーカーはクレディの手元にあるが、予想される国際的な係争合戦によって、それが誰の手元に落ち着くかまだわからない。