グリーンシル問題はSBG、東京海上、クレディによるババ抜き

英国の一大スキャンダルとなったグリーンシル問題。同社が残した大損失を誰が補填するか、これを決めるババ抜きが始まった。プレイヤーはソフトバンクG、東京海上、クレディ・スイスの三者だ。

グリーンシル問題はSBG、東京海上、クレディによるババ抜き
2020年2月12日(水)、東京で行われた記者会見で話すソフトバンクグループ株式会社の孫正義会長兼最高経営責任者(CEO)。

英国の一大スキャンダルとなったグリーンシル・キャピタルの破綻は、東京海上、ソフトバンク、クレディ・スイスによる「ババ抜き」の様相を呈している。

現状、ジョーカーを保持しているのはクレディ・スイスだ。クレディが運用する100億ドル規模のファンドが、グリーンシルが売掛金を担保として実行した融資を証券化した金融商品を引き受けていた。グリーンシルの融資先にはガバナンスの問題を抱える企業や、WeWorkのIPO失敗騒動以降、融資を得るのが難しくなっていたソフトバンクビジョンファンド(SVF)の企業が含まれていた。グリーンシルが破綻した時、クレディは顧客資金回収の必要性に駆られることになった。

クレディが重要な回収手段としてみているのが、東京海上が提供した取引信用保険である。グリーンシルは借り手の債務返済を保証するために保険を使っていた。この保険のおかげで、グリーンシルはクレディ・スイスに債権を売却することができ、その債権はほとんどリスクがないものとして投資家に販売された。この保険を提供していたのが、東京海上の豪子会社ザ・ボンド&クレジットCO(BCC)である。

今週、東京海上はグリーンシルが豪子会社に対して詐欺を働いたとの主張を発表し、クレディの保険金請求を押し返しにかかった。東京海上は「保険の引受けに重要な事柄が、グリーンシルによってBCCに不正に伝えられた」とし、保険が合意され延長される前に「重要な事項」を開示しない「不正な失敗」があり、東京海上が2019年にインシュアランス・オーストラリア・グループ(IAG)からBCC事業を買収した後も不正告知が続いていたとした。

東京海上、グリーンシルは「詐欺的」と訴え保険金請求を押し返す
東京海上は、英国の一大スキャンダルであるグリーンシルの破綻に絡む保険金請をめぐって、同社が保険契約を「不正に入手した」と非難し、破綻の代償を誰が支払うかをめぐる戦いに最新の一手を打った。

IAGも火の粉が降りかかりつつあるアクターである。3月にはグリーンシルの破産管財人が豪州でIAGの子会社を提訴している。

グリーンシルは最初、IAG傘下だったBCCと保険を締結した。東京海上は2019年にBCCを買収した際に、この保険を引き受けた。東京海上は2020年にこの契約の調査を行い、2021年に保険の延長を拒否し、この保険に依存していたグリーンシルが破綻した経緯がある。もし、BCCが保険金請求に応じざるを得なくなった場合は、保険引受の責任の所在をめぐって、東京海上とIAGの間の係争に発展する公算が高い。

このような潜在的な敵対の可能性を踏まえてか、現状、両者は緊密な協調体制にあるようだ。東京海上が訴えるグリーンシルの「詐欺」という主張が通れば、両者とも請求を免れることができる。

もうひとつ、クレディが回収の対象と考えている日本企業が、ソフトバンクグループ(SBG)だ。2019年5月からSVFはグリーンシルに14億ドルを投資し、グリーンシルにある役割を期待したと言われている。

英エコノミスト誌の調査報道によると、グリーンシルは、他の金融機関が融資をためらうソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)のポートフォリオへのレスキュー役として機能していた可能性があるという。

ソフトバンクの過酷な真実
世界で最も過激なハイテク投資家集団のソフトバンクは見事な復活を遂げた。しかし、その欠点はまだ残っており、次のストレステストが近いかもしれない。

当時、SVFのポートフォリオの中には、カテラ(2021年に経営破綻)やオヨ(最近、IPOの先送りと企業価値のカットが報じられた)のような、お金をひどく必要としている企業があった。WeWorkの破滅的な新規株式公開頓挫の後、大半の金融機関はSVFのポートフォリオ企業に近づかないようにした。グリーンシルは事実上その穴を埋める役割を担っていたという。

「SBGが投資先のグリーンシルを、死にかけている別の投資先企業を救助するために使い、その結果、最終的な資金の出し手であるクレディの顧客やグリーンシルの他の株主に損失を負わせた」というストーリーが組み立てられれば、これはSBGによる明快な利益相反と言えるだろう。

しかし、SBGが大本のクレディのファンドにもそっと5億ドルを投資していたことで事態はかなり複雑になっている。この投資によってSBGは被害者の列に混ざっているのだ。

これが、クレディがSBGと法廷闘争を行う上でロジックの組み立てを難しくしていることは、想像に難くない。興味深いことに、クレディは事実関係を精査した後、SBGによる5億ドルを償還している。

クレディは英国でのソフトバンクの提訴に向かっていると報じられており、係争の中心に置かれそうなのが、米国の建設会社カテラに貸し付けられた4億4,000万ドルだ。これまで報じられたところによると、クレディが訴訟で槍玉に挙げようとしているのは、カテラが経営難に陥った際、グリーンシルが融資返済を免除し、SBGがグリーンシルに追加資金を注入したことで、クレディに損失を負わせる一方で、自分が投資先は優先的に生き残らせようとしたことだ、とこれまでの報道では言われている。ただ、実際には表沙汰になっていない情報は大量にあると考えられるため、提訴が実行されるまでは不確実だ。

東京海上からの保険金請求とソフトバンクGの利益相反の立証、それぞれの難易度と回収できる資金によって、クレディはリソースの投下先の判断を逐次変えていくだろう。ただ、アルケゴス破綻の一件でも大打撃を受けたクレディには、簡単に引き下がるという選択肢は存在しないはずだ。

いまのところ、ババ抜きのジョーカーはクレディの手元にあるが、予想される国際的な係争合戦によって、それが誰の手元に落ち着くかまだわからない。

Read more

新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

世界が繁栄するためには、船が港に到着しなければならない。マラッカ海峡やパナマ運河のような狭い航路を通過するとき、船舶は最も脆弱になる。そのため、スエズ運河への唯一の南側航路である紅海で最近急増している船舶への攻撃は、世界貿易にとって重大な脅威となっている。イランに支援されたイエメンの過激派フーシ派は、表向きはパレスチナ人を支援するために、35カ国以上につながる船舶に向けて100機以上の無人機やミサイルを発射した。彼らのキャンペーンは、黒海から南シナ海まですでに危険にさらされている航行の自由の原則に対する冒涜である。アメリカとその同盟国は、中東での紛争をエスカレートさせることなく、この問題にしっかりと対処しなければならない。 世界のコンテナ輸送量の20%、海上貿易の10%、海上ガスと石油の8~10%が紅海とスエズルートを通過している。数週間の騒乱の後、世界の5大コンテナ船会社のうち4社が紅海とスエズ航路の航海を停止し、BPは石油の出荷を一時停止した。十分な供給があるため、エネルギー価格への影響は軽微である。しかし、コンテナ会社の株価は、投資家が輸送能力の縮小を予想している

By エコノミスト(英国)
新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

1960年代以来、世界中のエンジニアが回転デトネーションエンジン(RDE)と呼ばれる新しいタイプのジェット機を研究してきたが、実験段階を超えることはなかった。世界最大のジェットエンジン製造会社のひとつであるジー・エアロスペースは最近、実用版を開発中であると発表した。今年初め、米国の国防高等研究計画局は、同じく大手航空宇宙グループであるRTX傘下のレイセオンに対し、ガンビットと呼ばれるRDEを開発するために2900万ドルの契約を結んだ。 両エンジンはミサイルの推進に使用され、ロケットや既存のジェットエンジンなど、現在の推進システムの航続距離や速度の限界を克服する。しかし、もし両社が実用化に成功すれば、超音速飛行を復活させる可能性も含め、RDEは航空分野でより幅広い役割を果たすことになるかもしれない。 中央フロリダ大学の先端航空宇宙エンジンの専門家であるカリーム・アーメッドは、RDEとは「火を制御された爆発に置き換える」ものだと説明する。専門用語で言えば、ジェットエンジンは酸素と燃料の燃焼に依存しており、これは科学者が消炎と呼ぶ亜音速の反応だからだ。それに比べてデトネーシ

By エコノミスト(英国)
ビッグテックと地政学がインターネットを作り変える[英エコノミスト]

ビッグテックと地政学がインターネットを作り変える[英エコノミスト]

今月初め、イギリス、エストニア、フィンランドの海軍がバルト海で合同演習を行った際、その目的は戦闘技術を磨くことではなかった。その代わり、海底のガスやデータのパイプラインを妨害行為から守るための訓練が行われた。今回の訓練は、10月に同海域の海底ケーブルが破損した事件を受けたものだ。フィンランド大統領のサウリ・ニーニストは、このいたずらの原因とされた中国船が海底にいかりを引きずった事故について、「意図的なのか、それとも極めて稚拙な技術の結果なのか」と疑問を呈した。 海底ケーブルはかつて、インターネットの退屈な配管と見なされていた。現在、アマゾン、グーグル、メタ、マイクロソフトといったデータ経済の巨人たちは、中国と米国の緊張が世界のデジタルインフラを分断する危険性をはらんでいるにもかかわらず、データの流れをよりコントロールすることを主張している。その結果、海底ケーブルは貴重な経済的・戦略的資産へと変貌を遂げようとしている。 海底データパイプは、大陸間インターネットトラフィックのほぼ99%を運んでいる。調査会社TeleGeographyによると、現在550本の海底ケーブルが活動

By エコノミスト(英国)