ドコモのWeb3巨額投資の岐路 暗号資産界の未曾有の崩壊が直撃

ドコモがWeb3への巨額投資を発表した直後、暗号資産界で未曾有のクラッシュが起きた。連鎖的な経営破綻をステークホルダーは恐れている。暗号資産ビジネスを立ち上げるのにはあまりにも寒い冬が訪れた。


11月8日、NTTドコモはWeb3領域に今後5-6年で5,000億~6,000億円を投資すると発表した。具体的には、ブロックチェーン・ウォレット、暗号資産交換、トークン発行、セキュリティなどの基盤技術を「Web3 Enabler」として整備するという。

10月31日にはAstar Networkと協力していく方針を発表済み。井伊基之社長は、ここにアクセンチュアとの協業を組み合わせ、「Web3ならではのDAO(分散型自立組織)のアプローチを進めたい」とした。井伊社長は2023年には新会社を設立し、「日本発のグローバルデファクトを目指す」考えを明らかにしている。

発表内容をみると、ドコモの力点は暗号資産の比重が強い。ケータイWatchの関口聖のレポートを参考に一部推測で穴埋めすると、取引所、ウォレットを整備してトークンを発行し、ドコモの経済圏を暗号通貨によって実現させようという試みに見える。

暗号資産に関連するサービスを開発するのは、様々な国でブロックチェーン関連ソリューションを提供するアクセンチュアなのだろう。井伊社長は5,000億~6,000億円の投資の内訳は非開示としたが、出資やM&A(買収)の可能性に言及している。

日本最大の通信キャリアが提供する暗号資産取引所は、確かに儲かりそうだ。世界最大取引所のバイナンスや日本国内の主要な取引所は十分な利益を上げている。

取引所自体は、世界2位のFTXがバハマのペントハウスで共同生活をする数人のチームを基点に事業拡大したような、アセットライトなビジネスである。オンラインカジノやスポーツベッティングと類似した商売とも言えるだろう。暗号通貨でギャンブルしたい人を一定数確保できれば、顧客は常に取引を繰り返し手数料を落としていく。これを通信キャリアの力を使って集客すれば、ビジネス機会は大きいかもしれない。

発表の3日後に「暗号資産の冬」

しかし、暗号資産取引所の開始のタイミングとしては、最も悪いものとなった。この発表の数日前から世界2位の取引所であるFTXで取り付け騒ぎが起き、発表の3日後には破産を申請した。

FTXをめぐるストーリーは革新的な金融業者への称賛からエンロン以来の大型金融詐欺事件へと変貌している。会計不正・ポンジスキームをめぐる未確認情報がメディアからマシンガンのように報じられる中、「暗号資産界のJ.P.モルガン」と讃えられたFTX共同創業者サム・バンクマンフリードは莫大な刑事リスクを抱えながらCEOの座を降りている。後任はエンロンの破産手続きで辣腕を振るった弁護士ジョン・J・レイIIIである。

今後はFTX崩壊の余波を見守る必要があるだろう。いくつかの暗号資産ヘッジファンドや分散型金融(DeFi)企業は、FTXに預けた資産が引き出し不能になったことを認めている。暗号通貨の価格も急落している。ステークホルダーはドミノ式の倒産が起きるのかどうか見守っている。

取引所はブームのボラティリティにさらされるビジネスである。米大手取引所コインベースの上場目論見書を参考にすると、コインベースの月間取引ユーザー数(MTU)は仮想通貨のボラティリティと一定の相関性を示している。

コインベースのMTUは歴史的に仮想通貨の価格とボラティリティの両方と相関している。

さらに、プラットフォーム上の資産(Assets on Platform)は、2017年12月31日から2018年12月31日までの暗号通貨の価格の下落時は減退し、2020年Q2頃からのブームの再燃によって資産額は急速に増加している。

図3. コインベースのプラットフォーム上の資産(Assets on Platform)の推移。2017年12月31日から2018年12月31日までの暗号通貨の価格の下落時は、資産が減退したが、2020年Q2頃からのブームの再燃によって、資産額急速に増加している。

つまり、取引所の運動法則は膨張と縮小を繰り返す風船のようなものだ。ブームが起きると人々が集まり、盛んに取引をし、プラットフォームに置かれている資産が膨張する。ブームが終わると、閑散とし、資産が縮小する。

この風船が急速に縮まっている今、極寒の海に身を投げ出すメリットを見つけるのは難しい。

D払いとのカニバリズム

会見の中では興味深い問題も提起されている。井伊社長は「おそらく、エンドユーザーが望んでいるのは、手続きが簡単で安心して使えるという環境でしょう」と語っているが、暗号資産製品は一般ユーザーにとって簡易な利用方法にはなりづらい。むしろ、自己主権型アイデンティティ(Self-Sovereign Identity)を個人に与えるため、複雑なプロセスを含むことが含意となっている。

例えば、ウォレットの場合は、秘密鍵をユーザー側で管理しないといけないが、これは一般のユーザーにとってはハードルが高い。ユーザーが秘密鍵を失ってしまえば、ウォレットの中身へのアクセス方法は完全に失われてしまう(実際それで数億ドル相当を失った人がいる)。

このユーザーが自分の運命を自らの手で積極的に握る、リバタリアニズムと親和的なウォレットの設計を変更するのであれば、それは「効率の悪い車輪の再発明」に当たるだろう。すでにある「D払い」の方が断然合理的である。暗号通貨に高性能や利便性を求めるのは今の所、無理難題である。

ただ、そもそも人々はウォレットを使わないシナリオもありうる。大半の取引所ユーザーは取引所アカウントに残高を置き、自らのウォレットに暗号通貨を移動させることはなく、他の用途に使わない、ということだ。

もしこうなるなら、個々のアカウントに置かれた残高が取引に応じて移動するだけで、暗号通貨自体は取引所のウォレットで眠るだけになるので、暗号通貨をめぐる不便さの問題から、一応のところ開放される。ただ、こうなると、取引所は完全にオンラインカジノと同じで、暗号通貨の意味が薄れるわけだが、ビジネスとしては十分に成り立つ。

NFTとメタバースの組み合わせに未来はない

会見ではNFTとメタバース利用の可能性についても触れられたようだ。アクシオンではずっとNFTの問題を指摘してきた。

日本よ、目を覚ませ、Web3はクソだ!
Web3の誇大広告は日本の政界にまで浸透し、大手メディアでは誤った説明が繰り返されている。バブル崩壊以降の30年間を経済停滞の中で過ごした日本にとって、Web3への投資は船が再び誤った方向に進んだことのシグナルとなってしまうだろう。

メタバースは苦戦の色合いが濃い。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、Meta Platoformsは消費者向けメタバースの主力製品「Horizon Worlds(ホライズン・ワールド)」の月間アクティブユーザー(MAU)は20万人に満たない。ホライズンを訪れた人の大半が最初の1カ月を過ぎるとおおむねアプリを使うのをやめており、ユーザー数は春以降、減少し続けているという。Metaは先週、1万1,000人のレイオフを発表した。

また、NFTとメタバースを組み合わせたサービスの状況はもっと残酷だ。データプロバイダーDappRadarによると、メタバースプラットフォームDecentralandの日間アクティブユーザー(DAU)は19(10月9日14時31分時点)で、競合のThe Sandboxはその同じ時間にDAUは3(10月9日14時31分時点)だった。DecentralandとThe Sandboxはともに企業価値が10億ドルを超える、いわゆるユニコーンなのにもかかわらずだ。

閑古鳥が鳴くWeb3・メタバース:1日のユーザー数19人
メタバースプラットフォームのDecentralandとThe Sandboxは、どちらもデイリーアクティブユーザーが20を下回っているが、それぞれ評価額は10億ドルを超えている。

また、NFT自体がその誇大広告(ハイプ)で約束する、固有性や唯一性の証明のような機能を全く果たしていない。加えて、著作権をめぐる脆弱性も抱えている。一部のマーケットプレイスによって、NFTの付与に対してライセンスの付与を紐付けるようにする運用が提案されたが、法的な取り決めをNFTと別に作る必要があるとしたら最初からNFTを使わなければよく、NFTは無駄な追加費用に他ならない。

NFTがゴミである理由
NFTは著作権、翻案権をめぐる致命的な脆弱性をいくつも持っている。その大半は何の権利も所有者に与えない詐欺まがいの代物だ。そして複製可能でもある。NFTを扱うということは詐欺師と法律家を儲けさせるということだ。

結論

FTX破綻以降の状況を見守るため、一度プロジェクトを停止し、様子見をしてはどうだろうか。


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