メタバースに夜明けは来るのか?
消費者向けの「メタバース」はまだ技術的にユーザーを唸らせる段階に達しておらず、「仮想現実内の商取引」のようなユースケースの需要が少ないことも明らかになった。試行錯誤はまだ始まったばかりなのかもしれない。
消費者向けの「メタバース」はまだ技術的にユーザーを唸らせる段階に達しておらず、「仮想現実内の商取引」のようなユースケースの需要が少ないことも明らかになった。試行錯誤はまだ始まったばかりなのかもしれない。
10月初旬にMetaが発表した、1,499ドルの「Meta Quest Pro」は「最先端のヘッドセット」であることは間違いない。Quest Proは、399ドルのMeta Quest 2の高価格帯バージョンで、人間工学的デザインの改善からプロセッサーのアップグレードまで、いくつかの点でMeta Quest 2を改良している。MetaはQuest Proをハイエンドに位置づけ、MicrosoftやAccentureなどと契約を結び、シミュレーショントレーニング装置や3Dデザインツール、あるいはバーチャル会議室などの用途でアピールしている。
しかし、顧客のニーズを満たしているかはよくわからない。「実際のところ、Meta Quest Proは、特定のニーズを満たすというよりも、次世代技術のテストに向けた、非常に洗練された開発キットのように思える」とThe VergeのAdi Robertsonは書いている。「実際のユーザーベースを獲得するかどうかは別として、Quest Proは次に来るもののための練習台のように思えるのだ」。
MetaはQuestProのプロ用途での「キラーアプリケーション」を挙げることができなかった、とニューヨーク・タイムズで10年以上コンシューマ向けテクノロジーを取材してきたブライアン・X・チェンは書いている。過去7年間に作られた、8つのVRヘッドセットを試したことがあるチェンは、QuestProはその前身のQuest2のために作られたゲームをプレイするのに最高のハードウェアである、と言う。
「クエスト・プロはゲームをするのに向いていて、主にエンターテインメントに使われるという第一印象は、いずれも悪いものではないでしょう。軽量でワイヤレスのヘッドセットで、視覚的に美しく、没入感のあるゲームができるということは、VRが10年足らずの間に大きく進歩したことを意味します」。これはMetaの思惑とは食い違う。
同社の開発者向けイベントMeta Connect 2022で発表された主要ニュースは、Microsoftとの契約により、Meta Questデバイスで、Microsoft 365アプリ、Mesh for Teamsと同様に、Windows 365(Windowsのストリーム版)を利用できるようになったことである。
しかし、Meta QuestのヘッドセットでMicrosoftのソフトウェアを体験したいと思う人がいるのだろうか?
メタバース担当バイスプレジデントであるVishal Shahは最近、同社独自のHorizon Worldsの品質に問題があり、従業員ですら余り使っていないと叱ったことがリークされた社内メモで明らかにされている。
ザッカーバーグは、メタバース部門のReality Labsの活動を4つのカテゴリーに分類している。「メタバース」プラットフォーム、そしてVR、AR、ニューラル・インターフェース・ハードウェアだ。
メタバース・プラットフォームでは苦戦の色合いが濃い。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、Metaは当初、消費者向けメタバースの主力製品となる「Horizon Worlds(ホライズン・ワールド)」の月間アクティブユーザー(MAU)を2022年内に50万人に増やすことを目標に掲げていたが、最近その目標を28万人に下方修正した。WSJが取得した社内文書によると、現在のMAUは20万人に満たない。WSJによると、ホライズンを訪れた人の大半が最初の1カ月を過ぎるとおおむねアプリを使うのをやめており、ユーザー数は春以降、減少し続けているという。
WSJの報道によると、ゲーム内のユーザーが作成したワールドのうち、50人以上のプレイヤーが訪れるのは約9パーセントに過ぎないという。残りの大半は、最初の作成者以外が訪れることはない。その結果、多くの空っぽの不毛なデジタルランドができあがる。スーパーボウルのマーケティング活動の一環としてMetaが作成した「Questy’s」の世界でさえ、訪れるユーザーがほとんどおらず、大失敗に終わっているという。
他のメタバースの苦戦具合はもっと残酷だ。データプロバイダーDappRadarによると、メタバースプラットフォームDecentralandの日間アクティブユーザー(DAU)は19(10月9日14時31分時点)で、競合のThe Sandboxはその同じ時間にDAUは3(10月9日14時31分時点)だった。DecentralandとThe Sandboxはともに企業価値が10億ドルを超える。いわゆるユニコーンだ。
これに対して、Decentralandは急遽ブログで、同社のメタバースは実際には8,000人のDAUがいると主張した。しかし、このブログの主張はおかしく、9月の月間アクティブユーザー(MAU)の数である56,697を30で割ると、1,866になる。
DappRadarはメタバース内でのNFTでトランザクションに至ったユーザーの数を「アクティブユーザー」と定義していた。しかし、正味の来訪者数も1,866人に過ぎず、実際のNFT購買に至った人の数は20人足らずだったため、やはり、少ないことに変わりがない。またNFTの購買自体はその性質上追跡が難しく、その真贋を見決めるのに相応のコストがいる(ただ、20人しか買い手がいないのだから、取引の正当性を確かめるのは容易だ)
1日にたった2,000人のユニークビジターがこのプラットフォームと関わっている間は、Decentralandがソーシャルプラットフォームやデジタルメディアの代替になるとは思えない。同社はブログで「界隈特有の言葉遣い」によって、自社の将来に関する楽観主義を披露した。
「Decentralandのゴールは楽しくて面白いプラットフォームで、盛んなコミュニティで人々を教育し、Web3の哲学と技術に参加させ、クリエイターに力を与え、大衆がなぜ分散化が重要かを理解したとき、実行可能なオプションが利用でき、インターネットの次の繰り返しが一握りの企業によって独占されないことを望んでいます」
人々が仮想空間で何をしたいのか、もう一度考え直す時が来ている。少なくともNFTの売り買いではないようだ。しかし、熱心な支持者にとって朗報もある。インターポールが独自のメタバースを立ち上げるそうだ。その意図はまだ伺いしれないが…。