ソフトバンクGはどれくらい苦しいか?

ソフトバンクグループ(SBG)が苦境に直面している。ビジョンファンドは不振にあえぎ、負債がうず高く積み上がるなか、アームの現金化は叶わなかった。そして昨年から幹部の離職が止まらない。複雑な構造で外部に情報を閉ざすテック帝国は、実際、どのくらい苦しいのか?

まず、ビジョンファンドの苦境だ。第1号ファンドの「ビジョンファンド1」は12年から14年の投資手段として2017年にローンチされたが、連結財務報告書によると、投資資金の59.5%は12月31日時点で撤退した投資先やすでに上場した企業で、その投資期間は5年も経っていない。昨年末までに行われた上場のうち、3分の1近くは、テクノロジー株に逆風が吹き始めた2021年第4四半期に行われたものだ。

SBGはテック株の逆噴射によってダメージを受けている。2021年通年でナスダック総合株価指数は昨年58%高騰したが、2022年第1四半期には15%下落した。WSJが引用したS&P Capital IQのデータによると、12月31日時点でビジョンファンド1に組み入れられている22社の株式は、4月6日時点でそれぞれの初値から平均38%近い損失を出している。

今年2月に行われた2021年10−12月期の決算報告にはこれらの損失は織り込まれていない。

2019年に立ち上げられた若い「ビジョンファンド2」は茨の道を進む可能性がある。これまでビジョンファンド2で行った209件の投資のうち、上場はわずか13件である。市場環境の悪化を考えると、2022年は上場が先送りされる年になる可能性が高いように思われる。

WSJが引用したS&P Capital IQのデータによると、これまでに公開されたビジョンファンド2の投資案件は、4月6日の時点でそれぞれの初値から平均51%下落している。

ビジョンファンドの投資先が将来IPOを行う際には公開市場の投資家が消極的になる可能性もあるだろう。中国の配車企業DiDi Global(滴滴出行)、東南アジアのグラブ、インド決済企業Paytmeを運営するOne97 Communicationsなど、最近の上場のパフォーマンスがことごとく低かったことは投資家の記憶に留め置かれている。

投資縮小と不採算部門の整理

最近もSBGが経営環境の悪化によって守勢に回っていることを印象づけるニュースが続いている。

孫は先月、社内で新規投資の縮小を求めたと言われる。フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、孫はここ数カ月の保有株式の価値の大幅な下落に対応するため、最近の会議で経営陣に対して、投資を減速しなければならないという発言をしたようだ。

ソフトバンク、保有株の暴落を受けて投資を縮小へ
ソフトバンクグループの創業者である孫正義は、ハイテク株の下落や中国での規制強化の中で、同社が資金調達を必要としており、投資を減速しなければならないことを経営トップに警告した。

SBGは最近、悪名高い「ナスダックのクジラ」と呼ばれた社内ヘッジファンドを精算したようだ。FTによると、同社は累計60億ドルから70億ドルの損失を出した「SBノーススター」のほぼすべてのポジションを清算。元ドイツ銀行のトレーダーでこの部門を運営していたアクシャイ・ナヘタは、3月末にソフトバンクGを去ったという。

ソフトバンクG、「ナスダックのクジラ」部門の大半を清算
ソフトバンク、「ナスダックのクジラ」取引部門のポートフォリオの大半を清算した。短命に終わった「SBノーススター」は60〜70億ドルの損失を積み上げていた。

幹部の離職が止まらない

昨年から幹部の大量離職が伝えられていたが、その勢いは弱まっていない。最近退職者のリストに新たに加わった大物は、孫の重要な補佐役の一人であるマルセロ・クラウレ最高執行責任者(COO)だ。彼は給与に関する激しい論争の後、1月にソフトバンクを去っている。

ソフトバンクGナンバー2の報酬トラブルが発するシグナル
ソフトバンクG幹部のマルセロ・クラウレが、会社の提示と二桁違う報酬パッケージを要求し波紋を広げている。南米でのベンチャー投資で非凡な実績を作ったクラウレは、会社が窮地に陥る中、SBGからの出口を探っているのだろうか。
ソフトバンクの苦境は増すばかり
【ニューヨーク・タイムズ】利益の急落、株価の低迷、給与問題による主要幹部の退任など、問題は山積している。ソフトバンクは、その自由奔放なやり方を抑制できるのか?

最近、さらに二人の幹部の退任が確定した。孫の側近として長く活躍したロン・フィッシャーはビジョン・ファンドの米国部門の責任者を退任することになった。孫個人の上級顧問には留まる。悲しい記憶となった100億ドル超のWeWorkへの投資に賛成し、投資後は同社取締役に就任して、その戦略や成長計画について経営陣と最も近いところで働いたのはフィッシャーだったと言われる

2017年にソフトバンクに入社した元ゴールドマン・サックスのバンカー、マイケル・ローネンも3月末日でビジョン・ファンドの米国投資のマネージング・パートナーを退任することになった。彼はGetaround、Cruise、Nuroといった交通・物流のスタートアップ企業への賭けを主導していたという。

不透明な負債比率

SBG自体も、見た目以上に負債を抱えている。WSJが引用したブルームバーグ・インテリジェンスのデータによると、同社のLTV(純負債/保有株式)はすでに規定値を超えているという。金利先渡契約を借入金と資産総額から除外し、SBノーススターとビジョンファンド2の偶発債務と純負債を含めると、ソフトバンクのLTVは最近36%を超えていたと同社は分析している。

ソフトバンクはこの比率を「金融市場の平時には25%以下、非常時にも35%を上限に管理する」方針だとしている。ソフトバンクの会計報告によると、12月31日時点の資産価値に対する貸付金の比率は21.6%であった。

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なぜ、このようなLTVの差分が生まれるのか? ソフトバンクが公表するLTVには、一部の負債が含まれておらず、同社をめぐる情報開示はパッチワークに過ぎないと指摘されてきた。

英エコノミストによると、格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、ソフトバンクの負債比率の計算方法には同意できないとしている。これに対し、SBGはS&Pが独自の方法で負債比率を算出していると反論している。格付け会社のムーディーズは、負債を負っている投資先の株を担保に借り入れたり、孫自身が自社株を担保に借り入れていたりする資本構造を「流動的で複雑、透明性が低い」と評している。

ソフトバンクの過酷な真実
世界で最も過激なハイテク投資家集団のソフトバンクは見事な復活を遂げた。しかし、その欠点はまだ残っており、次のストレステストが近いかもしれない。

どこまで、SBGが追い詰められているのかは、一握りの経営陣のみが知りうることだろう。あるいは、腕利きのオブザーバーはすでにことの全容を掴んでいるかもしれない。

これらの山積した問題を一挙に好転させるものがあるとすれば、それはSBGの最も重要な資産であるアリババの株価の動向だ。アリババがかつての輝きを取り戻すのなら、負債比率は改善し、新たな資金調達の必要性が生じても、流動性を手に入れられるだろう。

次の決算報告では、孫正義・最高経営責任者(CEO)がどのような話で、ジャーナリストを煙に巻くかが興味深い。決算説明会に招かれている日本のジャーナリストには、非常に複雑なSBGの財務構造は荷が重いようであり、孫はこの間隙を見事に突いてきた。