落ち着け、これはドットコムバブル崩壊じゃない
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落ち着け、これはドットコムバブル崩壊じゃない

基盤の脆い企業が多数派だったドットコムバブルとは、今回は大きく異なる。十分なビジネス実態のある企業を市場で見つけることはそこまで難しくない。たとえその株価が急落していたとしても、だ。

吉田拓史

たった一週間のうちにFTXが海の藻屑と消えた。一時は320億ドルのバリュエーションを誇った暗号資産取引所の行状は、司法機関によって最終的に明らかにされるだろうが、漏れ伝わる話では、その内実は顧客資金の流用と、自ら発行したコインによるバランスシートの穴埋めのようだ。

この「第二のエンロン」の匂いを漂わせる事件によって、連鎖破綻の恐怖が業界全体を覆っている。暗号資産とWeb3はいつ終わるかも定かではない長い冬眠を強いられそうだ。

株式市場のテック株のパフォーマンスもひどいことになっている。ナスダック100指数は一年前より28%下落している。Snapのボスであるエヴァン・スピーゲルが流出したメモの中で「2022年の新しい経済現実に激しく打ちのめされた」と書いたのは、テック企業の状況を表現しているようなものだった。

Amazonは、上場企業として世界で初めて1兆ドルの時価総額を失った会社となった。同社は1万人もの従業員を解雇する準備を進めていると報じられた。Meta Platformsの株価は2021年9月の最高値から70%以上失われ、従業員の13%に当たる1万1,000人の削減を決定した。

彼らだけではない。Microsoft, Salesforce, Stripe, Lyft, Intel, Coinbase, Robinhood…とテクノロジー企業は競うようにレイオフを行っている。レイオフ追跡サイトlayoffs.fyiによると、今月だけで72社で2万4,000人以上のテックワーカーが解雇され、今年に入ってから失われたテックワーカーの雇用は合計で12万人に上るという。

このような環境下で、現在の状況とドットコムバブルとの類似性を煽る言説は多くある。

ワシントンポストのGerrit De Vynckは「暗号通貨の崩壊、Metaのレイオフ、Twitterの大虐殺が技術業界を揺るがしている。20年前のドットコムクラッシュを彷彿とさせる」と書いている。Vynckに言わせると、レイオフの嵐は「シリコンバレーで巨額の富をもたらした過去10年の強気相場が明らかに終わった」兆候だという。

米メディアAxiosのSara Fischerは、ハイテク企業の解雇の波はドットコムバブルを彷彿とさせるとCNNで語っている。ラリー・サマーズ元米財務長官もこの流れに追随した一人だ。パンデミック中ブームになり、パンデミックが去ると墜落したペロトンは、ドットコムバブルにおける「Pets.comにあたる」と語る始末だ。

日本では「めいろま」こと谷本真由美は言論プラットフォーム・アゴラで「ネットバブルの頃にそっくり」と自身の大学院時代の経験を振り返って書いている。株式会社ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役の田渕直也も、会社四季報オンラインで、現在とドットコムバブルの類似性を強調した論考を公開している。

しかし、これらの言説は煽りすぎではないだろうか。テクノロジー業界を見てみると、一部の「季節的な企業」(特にWeb3、暗号資産)はたしかに退出を迫れているように見えるが、デジタル経済が消え失せようとしているわけではない。ビッグテックと言われる大手企業は変わらず膨大な利益をあげている。

テクノロジー企業は、パンデミック時の商取引のデジタル化の恩恵を受け、その多くは驚異的な収益成長を享受していた。最近になって成長の鈍化傾向が見られ、一部の企業でパンデミック時に急膨張した人員を整理しているというのが、実態に近いだろう。

Amazonは、投資が過剰だったテクノロジーの典型例で、パンデミック時に急拡大した物流拠点とその拠点で働く倉庫労働者への投資が多すぎたため、調整を進めている。しかし、最近の業績を見ると、特に脆弱性は見当たらない。Amazonは2022年第3四半期(Q3)25億ドルの営業利益を計上し、現金は十分にある。特にAWSが心強いキャッシュ・カウになっている。

MetaはQ3に収益が前年同期比4%縮小し、非難が集中しているメタバース関連にこの期間だけで37億ドルを使った。この支出を計上しても会社には営業利益が56.6億ドル残っている。しかも、同社には現金と現金同等物、流動化可能な証券が417億ドルもある。今年だけで100億ドル以上を燃やす見込みのメタバースへの投資だが、実際には既存ビジネスで吸収可能な範囲で行われている。

一方、Apple, Alphabet, Microsoftの3社は「揺るぎない」の一言である。この3社は、7-9月期だけで、営業利益が210億〜250億ドルのレンジにある。彼らは当方もなくキャッシュリッチでAlphabetとMicrosoftは1,000億ドル以上のキャッシュの上に鎮座している(彼らにお金を使うようインセンティブを与えるほうがいいのではないか?)

もちろん、上場テクノロジー企業のうちペロトンのような脆弱な企業があるのは疑いようがない。特に特別目的買収会社(SPAC)との合併で上場したような企業や、1,100社以上のバリエーション10億ドル以上の未上場テクノロジー企業(ユニコーン)が、収益化以前の段階にあり、資金調達のパイプラインが厳格化した今、淘汰が避けられない側面はあるだろう。

だが、そのような基盤の脆い企業が多数派だったドットコムバブルとは、今回は大きく異なる。十分なビジネス実態のある企業を市場で見つけることはそこまで難しくない。たとえその株価が急落していたとしても、だ。