マイクロソフト、アップルを追い抜き時価総額世界一となるか[英エコノミスト]
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マイクロソフトは長年にわたり、オフィス・ソフトウェアを使って報告書を書いたり、スプレッドシートに入力したり、スライドショーを作成したりするよう、オフィスワーカーを説得してきた。いまのマイクロソフトに、もはやその必要はない。シアトル郊外の緑豊かなレドモンドにある本社で、同社は最新のワザを披露している。板ガラスの窓の向こうには雪を頂いた山々が輝き、松の木が揺れている。内部では、小さなグレーの長方形が白紙のワード文書の上部に置かれている。
人工知能(AI)を搭載したチャットボット(マイクロソフトでは「Copilot」と呼んでいる)が、2、3の指示でコンピュータのフォルダにある膨大なファイルを探し出し、その内容を要約する。その後、自分の仕事を編集し、資料に関する質問に簡潔に答える。他にも、特定のトピックに関するEメールを探し出したり、ミーティングをもとにToDoリストを作成したり、通信相手に関するパワーポイントのプレゼンテーションを作成したりと、さまざまな芸当ができる。
これは仕事の未来を垣間見るものだ。生成AIの驚異的な能力は 、多くのデスクワークを一変させそうだ。それはまた、かつて世界で最も価値のある上場企業であったマイクロソフトの未来を垣間見ることでもある。マイクロソフトは、変革の原動力となるテクノロジーを販売することで、その座を取り戻したいと考えている。人気の高いAIチャットボットChatGPTを開発した新興企業OpenAIへの投資を通じて、同社は最先端のAIを自社製品に注入することができる。
「副操縦士」のAI
それは、11月に展開される同社のオフィスワーク・ソフトウェア(以前は「Office」と呼ばれていたが、最近「Microsoft 365」としてリブランディングされた)にCopilot (副操縦士の意)を追加することを意味するだけではない。今週、同社はオペレーティング・システムであるWindows用のCopilotを発表する。販売用ソフトウェアと人事向け製品のCopilotはすでに利用可能だ。セキュリティー・ソフトウェア用も開発中だ。マイクロソフトは2月、検索エンジンのBingにChatGPTのような機能を追加した。マイクロソフトはCopilotの戦隊とともに、ビジネスのほぼすべての側面に生成AIを挿入しようとしている。
これはおそらく、どの企業にとってもAIに対する最大の賭けだ。賞金は莫大なものになる可能性がある。Copilotは、Microsoft 365を利用する12億人とWindowsを利用する14億人の仕事の世界を変える可能性がある。これによってマイクロソフトは新規顧客を獲得し、より多くの料金を請求できるようになる。その結果、マイクロソフトの高収益クラウド事業であるAzureへのビジネスが促進され、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を抜いて世界最大のクラウド企業になる可能性もある。マイクロソフトの評価額が現在の23億ドルを上回り、現在世界で最も価値のある企業であるアップルとの差を縮める可能性さえある(図表1参照)。

事実上、AIはマイクロソフトに、これまで実現できなかったことを実現し、マイクロソフトが提供するすべてのものを統合する、魅力的なチャンスを提供している、と証券会社であるバーンスタインのマーク・モアードラーは主張する。マイクロソフトのビデオ会議サービスであるTeamsは、Outlookで従業員の電子メールを整理し、Word文書やPowerPointから情報を呼び出すことができるCopilotを備えていれば、ライバルのZoomよりも管理者にとって魅力的かもしれない。このワザはすべてAzureを通じて提供され、マイクロソフトのビジネスをさらに後押しする。
とはいえ、マイクロソフトも大きな賭けに出ている。来年の設備投資額は、ほぼ5分の2の約400億ドルに跳ね上がると予想されている。これはマイクロソフトの売上高のほぼ16%に相当し、フェイスブックの親会社であるメタを除けば、他のどの巨大テック企業よりも高い割合である。その多くは、オンライン化を計画している120以上のデータセンターに導入される新しいAIチップと高性能ネットワーキングに費やされる。このような投資が報われるかどうかは未知数だ。Copilotは有望ではあるが、まだ多くの問題を抱えている。競合他社、特にアルファベット(グーグルの親会社)は同じ市場を狙っている。仕事の未来をめぐる戦いが過熱するなか、マイクロソフトの地位はうらやましいものではあるが、揺るぎないものではない。