3,300億円を溶かしたソフトバンク出資のカテラ破綻の顛末

ソフトバンクGが20億ドル余りを出資したカテラは夏の初め頃、経営破綻した。社内では売上の水増しのような奔放な財務が幅をきかし、建築技術に欠ける同社は多くのプロジェクトを赤字で受注していた。

3,300億円を溶かしたソフトバンク出資のカテラ破綻の顛末
Image via Katerra.

要点

ソフトバンクGが20億ドル余りを出資したカテラは夏の初め頃、経営破綻した。社内では売上の水増しのような奔放な財務が幅をきかし、建築技術に欠ける同社は多くのプロジェクトを赤字で受注していた。

1. カテラの破産申請

建設会社のカテラは6月、米国連邦破産法第11章(チャプターイレブン)に基づく救済を申請した。現在、会社は精算に向けて手続きを進めている。

カテラはより経験豊富な業界人を取り込むために、建設、デザイン、照明、リノベーションに関わる伝統的な企業14社を買収。2017年春から2019年秋の間に、同社の従業員数は550人から8,500人へと約16倍に増加した。

しかし、事業拡大の反面、カテラはあらゆるプロジェクトで大幅な建設遅延を引き起こし、損失を計上していた。建設契約を保証する保険会社は「法外な」担保を要求するようになり、銀行はさらなる融資を断念するようになった。最後はカテラに20億ドル近くを投じたソフトバンク・ビジョン・ファンドは、同社を精算することを決断した。

最終盤では、最大の投資家であるソフトバンクが、他の投資家の出資金を帳消しにするレスキュー・ファイナンスを実施し、カテラの企業価値を40億ドル以上から4億ドル以下へと、少なくとも90%以上も引き下げ、資金を融通したことで、カテラは一時的に救われた。

それでも、数カ月後にはカテラの命運は絶たれた。カテラは「カテラの元融資者の予期せぬ破産申請」により、建設プロジェクトの保証金や追加の資金を確保できなかったこともあり、同社の財務状況は急速に悪化したと説明している。

ここでいう「元融資者」とは3月に破産を申請した売掛債権融資大手のグリーンシル・キャピタルだ。グリーンシルはソフトバンクからの資金をカテラに還流させ、カテラの破産を食い止めていた。

2018年以降、ソフトバンクの投資が突出。破産申請書より.
2018年以降、ソフトバンクの投資が突出。破産申請書より.
レスキューファイナンスの結果、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)がカテラの「身元引受人」となった
レスキューファイナンスの結果、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)がカテラの「身元引受人」となった

2. グリーンシルからの資金還流

ソフトバンクからの資金還流については、カテラの破産申請書に複雑な三者取引が記載されている。

  1. カテラはまずグリーンシルに5%の株式を提供し、グリーンシルは4億4,000万ドルと引き換えにカテラ株5%をソフトバンクに譲渡。
  2. グリーンシルはこの4億4,000万ドル を、売掛債権を担保としてカテラに融資した。そのお金はカテラのサプライヤーへの支払いに使われた。
  3. グリーンシルの融資を証券化した金融商品を富裕層の顧客に売り、顧客に大損させたクレディ・スイスはソフトバンクとの関係を断ち切り、グリーンシルがカテラに貸し付けた顧客資金4億4000万ドルを回収するために日本企業を訴えることを検討しているとされた。
クレディ提訴はソフトバンクのアキレス腱 グリーンシル問題
グリーンシルからSVFポートフォリオ企業への資金供給の理由

3. カテラの事業とは?

カテラの建築部材製造を受託していたインドの工場. 破産申請書より.
カテラの建築部材製造を受託していたインドの工場. 破産申請書より.

カリフォルニア州メンロパークを拠点とするカテラは、電子機器メーカーのFlextronics Internationalの元CEOであるマイケル・マークスを中心とした起業家グループによって2015年に設立された。

カテラがやりたかったのは、いわゆる「モジュラー建築(Modular Construction)」と呼ばれるもので、管理された工場の条件下で、従来の建築物と同じ材料を使用し、同じ規格に基づいて設計された建築物を、約半分の時間で建設する。建物は"モジュール"として製造され、現場で組み立てると、まるでレゴブロックを組み立てるみたいに、最も洗練された現場建設の施設と同じ設計意図と仕様が、妥協することなく反映されるというものだった。

カテラの戦略の要点は、エレクトロニクス業界のエンドツーエンドの製造プロセスを建設事業に導入することだった。シンクや蛇口などの資材や備品を大量に購入し、建設部材として仕上げ、中間業者を通さずにゼネコンに直接販売するというものだ。

自社の工場で組み立てられた部品で物件を作り、自社の建設事業者が管理する現場に出荷する。それをカテラのソフトウェアを使って、自社の建築家が設計したマンションやホテル、オフィスに「組み立てる」という垂直統合型のアプローチだ。これにより、従来の建設プロセスでは何ヶ月もかかっていたアパートの建設が、最短30日で可能になるはずだった。

「K3」プラットフォームは、レゴブロックのように建築物を作るための肝とされ、地域を問わず最大限の使いやすさを備えた、高品質で費用対効果の高い製品を実現すると謳われていたが、実際には一つ一つの複雑な建築要件に対応できなかった. 破産申請書より.
「K3」プラットフォームは、レゴブロックのように建築物を作るための肝とされ、地域を問わず最大限の使いやすさを備えた、高品質で費用対効果の高い製品を実現すると謳われていたが、実際には一つ一つの複雑な建築要件に対応できなかった. 破産申請書より.

建築現場ではなく会議室では並外れた計画のように聞こえたかもしれない。「従来の建築業界は、部材調達から配送・ディーラー・下請け業者・ゼネコンまで、長いサプライチェーンが特徴だった。しかし、それでは手数料や相互連絡といった無駄が多く、余分なコストや時間を要する。そこでカテラは、資材調達から建設までを垂直統合し、サプライチェーンの最適化を目指す」。このようなストーリーは“建築分野に知識の浅い投資家”なら関心を持ってしまうものだろう。

モジュラー建築では、建設資材管理のデジタル化も付随する。カテラの資材にはICタグが付けられ、現場の電子機器でタグを読み込むことで、組み立て方の動画が見たり、出荷状況を確認したりできる。「BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)」という3D設計データも用いて、デザインから施行までの情報共有を行う。さらにICタグやBIMもERP (統合基幹業務システム)によって管理される。

しかし、現実は違った。WSJの取材によると、カテラは、単一の種類の建物を大量生産するのではなく、オフィス、ホテル、一戸建て、集合住宅など、さまざまな高さの建物を建てていた。そのため、工場でプレハブ部品を大量生産することが難しく、3階建てのマンション用に設計された壁パネルが10階建てのビルには使えないため、コストを下げることができなかったと元社員はWSJに語っている。

当初は建築物の部品をゼネコンに納入するビジネスモデルを目指していたが、ゼネコンが自社製品を使ってくれない事がわかると、カテラはゼネコンを買収し、より垂直統合のアプローチを先鋭化した。また、買収したゼネコンは、カテラから部品を購入することを嫌がり、以前からの下請けやサプライヤーを好むことが多かったと、関係者は人々は語っているという。

4. 財務諸表の操作

The InformationのCory Weinbergの調査によって、カテラが失敗した経緯が克明にレポートされているので、これらをかいつまんで説明していこう。

カテラのように不動産デベロッパーから依頼を受けたコントラクターは、通常、完成した仕事の代金を受け取る前に、プロジェクトのコストに利益が出るようなパーセンテージを加えて計算した収益を毎月計上しなければならない。これは、建設業をはじめとするプロジェクトベースの業界では一般的だ。

カテラのリフォーム部門では、収益目標を達成するために、社員が電気工事や配管工事などの専門業者である下請け業者に、通常とは異なる方法で未完成の工事の請求書を提出させた。カテラは、その請求書をもとにプロジェクトのコストを再計算し、その時点で本来よりも数百万ドル高い収益を見積もっていた。この問題に詳しい人物によると、この作業は最終的に完了し、カテラにはその作業に対する報酬が支払われたという。

カテラの従業員10人から20人が関与したこの工作は、従業員が名乗り出たことで、1ヶ月に及ぶ内部調査が行われたと、この件に詳しい人物は語っている。昨年秋には、調査の結果、少なくとも2人の管理職が解雇された。関係した別の幹部はすでに会社を去っていた。カテラの従業員が顧客に過剰請求したという証拠は見つけられなかった。

WSJは以前、同社が不正な財務慣行を調査し、その結果、従業員を解雇したと報じていた。マークスと交代したCEOは今年になって、2020年5月の米国でのリフォーム事業において「不適切な収益認識の可能性がある」ことを公に認めていた。

2020年8月、カテラが雇った法律事務所は、マイケル・マークス最高経営責任者(CEO)に書簡を送り、調査の結果、マークスの在任中に同社の財務諸表が「意図的に虚偽記載」されていた可能性が高いことが判明したという。

この収益の前倒し問題は2020年12月に最高潮に達し、投資家はカテラを資金不足で訴えた。最終的にカテラの取締役会は、会計調査を開始する1ヵ月前に、マークスの監督下でカテラが継続的に財務目標を達成できず、同社が調達した20億ドル以上の資金を使い果たしたとして、マークスを解雇するに至った。

Weinbergが引用したこの件に詳しい2人によると、カテラの株主は「収益前倒し操作」について証券取引委員会に報告。SECはこの件を調査したという。

破綻時のカテラの企業構造。ケイマン諸島の持株会社からデラウェア法人を経由して32のエンティティが紐付けられている。
破綻時のカテラの企業構造。ケイマン諸島の持株会社からデラウェア法人を経由して32のエンティティが紐付けられている。

5. 奔放な財務

他にも、一部の従業員の間で懸念された問題があった。現場で働く人の中には、カテラの無駄遣いに不満を抱く人もいた。2017年に家業のゼネコンを経営からカテラの建設プロジェクトの管理を手伝うようになった従業員は、同社の自由に使う文化に衝撃を受けたという。「人々はビジョンにとらわれすぎて、建設における本当に基本的なことに十分な注意を払っていなかった」「誰もがクレジットカードを持っているようで、説明責任もなく、人々はただ暴走していた」。

また、5年間で5人のチーフ・ファイナンシャル・オフィサー(CFO)が交代した。プロジェクトのコスト管理を担当する役員は、カテラが作っている壁パネルや購入している建設資材に関する財務情報を把握していなかった。

Weinbergの調査 によると、2016年から2020年までカテラで財務計画と分析を担当していたマット・ジョンソンは、同社は新しい会計ソフトの導入に苦労し、建設費の過小評価を繰り返していたと語っているという。 カテラの損失は、2018年に2億ドル以上に達したと、この件に詳しい2人の関係者が語っているという。この損失は、カテラが不動産開発のために契約価格を超えて支出した金額を表しており、同社の全体的な営業コストは含まれていない。

6. 建築技術・経験の欠如

建設途中のアリゾナ州フェニックスの複合施設「X Phoenix」。"X Phoenix - New Housing Project Under Construction" by Tony Webster is licensed under CC BY 2.0
建設途中のアリゾナ州フェニックスの複合施設「X Phoenix」。"X Phoenix - New Housing Project Under Construction" by Tony Webster is licensed under CC BY 2.0

カテラは「できる以上のこと」を約束している兆候があったとされる。

Weinbergの取材によると、ベイエリアを拠点とするデベロッパー、Sobrato Organizationの不動産担当社長であるRob Hollisterは、2018年にカテラから、カリフォルニア州サニーベールに250戸のアパートを建設する際に、従来の建設会社よりも約10%安く建設できると聞いたという。カテラとSobratoは建設の準備に6カ月以上を費やしたが、カテラが主張した価格では建物を建設できないと発注側のSobratoが判断したため、破談になったとホリスターは語った。

最近では、カテラに出資している不動産開発会社Legacy Partnersのために、ベイエリアで2つのプロジェクトを手がけた。Legacy PartnersのCEOであるディーン・ヘンリーによると、そのうちの1つのプロジェクトは予定より1年遅れているという。マークスは「建設業者というよりも、セールスマンだった」と語っている。

カテラは、共同設立者の一人であるフリッツ・ウォルフが経営するアパート開発会社の仕事でも躓いた。ウォルフは、米国最大級のアパート開発会社「ウォルフ・カンパニー」の会長で、マークスとは長年の付き合いだった。カテラは2017年、ウォルフ・カンパニーのために、現在の市場価格よりも12%の割引価格で、郊外のアパートを次々と建設することに合意した。しかし、建設業者としての経験が少ないカテラは、クライアントへの提案価格以下まで、コストを下げることができず、赤字のまま事業を行うこととなった。

カテラの工場では、部材を出荷するのに苦労した。また、建築現場に部材を運んだ後、大掛かりな手直しをしなければならないものも多かったとされる。レゴブロックのように建築物を組み立てるためのレゴの品質が十分ではなかった。

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