米退職ブームは高賃金職への大移動の兆し?

米国では低賃金労働のセクターにおいて大量の退職が観測されている。一部の専門家は、これがより高い賃金を提供するセクターに労働者が移動していることの証拠であると主張している。

米退職ブームは高賃金職への大移動の兆し?
Photo by Marcel Heil on Unsplash

米労働統計局が1月上旬に発表したデータによると、11月に自発的に仕事を辞めた人の数は450万人を超えた。これは、10月の420万人から増加したもので、政府が記録を残してきた20年間で最も多い数字になった。

余暇・ホスピタリティ分野だけでも、過去最高の100万人が仕事を辞めた。その一方で、雇用は好調で、求人数はわずかに減少するに留まった。これは、労働者が永久に仕事を辞めているのではなく、転職していることを示唆している。

これらは「大辞職(Great Resignation)」と呼ばれる。離職率は宿泊・飲食サービス、医療・社会扶助、運輸・倉庫・公益事業といった伝統的に低賃金のセクターに集中しており、従業員の獲得競争が激しいため、労働者はより良い賃金を求めて行動している。

一部の労働者にとっては、経済の再開を急ぐことで、給与や労働条件の改善を要求できる貴重な機会となっている。しかし、簡単には転職できない人や、需要がそれほど高くない分野にいる人にとっては、給与の上昇は控えめで、インフレの加速に圧倒されている。アトランタ連邦準備銀行のデータによると、転職者は、仕事にとどまっている人に比べて、かなり速いペースで給与が上昇している。

出典:アトランタ連銀

多くの労働者は、より多くの給料とより良い福利厚生を求めて離職している。これは、雇用主が不足している労働者を獲得するために報酬パッケージを大きくしているためだ。賃金と福利厚生の変化を示す雇用コスト指数は、12月に前年同月比で4%上昇した。これは過去20年間で最も急激な上昇である。

2021年のほとんどの期間、アメリカの指導者たちは、インフレは一時的なものだと言っていた。しかし、物価の上昇を目の当たりにした労働者が賃上げを要求し、労働者に多くの給料を支払わなければならない企業がより高い価格を設定するという、賃金・価格スパイラルが発生するのではないかという懸念も存在する。

グレートアップグレード

しかし、ホワイトハウス国家経済会議の副議長であるバラット・ラマムルティは、この辞職とより高い賃金を模索する動きを「大辞職」ではなく「大いなるアップグレード」と呼んでいる。Economic Policy Institute(経済政策研究所)が作成した、低賃金部門での退職率の高さを示すチャートを示した。産業別に辞めた人と雇った人の割合を比較したチャートだ。

実際、ニューヨーク連邦準備銀行の労働市場調査によると、大卒未満の労働者の賃金期待値は急上昇しているという。彼らが新しい仕事のために受け入れたいと思う最低賃金は、2019年11月から2021年11月までに約16.5%伸びている。Indeedのエコノミストであるニック・バンカーはTwitterで、労働者が新しい仕事にどれだけ期待しているかの全体的な増加は、大卒未満の労働者が牽引していると指摘している。

労働の優先順位に変化?

現金給付によって米国人は働かずに失った収入を補うことができた。その結果、人々は消費を続けることができ、それが労働需要を支えることになった。

証拠は見つからないが、パンデミックが労働者の優先順位を見直す文化的な変化を引き起こした可能性は考慮に入れられてもいいだろう。労働無しで消費を続けられた期間によって怠け者になったり、権利意識が強くなった人もいれば、何か新しいことに挑戦したいと思ったり、シンプルな生活の楽しさを知ってお金をあまり欲しがらなくなった人もいる。

より急進的な主張をする人たちも観測されている。米国版5ちゃんねるのレディットのカテゴリのタイトルには「アンチワーク(反労働)。金持ちだけではなく、すべての人に失業を!」と書いてある。このカテゴリでは多くの人が会社を辞めるべき理由を投稿している。これは、もしかしたら一部の人々はもともと低かった労働の優先順位を更に低くした可能性があることを示唆している。

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新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

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世界が繁栄するためには、船が港に到着しなければならない。マラッカ海峡やパナマ運河のような狭い航路を通過するとき、船舶は最も脆弱になる。そのため、スエズ運河への唯一の南側航路である紅海で最近急増している船舶への攻撃は、世界貿易にとって重大な脅威となっている。イランに支援されたイエメンの過激派フーシ派は、表向きはパレスチナ人を支援するために、35カ国以上につながる船舶に向けて100機以上の無人機やミサイルを発射した。彼らのキャンペーンは、黒海から南シナ海まですでに危険にさらされている航行の自由の原則に対する冒涜である。アメリカとその同盟国は、中東での紛争をエスカレートさせることなく、この問題にしっかりと対処しなければならない。 世界のコンテナ輸送量の20%、海上貿易の10%、海上ガスと石油の8~10%が紅海とスエズルートを通過している。数週間の騒乱の後、世界の5大コンテナ船会社のうち4社が紅海とスエズ航路の航海を停止し、BPは石油の出荷を一時停止した。十分な供給があるため、エネルギー価格への影響は軽微である。しかし、コンテナ会社の株価は、投資家が輸送能力の縮小を予想している

By エコノミスト(英国)
新型ジェットエンジンが超音速飛行を復活させる可能性[英エコノミスト]

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1960年代以来、世界中のエンジニアが回転デトネーションエンジン(RDE)と呼ばれる新しいタイプのジェット機を研究してきたが、実験段階を超えることはなかった。世界最大のジェットエンジン製造会社のひとつであるジー・エアロスペースは最近、実用版を開発中であると発表した。今年初め、米国の国防高等研究計画局は、同じく大手航空宇宙グループであるRTX傘下のレイセオンに対し、ガンビットと呼ばれるRDEを開発するために2900万ドルの契約を結んだ。 両エンジンはミサイルの推進に使用され、ロケットや既存のジェットエンジンなど、現在の推進システムの航続距離や速度の限界を克服する。しかし、もし両社が実用化に成功すれば、超音速飛行を復活させる可能性も含め、RDEは航空分野でより幅広い役割を果たすことになるかもしれない。 中央フロリダ大学の先端航空宇宙エンジンの専門家であるカリーム・アーメッドは、RDEとは「火を制御された爆発に置き換える」ものだと説明する。専門用語で言えば、ジェットエンジンは酸素と燃料の燃焼に依存しており、これは科学者が消炎と呼ぶ亜音速の反応だからだ。それに比べてデトネーシ

By エコノミスト(英国)
ビッグテックと地政学がインターネットを作り変える[英エコノミスト]

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今月初め、イギリス、エストニア、フィンランドの海軍がバルト海で合同演習を行った際、その目的は戦闘技術を磨くことではなかった。その代わり、海底のガスやデータのパイプラインを妨害行為から守るための訓練が行われた。今回の訓練は、10月に同海域の海底ケーブルが破損した事件を受けたものだ。フィンランド大統領のサウリ・ニーニストは、このいたずらの原因とされた中国船が海底にいかりを引きずった事故について、「意図的なのか、それとも極めて稚拙な技術の結果なのか」と疑問を呈した。 海底ケーブルはかつて、インターネットの退屈な配管と見なされていた。現在、アマゾン、グーグル、メタ、マイクロソフトといったデータ経済の巨人たちは、中国と米国の緊張が世界のデジタルインフラを分断する危険性をはらんでいるにもかかわらず、データの流れをよりコントロールすることを主張している。その結果、海底ケーブルは貴重な経済的・戦略的資産へと変貌を遂げようとしている。 海底データパイプは、大陸間インターネットトラフィックのほぼ99%を運んでいる。調査会社TeleGeographyによると、現在550本の海底ケーブルが活動

By エコノミスト(英国)