若年層が好むTikTok検索に大きなリスク

世界の若者がTikTokで検索を行うことは定説だ。しかし、検索結果における偽情報の密度は高く、直感的な体験がユーザーに誤った情報を容易に信じさせるリスクがある。しかもそれが中国のキャンペーンである可能性も否定できない。

若年層が好むTikTok検索に大きなリスク
Photo by Solen Feyissa

世界の若者がTikTokで検索を行うことは定説だ。しかし、検索結果における偽情報の密度は高く、直感的な体験がユーザーに誤った情報を容易に信じさせるリスクがある。しかもそれが中国のキャンペーンである可能性も否定できない。


Z世代は、Google検索で得られるテキストを読むのではなく、TikTokで検索し、次々と動画を見てコンテンツを選別していく、とニューヨーク・タイムズのKalley Huangは書いている。その動画に対して投稿されたコメントから、提案の信憑性を検証するようだ。

Googleが依然として世界的な検索エンジンである一方で、人々は商品を探すためにAmazonを、トレンドの最新情報を得るためにInstagramを、地元の企業を見つけるためにSnapchatのSnap Mapsを利用する、とされている。

TikTokもまたこの領域に侵入している。「私たちの調査では、若者の40%近くが、ランチの場所を探すときに、グーグルマップや検索を利用しない。彼らはTikTokやInstagramに行く」とGoogleのシニアバイスプレジデントであるプラバッカー・ラガバンは、7月に開催されたテクノロジーカンファレンスで語っている。ただし、Googleは当局から反トラストに関連する取り締まりを受けており、自らを弱い立場に見せることにインセンティブがあることに留意しないといけない。

検索結果には偽情報だらけ

ただし、この偽情報時代にTikTokが高品質な情報を手に入れるための救世主かというと、そうでもなさそうだ。TikTokが検索エンジンとして台頭してきたことは、より多くの人がアプリ上で誤った情報や偽情報につまずき、それが増幅されてさらに広がる可能性があると、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の図書館情報学教授、フランチェスカ・トリポディは指摘している。このプラットフォームは、コロナ、選挙、ウクライナ戦争、中絶に関する誤解を招くようなコンテンツの調整に苦慮している。

TikTok検索にはオーソドックスな検索よりも誤情報の密度が高い可能性が指摘されている。ウェブサイトなどの信頼性を評価するメディア監視団体「ニュースガード」は、9月、ニューストピックスに関するTikTok検索の結果27件のうち上位20件を分析。表示された動画の19.5%に誤った、または誤解を招く主張が含まれていたとされる。誤った、または誤解を招く主張には極右陰謀論「Qアノン」や、抗マラリア薬であるヒドロキシクロロキンの自家製法とされるものも含まれていた。

そもそも情報の信憑性の高くないプラットフォームであることも留意に入れないといけない。TikTokにおけるコロナウイルス感染症ワクチン接種に関するコンテンツ72本をコード化し分析したウィリアム・パターソン大学公衆衛生学教授のCorey Baschらの2021年の研究は、反ワクチンメッセージは、特にTikTokを使用する傾向が他の年齢層よりも高い若年層に対して、各種COVID-19ワクチンの普及を確保するための取り組みを損なう可能性がある、と主張した。

中国のプロパガンダマシーン?

TikTokは中国のプロパガンダを世界的に広げる装置と化しているのでは、という懐疑は常にあった。この猜疑の目を強くしたのが、TikTokとその親会社バイトダンスの従業員のうち、少なくとも300人が中国の国営メディア企業の従業員で、現在も15人が働いていると、Forbesが報じたことである。Forbesがリンクトインを使って調査したところによると、15人は、新華社通信、中国国際放送局、中国中央電視台(CCTV)、中国グローバルテレビネットワーク(CGTN)などの中国国営メディアと兼務している。

また、同じ会社のアプリではすでにある種の「ソフトパワー工作」が行われていたようだ。バズフィードニュースのEmily Baker-Whiteは、同社の元従業員4人による主張を根拠に、TikTokの中国親会社バイトダンスがニュースアプリ「TopBuzz」を使い、アメリカ人に親中派のメッセージを流布していた、と書いている。

TopBuzzは中国で非常に人気があり「低俗」とも言えるニュースアグリゲーターアプリ「Toutiao」の国際版である。TopBuzzは2015年に開始されたこのアプリは、2018年までに4000万人の月間アクティブユーザーを集めている。

参考文献

Basch CH, Meleo-Erwin Z, Fera J, Jaime C, Basch CE. A global pandemic in the time of viral memes: COVID-19 vaccine misinformation and disinformation on TikTok. Hum Vaccin Immunother. 2021 Aug 3;17(8):2373-2377. doi: 10.1080/21645515.2021.1894896. Epub 2021 Mar 25. PMID: 33764283; PMCID: PMC8475621.

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米国のEV革命は失速?[英エコノミスト]

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労働者の黄金時代:雇用はどう変化しているか[英エコノミスト]

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