脱炭素時代の主役は自転車:EVよりもクールな移動手段[吉田拓史]

世界人口の6割超が居住する都市では、自動車による移動をEVではなく自転車に転換することで大量の炭素排出を削減できる。都市人口を健康的にする自転車は、脱炭素のキラーアプリになるだろう。

脱炭素時代の主役は自転車:EVよりもクールな移動手段[吉田拓史]
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世界人口の6割超が居住する都市では、自動車による移動をEVではなく自転車に転換することで大量の炭素排出を削減できる。都市人口を健康的にする自転車は、脱炭素のキラーアプリになるだろう。


ブルームバーグのDavid Zipperによる記事は、ブリュッセル市政府が、自動車依存の都市構造から持続可能なものへと転換することに成功したと主張した。自動車利用率は2017年の64%から2022年の49%に下がり、自転車利用者は3%から10%に増えた。

市は自動車登録の抹消を奨励し、最大900ユーロのボーナスを提供。これは自転車用品、公共交通の定期券、カーシェアリングの定期券などに使うことができる。

Zipperは、自転車利用増加の要因として、1)テロ事件による公共交通への警戒、2)緑の党の政権獲得、3)コロナ禍による街路の再構成を挙げている。

実際、投資交通の自転車化には、市民にとって明確な利得がある。オックスフォード大学のクリスチャン・ブランド教授が率いる研究チームは、7都市3,800人以上の通勤データを詳細に調査した結果、以下のようなことが判明した。

  • 著しい排出削減効果。1日に車での移動が1回減り、自転車での移動が1回増えた人は、二酸化炭素排出量を平均67%削減することができる、と主張した。この結果は、すべての自動車利用を自転車利用で代替できないとしても、排出量削減の可能性は非常に高いことを意味する。
  • 娯楽目的の移動で代替。買い物や社会見学を目的とした移動は、自動車で行うことが多いことがわかった。これらの移動は短い傾向があるため、徒歩や自転車での移動にシフトする可能性が高いとブランドらは主張した。
  • あらゆる側面でEVよりも格段に排出量の少ない交通手段。「それぞれの移動手段のライフサイクルを比較したところ、自動車の製造、燃料補給、廃棄の際に発生する炭素を考慮すると、サイクリングによる排出量は、化石燃料の自動車に乗るよりも1回の移動で30倍以上、EVに乗るよりも10倍以上少なくなることがわかりました」とブランド教授らは指摘した。
  • インフラ投資の費用とスピードでもEVに対して優位。自転車専用道路や歩行者に優しい都市設計などは、充電ステーションなどのEVのインフラよりも一般的に安価で迅速に導入することができる。

デンマーク、オランダの先行例:自転車向けインフラが大事

自転車の利用率を高めるには、自転車専用レーンや駐輪場、電動自転車用の充電器のようなインフラの整備が重要である。デンマークとオランダはこのインフラ整備の先駆者である。

南デンマーク大学(SDU)特任教授のGang Liuらによる研究は、もし地球上のすべての人が平均的なデンマーク人と同じように(1日あたりわずか1.6キロメートル)サイクリングをすれば、世界の二酸化炭素排出量は4億1,400万トン削減でき、平均的なオランダ人のように自転車に乗れば、6億8,600万トンも削減できる、と推定する。

Historical patterns and sustainability implications of worldwide bicycle ownership and use - Communications Earth & Environment
High bicycle ownership does not necessarily correlate with high bicycle use, with substantial health and environmental gains possible by worldwide pro-bicycle policy implementation, suggests a global compilation of bicycle ownership, production, trade and stock.

1962年から2015年までの自転車の生産、所有、利用状況に関するこの調査によると、自転車の所有率が高くても、ほとんどの場所で自転車の利用率が高いとは限らないことが判明した。これは、一部の人々が自転車をレクリエーション活動として認識していることが原因である可能性があるとLiuらは指摘している。このような認識を変えるためには、自転車のインフラが発達したデンマークやオランダのような国から学ばなければならないとLiuたちは述べている。

コメント

自転車採用の効果は、ブリュッセルのような都市で高い。世界はますます都市化しており、現在、世界人口の半数以上が都市部で生活する。この都市を健康的にする自転車は、脱炭素のキラーアプリになりうる。

参考文献

  1. Chen, W., Carstensen, T.A., Wang, R. et al. Historical patterns and sustainability implications of worldwide bicycle ownership and use. Commun Earth Environ 3, 171 (2022). https://doi.org/10.1038/s43247-022-00497-4
  2. Christian Brand, Evi Dons, Esther Anaya-Boig, Ione Avila-Palencia, Anna Clark, Audrey de Nazelle, Mireia Gascon, Mailin Gaupp-Berghausen, Regine Gerike, Thomas Götschi, Francesco Iacorossi, Sonja Kahlmeier, Michelle Laeremans, Mark J Nieuwenhuijsen, Juan Pablo Orjuela, Francesca Racioppi, Elisabeth Raser, David Rojas-Rueda, Arnout Standaert, Erik Stigell, Simona Sulikova, Sandra Wegener, Luc Int Panis. The climate change mitigation effects of daily active travel in cities, Transportation Research Part D: Transport and Environment, Volume 93, 2021, 102764, ISSN 1361-9209, https://doi.org/10.1016/j.trd.2021.102764.

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