スマートシティ構想でも「中国切り離し」が顕在化
ドイツの地方都市デュースブルクは中国によるスマートシティ開発の場で、一帯一路の最西端だった。しかし、中国の経済的関与に対する地政学的リスクの増大により、提携は白紙に戻された。スマートシティでもデカップリングが進んでいる。
ドイツの地方都市デュースブルクは中国によるスマートシティ開発を受け入れ、一帯一路の最西端だった。しかし、中国の経済的関与に対する地政学的リスクの増大により、提携は白紙に戻された。この分野でも欧米と中国のデカップリングが進んでいる。
ドイツの地方都市デュースブルク市は先週、中国のテクノロジー大手ファーウェイ・テクノロジーズとのスマートシティ提携を中止したと明らかにした。
2018年に締結された覚書では、ファーウェイがデュースブルクを「伝統的な工業都市からサービス指向のスマートシティに」変え、高度な5G技術を使って行政、港湾物流、教育、交通インフラを近代化させるとしていた。両者の協力の範囲は、スマートガバメント、スマート港湾ロジスティクス、スマート教育、スマートホーム、都市IoTにまで及ぶと書かれている。
「クラウドコンピューティング・インフラ層では、ファーウェイの技術に支えられた『ライン・クラウド』(筆者注:ライン川にちなんだ名前と考えられる)が、デュースブルクのクラウド戦略の基本プラットフォームを提供します。また、電子政府、交通、IoT、統合通信の技術革新と実装を促進し、スマートな基盤に基づくスマート・デュースブルク1.0の構築を完成させます」とファーウェイは書いている。
2018年6月にドイツ・ハノーバーで開催されたIoT、ビッグデータ、AI、ロボット等先端技術ソリューションの世界最大級展示会CEBITでは、ファーウェイとでユースブルグ市の市営通信IT企業であるDuisburger Versorgungs- und Verkehrsgesellschaft mbH(DVV)が、スマートシティと公共サービスのクラウド・プラットフォーム「Rhine Cloud」とスマートシティサービスに関する契約を結んだ。
しかし、このような両者の緊密な連携は突然終りを迎えた。この契約は先月期限切れとなり、その後、同市のウェブサイトから削除された。市の関係者はサウスチャイナ・モーニングポスト(SCMP)の取材に対し、「現在のロシアと中国の関係」を考慮し、すぐに更新することはないだろうと述べた。
関係者の発言はウクライナ侵攻の前夜に調印され、欧州全域で北京への疑念を煽った中国とロシアの「無制限」パートナーシップについて言及している。北京は和平交渉を支持すると言っているが、モスクワの侵攻を非難することは控えている。
同市は「コロナウイルスの大流行時、そして現在に至るまで、ファーウェイとの協力関係は止まっている。そのため、連邦政府からの評価が出次第、あらゆる側面を考慮しながら、ファーウェイとのさらなる協力関係を見直す」と回答したという。
ルール川とライン川のほとりにある人口50万人の産業革命後の中心地であるこの都市は、ドイツの「ラストベルト」であるルールバレーの最西端にある。かつて炭鉱と鉄鋼業が盛んだったこの地域は、20世紀末から深刻かつ持続的な構造危機に見舞われている。現在、ルールバレー西部は経済的、人口的、インフラ的に困窮している。
これらの背景から、中国からの投資に門戸を開き、中国の「ヨーロッパへの玄関口」としての地位を確立していた。2014年、中国の習近平国家主席はデュースブルクを訪れ、中国南西部の都市・重慶からの貨物列車の到着を見届け、「一帯一路構想」の西側の終着点であると宣言した。
世界最大の内陸港への出資も切り離された。先月、中国の海運大手コスコは、デュースブルグ・ゲートウェイ・ターミナル(DGT)の株式をデュースブルグ港の運営会社であるデュイスポートに売却した。コスコの同ターミナルへの出資比率は30%に達していた。
ファーウェイの同市でのスマートシティ計画はもともと、ドイツや欧州各地で論争を巻き起こしていた。それは、ファーウェイの中国政府とのつながりの疑い、そしてこれらの疑いが、安全保障上の理由から、西側で5Gネットワークを展開することを失格とすべきかどうかについての懸念が高まっている中で浮上したのだ。
ルール・ウェスト応用科学大学の研究員であるティム・ヒルデブラントは、China Observersの最近の記事で、「最も心配なのは、サイバーインフラのセキュリティに関する議論がすでに再燃していた時期に、市がファーウェイの助けを借りて行政のデジタル化を検討したことで、リスク認識と戦略的思考の欠如が見られる」と書いている。
ドイツ政府もまた欧州で最も中国と緊密な経済関係を構築しているで知られる。オラフ・ショルツ首相は今月初旬の習氏との首脳会談で、経済のグローバル化を支持するとともに「デカップリング」に反対し、引き続き中独企業の相互投資推進を支援すると表明した。
ブルームバーグの報道によると、ショルツ首相はこれに先立ち、ドイツのチップメーカー、エルモスを中国企業であるサイ・マイクロエレクトロニクスのスウェーデン子会社に売却することに拒否権を発動していた。一方、ショルツ政権は先月、6つの省庁、欧州委員会、米国の忠告に反して、コスコによるハンブルク港のターミナルの25%の株式取得は認めている。