生成AIの数兆円に及ぶコストはいとも簡単に回収される?

生成AI開発には莫大な費用がかかるが、一部の企業は社会的価値を重視し、巨額投資を辞さない構えだ。一方で、収益化までには数年かかるとの見方もある。AIの効率化が進むと予測する声もあるが、自社開発に消極的な企業もあり、投資の是非は数年後に判明するだろう。

生成AIの数兆円に及ぶコストはいとも簡単に回収される?
OpenAI CEOのサム・アルトマン。2024年4月16日に東京で行われたOpenAI日本支社の発表記者会見にて。撮影:吉田拓史

生成AI開発には莫大な費用がかかるが、一部の企業は社会的価値を重視し、巨額投資を辞さない構えだ。一方で、収益化までには数年かかるとの見方もある。AIの効率化が進むと予測する声もあるが、自社開発に消極的な企業もあり、投資の是非は数年後に判明するだろう。


AI新興企業AnthropicのCEOであるダリオ・アモデイは5月初め、CNBCのインタビューで、将来的にAIの学習コストが1,000億ドルにまで膨らむ可能性があると語った。アモデイは、現在の大規模言語モデル(LLM)開発には1億ドルのコストがかかっており、来年には10億ドル、2025年から2026年には50億ドルから100億ドルに増加し、最終的には1,000億ドルに達する可能性があると予測した。このようなコストでモデルを学習できる企業の数は限られたままだ。

元OpenAIエンジニアらによって設立されたAnthropicは、OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiのライバルとなる「Claude」と呼ばれる強力な言語モデルを開発している。Amazonが3月に27億5,000万ドルを投資。Amazonの投資額は昨年9月に12億5,000万ドルの投資と合わせて、総額40億ドルに達していた。しかし、この新規投資でもアモデイの見込む開発費は満たせそうにない。

この数日後、OpenAIのCEOであるサム・アルトマンがアモデイの考え方に同調した。アルトマンはスタンフォード大学のトークイベントに出演し、AGI(汎用人工知能)の開発に多額の資金を投じる意義を強調した。彼は、「年間5億ドル、50億ドル、500億ドルを費やすかは気にしない。社会により大きな価値を生み出し、資金をまかなえる限り、それだけの価値はある」と言った。

Metaのマーク・ザッカーバーグCEOは、1月に米メディアThe Vergeとのインタビューで、同社が2024年末までに34万個以上のNVIDIA製グラフィック・プロセッサ・ユニット(GPU)を確保する予定だと明らかにした。しかし、最近の決算報告では、ザッカーバーグが生成AIが利益をもたらすのは数年後だという見方を示したことから、Metaの株価が急落した。同社は生成AIへの多額の投資を行っているものの、それが収益に結びつくまでにはまだ時間がかかるとの認識を示したことになる。

LLMのトレーニングと「推論」 にかかる高額なコストが、AI アプリケーションの利益率をSaaSの利益率より小さいままにする場合もありうる。現在、ほとんどのトレーニングと推論はGPU上で行われている。

ChatGPTのような人気のある製品(投資会社UBSは1月の月間アクティブユーザー数が1億人に達したと推定している)の場合、その月にユーザーが入力した何百万ものプロンプトをOpenAIが処理するには4,000万ドルの費用がかかった可能性があるとリサーチ会社フォレスターのAIアナリスト、ローワン・カランは3月に予測している。実際、ChatGPTのクオリティにはブレが認められており、コスト調整によって品質が安定していないという見方もあるのだ。

それでも、NVIDIA CEO のジェンスン・フアンは、チップだけでなくソフトウェアやその他のコンピューター部品の改良により、10 年後には AI の効率が「100 万倍」向上すると信じている、と主張した。フアンは、2月の決算報告時に、「ムーアの法則は、最良の時代であれば、10年で100倍の成果を上げていただろう」と語った。 「新しいプロセッサ、新しいシステム、新しい相互接続、新しいフレームワークとアルゴリズムを考案し、データサイエンティストや AI 研究者と協力して新しいモデルを開発することにより、その全体にわたって、LLMの処理を 100 万倍高速化するはずだ」

大手テクノロジー企業の中で最も生成AIブームに対して消極的なのが、Appleである。Appleのルカ・マエストリCFOは、同社のAI投資計画について、自社のデータセンターと第三者のデータセンターの双方を使用していることに言及した。この方式は過去にうまくいっており、今後も同じ路線で続ける予定である、とマエストリは言った。これは、Appleがその豊かな財政基盤にも関わらず、自社のデータセンターだけでLLMを構築・トレーニングする予定がないことを意味しているかもしれない。

Appleの判断が正しかったか否かは数年後に分かる。Appleがハードウェアを基点に築いた堀は、生成AIでも揺るがないのだろうか。

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OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

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アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

By 吉田拓史