サウジマネー、米スタートアップ業界を侵食:著名VCが資金提供先に名を連ねる

サウジアラビアが米ベンチャーキャピタル(VC)とプライベートエクイティ(PE)業界の資金提供者であることが判明した。評判に問題を抱える同国は、各種の投資で世界的な影響力ネットワークの構築を推し進めているようだ。

サウジマネー、米スタートアップ業界を侵食:著名VCが資金提供先に名を連ねる
ジャーナリストの殺害とノコギリでの解体を命令したと米CIAが断定したサウジアラビアのサルマン皇太子。"29/06/2019 Bilateral Arábia Saudita" by Palácio do Planalto is marked with CC BY 2.0.

サウジアラビアが米ベンチャーキャピタル(VC)とプライベートエクイティ(PE)業界の資金提供者であることが判明した。評判に問題を抱える同国は、各種の投資で世界的な影響力ネットワークの構築を推し進めているようだ。


3月下旬、著名VCのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)の共同代表であるマーク・アンドリーセンとベン・ホロウィッツは、フロリダ州マイアミで開催されたビジネス会議で、WeWorkの共同設立者アダム・ニューマンと共にステージに登場し、ニューマンはa16zが投資した住宅不動産会社Flowをサウジで展開する意向を示した、とブルームバーグが報じた。

この会議は、サウジ最大の政府系ファンドの1つが支援する非営利団体が主催したものという。

ホロウィッツは、10月にサウジを訪れ、リーマ・ビント・バンダル・アル・サウド王女と昼食を共にし、「砂漠のダボス会議」と呼ばれるサウジ主催の投資会議で講演した。さらに最近では、世界最大級の政府系ファンドである公共投資基金(PIF)の最高責任者、ヤシール・アルルマヤンに会ったとされる。一連の手続きで、両社は何らかの取引に合意した可能性は否定できないだろう。

このニュースは、サウジと米VCの関係をめぐる詮索を再燃させた。PIFのベンチャー部門は、近年、活動を活発化させているが、シリコンバレーにおける影響力の大きさは、これまで推測の域を出ていなかった。

金融業界とサウジの関係は隠されたものではないが、VCは、自らをより高潔な存在として描く傾向があり、この地域との関係については、ほとんど秘密主義を貫いてきた。そのため、マイアミのイベントでのホロウィッツの発言は、ひときわ注目を集めている。

サウジ側はその影響力を示すことを選んだようだ。PIFが全額出資する Sanabil Investments のウェブサイトは、4月3日、世界中の「ベンチャー、グロース、小規模バイアウト資産」に1年当たり約 20 億ドルを投資していることを明らかにした。Sanabilの出資先は50以上に上り、ブラックストーン、KKR、アポロ、CVC、a16z、コーチュー、General Atlantic、Insight Partners、Hellman & Friedman、Platinum Equityのような一流のVC、PE、ヘッジファンドが名を連ねている(詳細は末尾の「付記」を参照)。

サウジは、ニューマンのようなスキャンダラスな人物を好むのかもしれない。Uberの共同創業者のトラビス・カラニックもサウジのお気に入りだ。サウジは2016年にUberに出資。サウジが筆頭投資家のソフトバンク・ビジョン・ファンド1(SVF1)が2018年に76億ドルをUberに投資した。

カラニックは目に余るスキャンダルの末にUberを去ったが、PIFはカラニックがその後に立ち上げた出前スタートアップに4億ドルを出資した、と2019年11月にWSJが報じている。カラニックはサウジの未来都市プロジェクトNEOMの諮問委員会にも名を連ねている。

サウジのVCのリミテッド・パートナー(LP)出資の代表例は、ソフトバンクグループ(SBG)のSVF1に450億ドルを投じ、最大の支援者となったことだ。SVF1がスキャンダルの渦に飲み込まれると、サウジはSBGを離れ、上述のファンドへの分散出資を採用したようだ。a16zはSBGの後釜に座るのかもしれない。

サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は国際的な評判が極めて悪い人物だ。皇太子はジャーナリストのジャマル・カショギを殺害し、遺体をのこぎりで解体することを指示したと米中央情報局(CIA)に断定されていたり、元情報機関職員を殺害する目的でカナダに暗殺部隊を送り込んだ疑いがかかっていたり、ジャーナリストを監視する目的で彼らの携帯電話にスパイウェアを仕込んだりした「武勇伝」で知られる。

サルマン皇太子からの出資は米VCにとってリスクになりうる。皇太子は、中国と接近し、イランの核開発を容認し、バイデン大統領の原油増産要請を無視するなど、米国との摩擦を気にしていない。ウクライナ戦争ですでに数十万人の犠牲者を出したとされるウラジーミル・プーチンや、長期にわたる戦争によって世界最大の人道危機を生み出しているイエメンとの友好関係も米国の外交戦略と対立する。

一方、サウジを含む中東勢のソフトパワー戦略は露骨になってきている。彼らはその莫大な資産を国際的な影響力の行使に使おうとしているようだ。中東勢はゲーム、メディア、エンタメ産業の主要な投資家になっている。欧州のフットボールリーグの最大手チームもオイルマネーに深く依存している。詳しくは以下の記事を参照いただきたい。

中東諸国、世界のコンテンツ産業への投資でソフトパワー獲得を目論む
サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)が、世界中のメディア、ゲーム、エンターテインメント企業への投資を拡大している。3か国は、前サウジアラビア王妃を通じて、ハリウッドの映画スタジオ、プロダクション、配給会社などへ数十億ドルを投資している。

付記:サウジの投資先

VCポートフォリオ: 1984 Ventures、500 Startups、9Yard、Andreessen Horowitz、B Capital、Coatue、Collaborative Fund、Costanoa Ventures、Craft Ventures、Dragoneer、eWTP Arabia Capital、Flagship Pioneer、G Square, General Atlantic, Greenoaks Capital Partners, Griffin Gaming Partners, HLC, Human Capital, Iconiq Capital、 Insight Capital, Jazz Venture Partners, JMI Equity, KKR, Legend Capital, March Capital, NEA, OrbiMed, Polychain Capital, Race Capital, Soma Capital, Stripes, TA Associates, TCV, Techstars, Third Point Venture, Treasury Fund, Uncorrelated, Valar Ventures, Valor Equity Partners, Village Global。

PEポートフォリオ:Advent, Affinity, Apax, Apollo, CVC, FSN, HIG Capital, Hellman & Friedman, K1 Investment Management, Leonard Green & Partners, Novacap, Platinum Equity, PSG, Silver Lake, TA Associates, Thoma Bravo, Triton, Vista Equity Partners

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OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

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アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

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By 吉田拓史
新たなスエズ危機に直面する米海軍[英エコノミスト]

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世界が繁栄するためには、船が港に到着しなければならない。マラッカ海峡やパナマ運河のような狭い航路を通過するとき、船舶は最も脆弱になる。そのため、スエズ運河への唯一の南側航路である紅海で最近急増している船舶への攻撃は、世界貿易にとって重大な脅威となっている。イランに支援されたイエメンの過激派フーシ派は、表向きはパレスチナ人を支援するために、35カ国以上につながる船舶に向けて100機以上の無人機やミサイルを発射した。彼らのキャンペーンは、黒海から南シナ海まですでに危険にさらされている航行の自由の原則に対する冒涜である。アメリカとその同盟国は、中東での紛争をエスカレートさせることなく、この問題にしっかりと対処しなければならない。 世界のコンテナ輸送量の20%、海上貿易の10%、海上ガスと石油の8~10%が紅海とスエズルートを通過している。数週間の騒乱の後、世界の5大コンテナ船会社のうち4社が紅海とスエズ航路の航海を停止し、BPは石油の出荷を一時停止した。十分な供給があるため、エネルギー価格への影響は軽微である。しかし、コンテナ会社の株価は、投資家が輸送能力の縮小を予想している

By エコノミスト(英国)