最強の会社は1on1ミーティングをやらない:エヌビディアの経営術
AIブームをものにし、時価総額1兆ドル超えを達成したNVIDIA(エヌビディア)。創業者でCEOのジェンスン・フアンの経営手法は、1on1ミーティングをやらない、フラットな組織構造、毎日数百通の電子メールを送る、というユニークなものだ。
AIチップで知名度を上げたエヌビディアは、世界で6番目の時価総額を誇り、グローバルで2万6,000人以上の従業員を抱えている。それにもかかわらず、フアンの主なコミュニケーション手段は、毎日数百通の電子メールだと言われている。
米メディアThe New Yorkerによると、その電子メールの文章は非常に短いものという。彼の電子メールを「日本の俳句」に例える幹部もいれば、「身代金要求書」に例える幹部もいる。
「フアンは、固定された部門やヒエラルキーのない、アジャイルな企業構造を好む。社員は毎週、取り組んでいることの中で最も重要な5つのリストを提出する。フアンは夜遅くまでこれらの電子メールを精査しているため、メールの文面が簡潔であることが奨励されている」とThe NewyorkerのStephen Wittは書いた。「フアンはエヌビディアの巨大なキャンパスを歩き回りながら、彼はしばしば若手社員のデスクに立ち寄り、彼らの仕事について聞いてみることもある。ファンの訪問は、キュービクルを尋問室に変えることもあるという」
フアンは、スケジュールを立てる際に、従業員に「光の速度」で動くように促する。これは、ただ単に早く動くという意味ではなく、従業員が可能な限り最速で完了できるタスクを見極め、それに基づいて目標を達成するための計画を立てることを意味している。さらに、ファンは従業員に、競争相手がいないだけでなく、明確な顧客すら存在しないような新規分野での製品開発を推進することを求めている。これは、AI開発の重要なソフトウェア基盤となるCUDAのような探索的な製品を追求することを含んでいる。
フアンの信念の中で特に強烈なのは、「失敗はみんなで共有すべき」という考えだ。2000年代初め、エヌビディアはフアンの騒音が大きすぎる欠陥のあるグラフィックカードを市場に出した。フアンは、この問題の責任を負うプロダクトマネージャーを解雇する代わりに、会社の全員が参加する会議を開いた。この会議で、マネージャーは大勢の前で、この失敗につながった決定を全て説明した。さらに、エヌビディアは、マネージャーを出演させた笑いを誘うビデオを作成し、そのグラフィックカードのファンが葉を吹き飛ばす送風機として再利用される様子をメディアに公開した。エヌビディアでは、自分の失敗を人前で話すことが、一種の愛される儀式となっている。ただ、この文化に慣れない人もいるようだ。
階層的コミュニケーションを避ける
フアンは、今年初めに行われたAI企業Sanaの創業者ジョエル・ヘラーマークとのインタビューでも、自身の経営哲学を概説していた。フアンは典型的な階層的コミュニケーションを避け、40人もの直属の部下を持つフラットな組織構造を維持している。一方、流行りの「1on1ミーティング」は避け、トップから全員が同じレベルにいることを確認するグループ・ディスカッションを好む。フアンは継続的な学習を重視し、業界の最新トレンドやイノベーションを常にアップデートしている。その方法のひとつが、専門知識を惜しみなく共有する知識豊富な人材に囲まれることだ、と説明した。
このインタビューによると、フアンの経営哲学は、社員の地位や階級に関係なく、情報や会議に自由にアクセスできるという原則に基づいている。フアンのアプローチでは、バイスプレジデントから新入社員に至るまで、社内の全員がすべての情報に平等にアクセスでき、どんな会議にも参加できる。このような包括的な方針は、戦略的な方向性や決定は一部の人間だけでなく、チーム全体で共有すべきだというフアンの信念に根ざしている。そうすることで、フアンは全員が戦略策定プロセスに参加し、未来への道筋の策定に貢献できるようにしている。このアプローチは、協働的で透明性の高い職場環境に対するフアンのコミットメントを反映したものであり、エヌビディアにおけるオープンなコミュニケーションと集団的な意思決定を奨励している。