アマゾンはハリウッド最悪の作品群を持つが、最高のビジネスモデルを持っている[英エコノミスト]

元ミス・ワールドの女性とスパイの一団を乗せた高速列車がイタリア・アルプスを駆け抜け、銃弾が飛び交う中、視聴者の頭にあるのはきっと買い物ではないだろう。しかし、視聴者が一時停止を押すと、ヒロインの金のネックレスや赤いドレス、あるいは彼女が悪党どもを追い回すために履いている、よろよろと揺れるハイヒールなど、番組のアイテムを購入できるオプションが表示される。爆発する香水だけはまだ売られていない。

アマゾン・プライムビデオのスリラー映画『シタデル』は、世界最大のオンライン小売業者が世界最大のエンターテインメント・プロデューサーのひとりになったときに何が起こるかを描いている。アマゾンのeコマースサイトでこの番組の商品を買うだけでなく、視聴者はアマゾン・ミュージックでサウンドトラックを聴いたり、アマゾンの姉妹サイトIMDbで制作秘話を読んだりすることができる。多国籍のキャストとプロット、そしてさまざまな言語でのスピンオフの計画は、世界中の買い物客にアピールするために慎重に選ばれている。

ハリウッドの古株たちは、アマゾンのビデオへの取り組みを鼻にかけているが、それも無理はない。3億ドルの予算が計上され、史上2番目に高額なテレビシリーズとなったにもかかわらず(同じくアマゾンのプロジェクトである『ロード・オブ・ザ・リング: 力の指輪』に次ぐ)、『シタデル』は生ぬるい評価を受け、アメリカで最もストリーミングされた番組のトップ10に入ることはできなかった(アマゾンによれば、国際的にはもっと良い成績を収めているとのこと)。批評家たちは、この作品がアマゾンのビデオ事業における、高額な投資と低影響の記録を象徴していると見ている。アマゾンは今年、ストリーミング・コンテンツに120億ドルを投じ、これはネットフリックスに次ぐ規模である(図表参照)。『ジャック・リーチャー 〜正義のアウトロー』や『ザ・ボーイズ』などヒット作もある。しかし、今度のエミー賞でのストリーミング・ノミネート数は45で、これはアマゾンとしては記録的だが、ネットフリックスやワーナー・ディスカバリーのサービス「マックス」の半分以下である。「アマゾンのヒット率は良くないし、その費用に見合ったものでもない」と、ある元幹部は認めている。

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