WeWork崩壊後、ソフトバンクに待ち受けるものは?[英エコノミスト]

WeWork崩壊後、ソフトバンクに待ち受けるものは?[英エコノミスト]
2023年10月4日(水)、東京で開催されたソフトバンク・ワールドで講演するソフトバンクグループの孫正義会長兼最高経営責任者(CEO)。
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「彼の目はとても強かった。強く、輝く目だった」。2000年当時、孫正義はジャック・マーが設立した中国のeコマース新興企業に2,000万ドルを投資する決断をしたことをそう説明した。今年初め、孫氏の投資グループであるソフトバンクグループ(SBG)がアリババ株の大半を売却し終えるまでに、この賭けで650億ドルの利益を得た。11月6日に破産を宣言したレンタルオフィス会社WeWorkのカリスマ的創業者、アダム・ニューマンに対する日本の億万長者の賭けはあまり成功しなかった。SBGは約140億ドルの資金を投じたと推定されている。

孫氏のキャリアは、ハイテク業界のハイプ・サイクルに沿った、高騰と暴落の物語であった。話題性のある企業に大枚をはたく戦略は、ソフトバンクにとって上昇局面では役に立ったが、下降局面では役に立たなかった。そして今、不屈の精神を持つ孫氏は、ハイテク業界の最新ブームである人工知能(AI)に乗り出そうとしている。それは荒唐無稽な乗り物になるだろう。

日本のソフトウェア販売会社としてスタートしたソフトバンクは、1990年代のドットコム・ブームの中で、かつて人気を博した検索エンジンのヤフーを含む数百の新興企業の株式を購入し、投資手段として生まれ変わった。バブルの絶頂期には、孫氏は一時世界一の富豪となった。バブル崩壊後、彼はソフトバンクをモバイル・インターネットを中心に方向転換し、2005年に日本で通信事業を立ち上げ、2013年にはアメリカの通信事業者スプリントの株式の過半数を取得し、2016年にはスマートフォン用チップの設計会社であるイギリスのアームを買収した。

image: the economist
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その1年後、孫氏はサウジアラビアの政府系ファンドが一部出資する1,000億ドルの軍資金を得て、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを立ち上げ、赤字の新興企業に資本を注入し始めた。WeWorkなどいくつかの目立った失敗はあったものの、2021年の夏までには、ビジョン・ファンドとその後継者たちは累計660億ドルの利益を上げ、この投資事業は大成功を収めたように見えた。その後、ハイテク企業の評価額が暴落し、60億ドルの損失に転じた(図表参照)。

SBGは金利上昇に二重にさらされている。金利上昇は、利益のほとんどが将来にある新興企業の価値を低下させ、投資グループがたくさん抱えている負債コストを上昇させる。格付け会社のS&Pグローバルは5月、SBGの格付けをジャンク債の領域まで引き下げた。憂慮する投資家を和らげるため、SBGは資産を売却し、現金の山を2年前の250億ドルから340億ドルへと拡大した。SBGが90%の株式を保有するアームの新規株式公開も、ポートフォリオの流動性を高めている。

image: the economist
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孫氏は現在、SBGを「攻撃モード」に戻すと宣言し、再び小切手を書き始めたいとうずうずしている。データ・プロバイダーのPitchBookによると、SBGは昨年125件、2021年には251件の取引を行ったが、今年は23件しか行っていない。孫氏は、「10年後には人類の総知能を10倍上回る」と予測するAIに注目している。

危険なのは、この巨大投資家が最も熱狂的な市場に参入しようとしていることだ。ここ数カ月、投資家が競争的な資金調達プロセスに参入したため、AI企業の企業価値は急上昇している。その結果、SBGは自らも新しい投資機会を開拓しようとしている、と同グループのビジョンファンドの共同責任者であるアレックス・クラベルは言う。

彼は、SBGとロボット工学のシンボティックとの新しい合弁事業で、自動倉庫を開発し貸し出すグリーンボックスの例を挙げている。9月には、SBGはChatGPTを開発したスタートアップのOpenAIや、iPhoneの設計者であるジョニー・アイブとも、アームのチップを搭載したAIデバイスの開発に資金を提供するための話し合いを進めていると報じられた。

しかし、投資に対するSBGのアプローチの他の要素は残るだろう。「われわれは通常、より少ないバスケットに卵を入れる」とクラベルは言い、このパターンは今後も続くと予想する。孫氏の直感を信じる姿勢も変わりそうにない。

孫氏のAIに関する予言が試される10年後、孫氏は76歳になっている。少なくとも300年は事業を存続させたいと考えている孫氏は、2015年にその座を譲ることを公言し始めた。その後、後継者候補が次々と去り、SBGは謎めいた創業者を中心に回り続けている。SBGを存続させるためには、孫氏がいなくなった後の未来に備えなければならない。■

From "After WeWork’s fall, what next for SoftBank?", published under licence. The original content, in English, can be found on https://www.economist.com/business/2023/11/16/after-weworks-fall-what-next-for-softbank

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翻訳:吉田拓史

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