スーパーアプリ・グラブの自由落下の行方
トヨタ、三菱UFJ、ソフトバンクグループと日本を代表する企業を株主に揃える、シンガポールのスーパーアプリ企業グラブの苦境が続いている。株価が4分の1になった同社はどうやって生き残るか。
トヨタ、三菱UFJ、ソフトバンクグループと日本を代表する企業を株主に揃える、シンガポールのスーパーアプリ企業グラブの苦境が続いている。株価が4分の1になった同社はどうやって生き残るか。
グラブのフィンテック事業で2人のトップが退職し、ここ数カ月の他の幹部の退職に加え、東南アジアの配車と配送会社が赤字の主要部門を再編成していることが、2人の情報筋の話で明らかになった。
グラブの決済・報酬事業を率い、同社に6年近く在籍したChris Yeo氏は、決済ゲートウェイ事業を率いるJeffrey Goh氏とともに退職すると、この問題に詳しい関係者はロイターに語った。
マネージングディレクターのYeo氏とGoh氏はともに、グラブの金融部門に勤務しており、デジタル決済、融資、保険、報酬、資産管理サービスを提供し、Grabの地域成長戦略の重要な要となっている。
ロイターが引用した情報筋によると、グラブのフィンテック部門は有利な分野に集中するため、地域と国のチームを合理化しているとのことだ。情報筋の1人は、同社が運営する多くの地域で損失を削減しようとしているという。
今年は、グラブの技術系上級幹部の1人も暗号通貨ゲーム会社を率いるために退職し、保険・資産担当の責任者も新興企業を設立するために退職した。
史上最大の特別目的買収会社(SPAC)取引となったグラブは、合併合意時に付けた400億ドルのバリュエーションが、いまでは4分の1以下まで下落している。ストックオプションの旨味を失った数年来の従業員としては次の道を探る時期を与えているだろう。
グラブの損失が前年の27億ドルから2021年には36億ドルに増加する一方で、売上高は44%増加し、投資家は同社がどのように損失を食い止める予定なのかに注目している中、今回の幹部の離職が発生した。
5月中旬に公表した2022年第1四半期決算では、同社は8ヶ月ぶりに四半期損失を削減した。投資家が地域最大のテクノロジー企業の一つがいつ黒字化するか疑問視する中、米ナスダックのデビュー以来80%以上急落した同社の株価は、久しぶりに上がった。
しかし、黒字化への疑問は依然として否定されていない。同社の事業はスーパーアプリの錦の旗のもとに他分野にとっちらかっており、その中には収益性の低いフードデリバリーのようなビジネスが含まれている。国ごとに言語や宗教などで多様性のある東南アジア諸国での多国間展開もコストを引き上げている。グラブがコストカットによって持続可能性を示したとき、スーパーアプリの名のもとに示した大風呂敷が極めて小さくなっている可能性がある。そしてテック株急落のあおりを受けたソフトバンクGはグラブの背中を支えるだけの追加資金がない。ビジョンファンド1の悲惨なパフォーマンスが、ベンチャーキャピタル事業に対する追加の資金調達を難しくしているのだ。
グラブをめぐる競争環境も刻一刻と苛烈になっている。Sea Ltd(シー)はインドネシアの保険会社を買収する計画を立てているとフィナンシャル・タイムズが報じた。グラブはすでに、パートナーを通じてユーザーと配車のドライバーに保険を提供している。シーも一部の国で保険会社が自社のプラットフォームで保険を販売することを認めており、地域最大の市場であるインドネシアに手をかけようとしている。
韓国で最も価値のあるフィンテックスタートアップの1つであるビバ・リパブリカは、スーパーアプリTossによって東南アジア史上でソフトバンクが支援する競合のGrabとGoToに挑む予定だ。シンガポールのGIC、PayPal、Sequoia Capital Chinaが支援するこの新興企業は、6月に評価額74億ドルで4億1,000万ドルを調達した。