中国自動車メーカーの台頭を世界が歓迎すべき理由

中国自動車メーカーの台頭を世界が歓迎すべき理由
10月17日、パリモーターショーに出展されたBYDの高級セダン「Han」。Nathan Laine/Bloomberg
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世界の自動車産業における中国の重要性を示す新たな証拠が必要だとすれば、4月18日に開幕した上海モーターショーがそれを示している。世界の他の大きなモーターショーでは、恒久的に中止や格下げが続いているが、中国のショーケースでは、多くの国から1,000の出展者が集まり、100のニューモデルが展示された。

ほんの数年前まで、中国車はデザインが悪く、粗雑に組み立てられいた。しかし現在では、この2つの点で外国車とほぼ同等になり、将来の自動車ブランドを定義するソフトウェア主導のデジタル体験では、外国車を凌駕している。しかし、世界全体から見れば、中国車の台頭はもっと重要な意味を持つだろう。地球温暖化防止のためには、二酸化炭素を排出するガソリン車を、よりクリーンなバッテリー駆動の車に置き換えることが不可欠だ。そして、中国は世界最大の電気自動車(EV)市場であり、EVメーカーでもある。

内燃機関を動力源とする自動車は、過去100年にわたり、大衆にモビリティを提供し、株主に多大な利益をもたらした偉大なサクセスストーリーであった。一握りの巨大な自動車メーカーが、製品の改良を重ね、世界中に広がる複雑なサプライチェーンを構築してくる。その結果、乗客に快適さと安全性を提供し、低価格を実現した。1970年代に躍進した日本の自動車メーカーや、1990年代に躍進した韓国の自動車メーカーとの競争は、世界的な技術革新に拍車をかけた。

現在、世界全体で約3兆ドルの売上を誇る自動車産業は、これまでにない激変を経験している。既存の自動車メーカーは、電動化、ソフトウェアの改善、自律走行への準備に奔走している。

この混乱は、電気自動車メーカーとして、またテクノロジーをビジネスの中心に据える企業として、テスラが成功を収めた結果でもある。中国の2大企業であるBYDと長安汽車は、現在国内市場シェア18%で、年間約400万台の自動車を販売している。中国の自動車メーカーは、インフォテインメントやスマートフォンのシームレスな統合に関して、特に革新的だ。一方、中国の自動車メーカーは、インフォテインメントやスマートフォンのシームレスな統合に関して特に革新的で、先行投資と大規模なスケールにより、低価格帯のEV市場でリーダー的存在となっている。このように、競争はかつてリーダーだった日本企業を埃にまみれさせているのだ。

世界のドライバーは、より安く、より環境に優しい車から利益を得ることができる。しかし、市場の覇権をめぐる競争は続くのだろうか。地政学的な環境が悪化し、欧米で保護主義がより強く支持される中、中国がEV大国として台頭している。

中国製自動車がほとんど走っていないアメリカでは、中国製自動車に対する関税はすでに禁じ手となっている。さらに、ジョー・バイデン大統領のインフレ削減法(IRA)は、北米をEV大国にするため、インセンティブや補助金を使って、国産の自動車や部品を購入するように促している。また、センサーを搭載した中国製自動車が機密データを垂れ流すのではないかという懸念も渦巻いている(中国はテスラ車を軍事基地や党大会が開かれる都市から締め出しているが、おそらく同じような懸念からだろう)。

中国の自動車メーカーが足場を固め、大々的なプロモーションを計画している欧州では、国内企業の一部が関税の引き上げを要求している。政治家たちは、大陸の自動車産業と他の種類の製造業を保護するために、IRAのような取り組みを望んでいる。

プライバシーと国家安全保障に対するリスクは、自動車メーカーによるデータの悪用に対する警戒を正当化する。しかし、これらが粗雑な保護主義の言い訳になる危険性もある。国内の雇用を守ることはできても、より多くのドライバーに害を与えるだけだ。中国の自動車メーカーとの激しい競争は、国内企業に技術革新の努力を強いるだろう。そうすれば、EVはより安くなり、地球環境にも貢献し、より良いものになり、自動車ユーザーに利益をもたらすはずだ。

壁ではなく、車輪を

中国企業は、自律走行車を改良し、ソフトウェアで強化された大画面、ムード照明、その他のグッズで乗り心地を良くしようと競争している。日本車や韓国車を締め出そうとしたのが愚かだったように、中国車に対して道路封鎖をするのも愚かなことだ。■

From "Why the world should welcome competition from Chinese carmakers", published under licence. The original content, in English, can be found on https://www.economist.com/leaders/2023/04/20/why-the-world-should-welcome-competition-from-chinese-carmakers

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翻訳:吉田拓史、株式会社アクシオンテクノロジーズ

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