疲弊し注意散漫で過負荷な現代のマネジャー[英エコノミスト]

疲弊し注意散漫で過負荷な現代のマネジャー[英エコノミスト]
Photo by Amos Bar-Zeev on Unsplash
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管理職は同情の対象にはなりにくい。年間何百万ドルもの報酬を手にする大物最高経営責任者ならともかく、上司気取りの事務長に同情するのは難しい。しかし、彼らの境遇は精査に値し、同情に値するものでさえある。隅っこのオフィスから中間管理職の個室まで、彼らの時間に対する要求は激しさを増している。

人材紹介・アウトソーシング会社のアデコ・グループが23カ国の労働者を対象に行った最近の調査によると、サンプルに含まれる1万6,000人の管理職のうち68%が過去12カ月間に燃え尽き症候群に苦しんでいることがわかった。「他人が傾斜と速度の両方をコントロールしているランニングマシンに飛び乗ったような気分だ」と、ある大手テクノロジー企業の幹部はため息をついて言う。彼の同業者の多くが同じ感想を抱いている。リクルーターによると、企業は幹部候補者に運動量を尋ねることが多いという。

採用担当者によれば、企業は幹部候補者に運動量を尋ねることが多いとのことだ。このことは、疲弊した個人だけでなく、雇用主や、ここ数十年の管理職ブームからすれば経済全体にとっても問題である。今日、アメリカには1,900万人の管理職がおり、2000年と比べて60%も増えている。アメリカ企業の従業員の5人に1人が他人を管理している。

知識産業の企業がルーティンワークを自動化し、同じデジタルツール(アマゾンウェブサービス、Gメール、マイクロソフトのオフィスソフト)に依存するようになると、競争力を高めることができるのは、テクノロジーへの投資ではなく、より優れた管理である。劣悪なマネジメントは、生産性を低下させ、従業員の離職率を高めることによって、競争力を失わせる可能性がある。2015年のギャラップの調査によると、前職を辞めた米国人の半数は、悪いマネージャーが原因だった。コンサルタント会社のマッキンゼーは昨年、同じような割合の離職者が上司から評価されていないと答えていることを明らかにした。

つまり、優れたマネジメントの価値は高まっているのだ。同時に、マネジャーが仕事をする環境も変わりつつある。この新しい環境は、過去と比較して、あるスキルにはより多くの報酬を与え、あるスキルには報酬を与えない。その結果、明日のあなたのマネジャーは、あなたの両親のマネジャーとはだいぶ異なった人物になる。

コンサルタント会社BCGのボス、クリストフ・シュヴァイザーは、2000年代まで「CEOはスーパーヒーローだった」と振り返る。家電量販店のベスト・バイを経営し、現在はハーバード・ビジネス・スクール(HBS)で教鞭をとるユベール・ジョリーは言う。

知性は依然として重要だ。スウェーデンのボスを調査したところ、大企業の典型的なトップはIQで人口の上位17%に入ることがわかった。しかし、管理職のあらゆる層において、明確なコミュニケーション、信頼を築く能力、弱さを見せる意思といった、よりソフトな社会的スキルが徐々に重視されるようになってきている。HBSの元学部長であるニティン・ノフリアは、「CEOを含む経営幹部は、不確実性を受け入れ、かつては自分が独占していたような戦略的責任さえも喜んで委譲する必要がある」と指摘する(ノフリアは、エコノミスト誌の親会社の一部を所有するエクソールの会長でもある)。

ハーバード大学のデービッド・デミングは、社交性を必要とする仕事の数が平均より早く増加し、そのような役割の賃金も上昇していることを発見した。HBSのラファエラ・サドゥンらによるエグゼクティブの求人情報の調査によると、2000年から2017年の間に、社会的スキルに関する記述が30%近く増加した。一方、金銭的・物質的資源を管理する能力に関する記述は40%減少している(図表1参照)。アデコのコーチング・プラットフォームであるEZRAで、マネジメント・コーチを雇っている企業がマネジャーに要求する最も一般的な目標は、コミュニケーション、感情的知性、信頼構築、コラボレーションなどである。スタンフォード大学のビジネススクールでは、「Touchy Feely」というコースが人気だ。

ソーシャル・スキルは、人、目標、リソースのより良い調整を可能にするため、ますます求められている。そして21世紀のビジネスは、これまで以上にそのような調整を必要としている。かつて管理職は、反復的な仕事をこなす個人を監督していた。今日では、成果を正確に測定することが難しい複雑なプロジェクトにチームで取り組むプロフェッショナルを監督することが多い。会社の外の世界も複雑化している。このことは、デミングが言うように、「意思決定に収束するまでに時間がかかる」ことを意味する。優れたマネジャーは、その主な役割を調整役とすることで、この時間を短縮することができる。このように、異質な人々や目標を円滑に合体させる能力は、特に純粋な知的スキルや技術的スキルに比べて重要である。

調整を難しくしている要因のひとつに、労働力の多様化という歓迎すべき進展がある。20世紀のアメリカでは、マネージャーも管理される側も同じ白人男性だった。「スタンフォード大学のニコラス・ブルームは言う。つまり、管理職は部下に対する暗黙の「心の理論」、つまり部下が世界についてどう考え、どう感じているかを直感的に理解していると考えることができたのだ、とサドゥンは指摘する。

ありがたいことに、これはもはや安全な仮定ではない。アメリカでは、管理職に占める女性の割合は2010年の38.5%から42%に増加している。2013年から2022年にかけて、管理職に占める非白人の割合は14%から18%以上に上昇している(図表2参照)。特に非白人従業員は、白人の同僚に比べ、会社に自分の居場所がないと感じて離職する傾向が強い。しかし、進歩は否定できない。多様性は「私たちに追いついた」とノフリアは言う。

女性であろうと男性であろうと、白人であろうとなかろうと、管理職にとっての問題は、部下の立場になって考えることがもはや自動的ではないということだ。相手の考えていることがわかると思い込むことはできないので、鋭い社会的「アンテナ」が必要なのだ、とノフリアは指摘する。ブルームの言葉を借りれば、管理職が在宅勤務の決定を通じて「私生活を裁く」ハイブリッド・ワークでは、その作業はさらにデリケートなものになる。

ダイバーシティと同様、大流行後のリモートワークの広がりは、メリットをもたらす一方で、調整コストを引き上げている。労働力を事実上運営することは、組織学者が「管理オーバーヘッド」と呼ぶものを課すことになる。ネットワーク接続が不安定でなく、人々がミュートを解除するのを忘れていなくても、バーチャル会議はアイコンタクトやジェスチャーなど多くのシグナルを遮断する。ある調査によると、対面よりもZoomの方が大声で話す人が多いという結果が出ている。

そして、管理職の時間をますます奪っている。マイクロソフトが31カ国のオフィスソフト「365」の企業ユーザー31,000人を対象に行った調査によると、2023年3月には、平均的な人が2020年2月に比べて3倍の数のTeamsのビデオ会議ミーティングや通話に参加していることがわかった。ほぼ同じ期間に、一般的なユーザーが送信したチャットメッセージは32%増加した。

予定外の通話の数は、2020年から2022年の間に8%増加し、Teamsミーティング全体の64%に達した。このようなミーティングの約60%は15分未満である。サドゥンは言う。マイクロソフトの調査では、3人に2人のワーカーが、仕事中に中断されることなく集中できる時間が十分にないと不満を述べている。マイクロソフトで調査を監督したジャレド・スパタロは、「仕事はより短調になった」と総括する。このことは、大きな認知的犠牲を強いるものであり、バーンアウト(燃え尽き症候群)の厄介な数字の一端を説明するものかもしれない、とサドゥンは付け加える。

CEOを含むエグゼクティブにとっても、集中力は低下している。サドゥンと共著者たちが、6カ国の1,100人の上司の時間の使い方を調べたところ、一人でいる時間は勤務日の4分の1しかなく、そのうちの何割かはメールの作成に費やされていることがわかった。ノフリアとマイケル・ポーターが27人の一流経営者の時間の使い方を長期にわたって調査したところ、経営者はしばしば長距離の出張を利用して考え事をしていることがわかった。パンデミック後の出張の減少は、この時間を取り戻すことが少なくなったことを意味する。もし、エグゼクティブの労働時間の構成が、その労働時間が消費するものの相対的価値を反映しているのであれば、戦略を練るよりも調整を優先することになる。

社会的スキルのプレミアムを引き上げる可能性がある最後のものは、テクノロジーである。OpenAIというスタートアップが開発した人工知能チャットボットChatGPTが1年前に世界を席巻して以来、AIの進歩は一段と加速している。ブースターたちは、ジョリーの言葉を借りれば、これまでは「才覚」が必要だった仕事のいくつかを機械が引き受けることができると主張している。このような仕事をこなすために必要な非人工知能の比較価値は低下するかもしれない。OpenAIのボス、サム・アルトマンは、知性のコストは「ほぼゼロに近づいていく」とまで断言している。

OpenAIがいつ、あるいはこれまでに、このような大胆な予測通りになるかは不明だ。しかし、少なくともマネジメントの実践とそれに必要な能力に何らかの影響を与える可能性は高い。アデコ社の調査では、回答者の70%がすでに生成AIを職場で使っていると答えている。OpenAIに大きな出資をしているマイクロソフトのスパタロは、管理職がこのようなツールの最も効果的なユーザーだと言う。「彼らはAIをチームの新しいメンバーとして扱い、タスクを任せる。マイクロソフトの調査では、80%近くの人が分析業務にAIを使うことに抵抗はないと答えており、クリエイティブな仕事についても4分の3が同じことを答えている」。

管理職が無知なエンパス(共感力の高い人)になることはない。管理職の多くは、優れた管理職であることを示す昔ながらの指標を求めている。アデコのEZRAプラットフォームの利用者は、雇用主よりも、戦略、個人の能力開発、野心の明確化に関するコーチングを求める傾向が強く、エモーショナル・インテリジェンス、信頼構築、コラボレーションを選択する傾向はかなり低い(図表3参照)。スタンフォード大学の "Touchy Feely(身体的な接触を通じた親愛の表現)” コースよりも人気があるのは、"Paths to Power(権力への道)” だろう。

このような競合する優先事項が、多くのマネジャーが圧倒されていると感じている理由かもしれない。専門知識と知性に報いる旧モデルがその支配力を緩める前に、社会的適性と調整能力を優遇する新マネジメントモデルが定着しつつある。アデコ・グループのデニス・マシュエル代表の言葉を借りれば、管理職は「翻訳に迷っている」のだ。自分自身を早く見つけることができれば、本人にとっても雇用主にとっても良いことなのだ。■

From "Pity the modern manager—burnt-out, distracted and overloaded", published under licence. The original content, in English, can be found on https://www.economist.com/business/2023/10/24/pity-the-modern-manager-burnt-out-distracted-and-overloaded

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翻訳:吉田拓史、株式会社アクシオンテクノロジーズ

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By 吉田拓史