インフレが洋上風力発電を強襲:制度再設計促す
洋上風力発電業界は、急激なコスト上昇により、最近相次いで大きな挫折を味わっている。洋上風力の成長を一時的には減速させるが、各国にインフレ耐性のある制度設計を促す絶好の機会とも言える。
洋上風力発電業界は、急激なコスト上昇により、最近相次いで大きな挫折を味わっている。洋上風力の成長を一時的には減速させるが、各国にインフレ耐性のある制度設計を促す絶好の機会とも言える。
デンマークの大手風力エネルギー開発業者であるオーステッドは、サプライチェーンの問題、金利の上昇、希望する税額控除が得られなかったことを理由に、米ニュージャージー州における2つの大規模洋上風力発電プロジェクトの中止を最近発表し、同社は関連する減損損失が50億ドルを超えたと公表した。これらのプロジェクトは合わせて2.2ギガワット(GW)以上の電力を発電する予定だった。
この頓挫は、開発業者が、マサチューセッツ州とコネティカット州にさらに3.2GWの風力発電を供給するはずだった3つのプロジェクトの電力契約を停止した後に発表された。合計すると、2030年までに30ギガワット(GW)の洋上風力発電というバイデン大統領の目標のほぼ5分の1に相当し、目標の達成が危うい。
これらのプロジェクトは、もはや財政的に実現不可能だという。高インフレ、サプライチェーンの混乱、資本と建設資材の高騰がプロジェクトをより高価なものにしているためだ。
英大手エネルギー会社BPのガス・低炭素部門責任者であるAnja-Isabel Dotzenrathは、米国における問題点として、許認可、電力購入契約締結からプロジェクト建設までのタイムラグ、インフレ調整メカニズムの欠如などを挙げた。「結局のところ、米国の洋上風力発電は根本的に破綻している」とロンドンで開催された会議で語った。
オーステッドのグループエグゼクティブバイスプレジデント兼アメリカ地域CEOであるDavid Hardyは先月、米国における洋上風力発電の平準化電力コスト(LCOE)を引き下げることが重要であり、米国人が価格とクリーンエネルギーのどちらを選ぶかを議論する必要はない、と業界団体の会合で述べた。「私たちは少し野心的すぎるかもしれません。われわれは(米国市場に)参入し、すぐに安価で大規模なプロジェクトを建設できると考えた。そして、実際には欧州が経験したような学習曲線を、我々はまだ経験する必要があると理解した」
英国もインフレの洗礼を受ける
英国でもコスト増の影響が顕著に現れた。9月、英国政府の再生可能エネルギーオークションは、新たな洋上風力発電プロジェクトの入札を確保できなかった。2015年、2017年、2019年、2022年のオークションに次ぐ5回目のものだった。
英国は洋上風力において差金決済契約(CfD)を採用している。洋上風力発電のコスト低減に貢献したCfDスキームは、最初の15年間は発電量の固定価格を保証するもの。CfDの下では発電事業者には、特定の低炭素発電技術に対する投資コストを反映させた電力価格である「基準価格(strike price)」と、英国市場における電力の平均市場価格の基準である「卸電力市場価格(reference price)」との差額が支払われる。
CfDは、電力価格上昇時により高い支援コストを支払うことから消費者を保護する一方で、不安定な卸電力価格へのエクスポージャーを低減することで、発電事業者の収益を安定化することを通じて、低炭素発電投資を支援している。
失敗の主な理由は、政府が洋上風力発電の最大基準価格(strike price)をあまりにも低く設定したことだ。欧州の風力発電事業団体Wind Europeは、過去2年間の洋上風力発電コストのインフレを考えると、この水準で洋上風力発電を建設するのは不可能な価格だったと不満を表明した。ウッド・マッケンジーによると、風力発電のサプライチェーンに携わる企業は、2015年から2021年にかけて利益率の低下や赤字が報告されている。高騰する需要に対応するために過剰な拡張を行い、同時に開発業者の規模拡大に対応するために大型製品の開発に努めたからだ。
例えば、スウェーデンの電力会社バッテンフォールは最近、設備と建設費の急激な高騰を非難し、過去数四半期でプロジェクトコストが40%も上昇したと述べた。バッテンフォールは7月、 2021年12月に開発認可を受け2022年7月にCfD契約を締結していた英国におけるNorfolk Boreas事業(発電容量1.4GW)について、中止すると発表していた。
制度側がインフレを織り込め
インフレが制度設計の想定の中になかったが、これを解決すれば、洋上風力発電はより持続可能な安いエネルギーになり得るだろう。
世界風力エネルギー協会(GWEC)の洋上風力発電のグローバル責任者であるレベッカ・ウィリアムズは、オークションの設計においてインフレ圧力を考慮する必要があることを示唆している。英業界団体RenewableUKの政策・エンゲージメント担当エグゼクティブ・ディレクター、アナ・ムサットも同意見だ。「来年のオークションラウンドが投資可能なパラメーターを提供し、長期的には洋上風力セクターの可能性を最大化するための統合戦略が策定されるという安心感を政府に提供することが緊急に必要だ」。
上述のWind Europeの声明によると、フランスのような他の国々は、洋上風力発電に対する価格支持と収益安定化の制度設計をはるかにうまく行っているとされる。
米ホワイトハウスは挫折にもかかわらず、洋上風力発電は前進し続けていると述べ、ニューヨーク州による最近の投資や、バージニア州で計画されている全米最大の洋上風力発電所の内務省による承認を挙げている。また、内務省海洋エネルギー管理局は、メキシコ湾における新たな洋上風力リース区域を発表した。
洋上風力は乱気流の中にいる。だが、これは取り返しの付かない挫折というわけではないだろう。
参考文献
PwC「A look at current financial reporting issues 再生可能エネルギーセクターにおける差金決済契約(CfD) 英国のエネルギー市場改革が会計に及ぼす影響 」