高齢化と金利上昇は日本の衰退するイノベーションにとどめを刺す?
高齢化と公定歩合の上昇は、イノベーションに悪影響を与えているかもしれない。世界一の高齢化にさらされ、長期に渡った低金利時代からの決別が示唆される日本は、技術革新の砂漠と化すのだろうか。
高齢化と公定歩合の上昇は、イノベーションに悪影響を与えているかもしれない。世界一の高齢化にさらされ、長期に渡った低金利時代からの決別が示唆される日本は、技術革新の砂漠と化すのだろうか。
シカゴ大学ファイナンス准教授のYueran Maとフランクフルト金融経営大学助教授のKaspar Zimmermannは8月、中銀関係者、経済学者らの重要な会合であるジャクソンホール会議で、興味深い論文を発表した。
この論文は、金融政策がイノベーション活動に大きな影響を与えることに関するものだ。政策金利が100ベーシスポイント引き上げられた場合、研究開発(R&D)支出は1~3年後に約1~3%減少する。また、ベンチャーキャピタル(VC)投資は25%程度減少する、と研究者は主張する。重要な技術分野における特許出願数は、また、特許に基づいた総合的なイノベーション指数は、2~4年後に最大9%減少するという。
Yueran Maらは、クラウド・コンピューティングや電気自動車(EV)など、企業の決算発表でしばしば言及される重要なテクノロジーは、金利上昇に特に敏感であることも発見した。
金融政策は、総需要とそれに対応するイノベーションの収益性を変化させることによって、また、金融市場環境を変化させることによって、イノベーション活動に影響を与えうる。Yueran Maらが使用したデータ上では、両方のチャネルが関係しているようだ。研究結果は、金融政策が、経済の短期的な成果に与えるよく知られている影響に加えて、長期的な生産能力にも影響を与える可能性があることを示唆している。
日本という「反証」
我々は強力な反証を持っている気がする。日本だ。日本は長期に渡る低金利(あるいはマイナス金利)の期間を経験しているが、イノベーションは停滞しているように思われる。ただし、ここから金利を上げると、さらにイノベーションが落ち込むのなら、Yueran Maらの洞察は、日本という特異な場所でも一定の妥当性を示すことになる。
高齢化するとイノベーションが阻害される?
日本の歴史的なイノベーションの停滞を説明する因子として、高齢化も挙げられるかもしれない。
高齢化社会の若者は、高齢化社会でない国の若者よりも起業する割合が低い、という興味深い洞察を提供する分析がある。北京大学光華管理学院教授のJames Liangらの研究では、国の平均年齢が1標準偏差低下すると、新規企業設立率は2.5パーセントポイント上昇することが示唆された。高齢化社会では、あらゆる年齢層の起業率が低くなる。
James Liangらは、その要因として、起業家精神は年齢とともに単調減少することや、投資のための物理的資本を得る能力は年齢に関連している可能性、年功序列型の典型的な企業では、年長の従業員が多いため、若年労働者の昇進はかなり遅いことに言及している。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのCentre for Economic Performanceが発表した分析によると、Antonin BergeaudとCyril Verluiseは、ゲノム編集やブロックチェーン技術における日本の貢献度はほとんどゼロになったとしている。水素貯蔵、自動運転車、コンピュータビジョン(コンピュータに画像を解釈させる人工知能の一種)の分野でも、かつてはトップクラスだった日本が、米国、中国、あるいはその両方に次ぐ脇役に転落した。
参考文献
- Ma, Yueran and Zimmermann, Kaspar, Monetary Policy and Innovation (September 2023). NBER Working Paper No. w31698, Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=4574643 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4574643
- Liang, James and Liang, James and Wang, Hui and Lazear, Edward P., Demographics and Entrepreneurship (September 2014). NBER Working Paper No. w20506, Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=2499368