欧州のサッカー・クラブが金融の戦場に変貌

欧州のサッカー・クラブは、世界中の大富豪が競い合う資産になった。中東と米国の投資家が値を吊り上げ、ウォール街がサービスを提供するフットボール界は金融の戦場に変貌した。

欧州のサッカー・クラブが金融の戦場に変貌
Licensed under the Unsplash+ License

欧州のサッカー・クラブは、世界中の大富豪が競い合う資産になった。中東と米国の投資家が値を吊り上げ、ウォール街がサービスを提供するフットボール界は金融の戦場に変貌した。


米国の富豪グレイザー一族が所有する英国のサッカー・チーム、マンチェスター・ユナイテッドには少なくとも2件の入札があり、フットボールチームの買収額の記録を更新するという観測が浮上している。

カタール・イスラム銀行の会長で、湾岸諸国の元首相の息子であるシェイク・ジャシム・ビン・ハマド・アル・タニが、60億ドル台のオファーを出していると報じられている。彼はクラブに巨額の資金を投じると公言しており、同郷のライバルであるアラブ首長国連邦(UAE)資本のマンチェスター・シティや、サウジアラビア資本のニューカッスル・ユナイテッドと資金面での軍拡競争になる可能性が出てきている。

もう1人の入札者は、イギリスで最も裕福な実業家の1人であり、長年のユナイテッド・サポーターでもあるジム・ラトクリフだ。ラトクリフは、今回の入札では、自分が湾岸の石油王でないことを強調した。

しかし、取引は確実ではない。シェイク・ジャシムもラトクリフも、欧州サッカー連盟(UEFA)が定めた、チャンピオンズリーグのような同じ大会で複数のクラブを所有することを制限するルールをクリアしなければならない。ラトクリフはすでにフランスのOGCニースを所有しており、一方シェイク・ジャシムはパリ・サンジェルマンを所有するカタール人の利害関係者とは無関係であることを関係者に納得させなければならない。

ウォール街は、サッカークラブのM&Aを一攫千金のチャンスと見ている。昨年、チェルシーFCの25億ポンドの売却を手がけたレイン・グループは、ユナイテッドの売却も手がける。ゴールドマン・サックスとJPモルガン・チェースはラトクリフに、バンク・オブ・アメリカはシェイク・ジャシムに助言している。米国の巨大なアクティビスト・ファンドであるエリオット・マネジメントは、グレイザー家に増資の引受けを申し出ていると伝えられている。

また、イングランドで最も成功しているクラブのひとつであるリバプールFCも、アメリカのオーナーであるフェンウェイが、株式を売却する投資家候補と話をしていた。フェンウェイは、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーと協力していたという。プレミアリーグは中東と米国のオーナーによる資本戦争の様相を呈しており、フェンウェイが2010年にリバプールを買収した当時のような「お買い得」の場ではなくなっている。

ブルームバーグがまとめたデータによると、この分野のM&A額は2022年に過去最高の186億ドルに達し、その前年に記録した過去最高を余裕で超えている。

もともとフットボールクラブは、魅力的なプライベート・エクイティとはみなされていなかった。2000年代に入り、ロシアの大富豪ロマン・アブラモビッチによるチェルシーFCの買収、アメリカのグレイザー家による、マンチェスター・ユナイテッドの買収で状況は変化し始めた。

グレイザー家は自分たちの持ち分を優先株に変え、支配権を確立した上でユナイテッドを米株式市場に上場した。レバレッジ・バイアウト(LBO)スキームが残した負債は、買収後のチームの負担となり続けた。その他の様々な混乱やクラブの低迷によって、グレイザー家はファンから好ましく思われていないオーナーだった。

リバプール大学でサッカー・ファイナンスを教えるキエラン・マグアイアは、「サッカーは、世俗的な社会で最も宗教に近いものだ」と言う。「もし、宗教的な熱意を持つ人々を動揺させれば、代償を払うことになる」

参考文献

Read more

宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

Google Cloudは10月8日、「自治体におけるゼロトラスト セキュリティ 実現に向けて」と題した記者説明会を開催し、自治体向けにゼロトラストセキュリティ導入を支援するプログラムを発表した。宮崎市の事例では、Google WorkspaceやChrome Enterprise Premiumなどを導入し、災害時の情報共有の効率化などに成功したようだ。

By 吉田拓史
​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

Google Cloudが9月25日に開催した記者説明会では、イオンリテール株式会社がCloud Runを活用し顧客生涯価値(LTV)向上を目指したデータ分析基盤を内製化した事例を紹介。従業員1,000人以上がデータ分析を行う体制を目指し、BIツールによる販促効果分析、生成AIによる会話分析、リテールメディア活用などの取り組みを進めている。

By 吉田拓史
Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Google Cloudは、年次イベント「Google Cloud Next Tokyo '24」で、大規模言語モデル「Gemini」を活用したAIエージェントの取り組みを多数発表した。Geminiは、コーディング支援、データ分析、アプリケーション開発など、様々な分野で活用され、業務効率化や新たな価値創出に貢献することが期待されている。

By 吉田拓史