各国政府はAIの取り締まりを急ぐべきではない[英エコノミスト]

各国政府はAIの取り締まりを急ぐべきではない[英エコノミスト]
Photo by Cash Macanaya on Unsplash

AIは私たちを殺すのか? 一部の技術者は、その答えはイエスだと本気で信じている。ある悪夢のようなシナリオでは、AIが最終的に人類を出し抜き、コンピューターや工場を乗っ取り、殺人ドローンで空を埋め尽くすというものだ。また別のシナリオでは、ChatGPTのような生成AIのような大規模な言語モデル(LLM)が、悪者に壊滅的なサイバー兵器や致命的な新種の病原体を作り出すノウハウを与えてしまう。

このような終末のシナリオについて、今こそ真剣に考える時である。その可能性が高まったからではなく、その可能性がどれほど高いかは誰にもわからないが、世界中の政策立案者がその対策に腐心しているからである。欧州連合(EU)は拡大的なAI法を最終決定し、ホワイトハウスはLLMを対象とした大統領令を間もなく発表する見込みだ。11月1日と2日には、英国政府が世界のリーダーや技術界のボスを招集して「AI安全サミット」を開催し、AIモデルがもたらすかもしれない極度のリスクについて話し合う。

政府は、世界を大きく変える可能性のあるテクノロジーを無視することはできないし、人類に対する信頼できる脅威は真剣に受け止めるべきである。規制当局はこれまで遅すぎた。2010年代にソーシャルメディアを取り締まるためにもっと早く行動していればと多くの人が思っており、今度こそ先頭に立ちたいと思っている。しかし、性急な行動には危険も伴う。あまりに急ぎすぎると、政策立案者たちは、間違った問題を対象とし、現実の問題に対しては効果がなく、イノベーションを阻害するようなグローバルなルールや制度を作りかねない。

AIが人類を絶滅に追い込むという考えは、まだまったくの推測にすぎない。そのような脅威がどのように顕在化するかは、まだ誰にもわからない。何が危険なのか、ましてや危険性の基準に対してモデルを評価するための一般的な方法は存在しない。基準やルールを設定する前に、多くの研究を行う必要がある。このため、地球温暖化を追跡・説明する「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」のようなAIを研究する機関が世界には必要だと言うテック企業の経営者が増えている。

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コロナは世界の子どもたちにとって大失敗だった[英エコノミスト]

コロナは世界の子どもたちにとって大失敗だった[英エコノミスト]

過去20年間、主に富裕国で構成されるOECDのアナリストたちは、学校の質を比較するために、3年ごとに数十カ国の生徒たちに読解、数学、科学のテストを受けてもらってきた。パンデミックによる混乱が何年も続いた後、1年遅れで2022年に実施された最新の試験で、良いニュースがもたらされるとは誰も予想していなかった。12月5日に発表された結果は、やはり打撃となった。

By エコノミスト(英国)
中国は2024年に経済的苦境を脱するか?[英エコノミスト]

中国は2024年に経済的苦境を脱するか?[英エコノミスト]

2007年から2009年にかけての世界金融危機の後、エコノミストたちは世界経済が二度と同じようにはならないことをすぐに理解した。災難を乗り越えたとはいえ、危機以前の現状ではなく、「新常態」へと回復するだろう。数年後、この言葉は中国の指導者たちにも採用された。彼らはこの言葉を、猛烈な成長、安価な労働力、途方もない貿易黒字からの脱却を表現するために使った。これらの変化は中国経済にとって必要な進化であり、それを受け入れるべきであり、激しく抵抗すべきではないと彼らは主張した。 中国がコロナを封じ込めるための長いキャンペーンを展開し、今年その再開が失望を呼んだ後、このような感情が再び現れている。格付け会社のムーディーズが今週、中国の信用格付けを中期的に引き下げなければならないかもしれないと述べた理由のひとつである。何人かのエコノミストは、中国の手に負えない不動産市場の新常態を宣言している。最近の日米首脳会談を受けて、中国とアメリカの関係に新たな均衡が生まれることを期待する論者もいる。中国社会科学院の蔡昉は9月、中国の人口減少、消費者の高齢化、選り好みする雇用主の混在によってもたら

By エコノミスト(英国)
イーロン・マスクの「X」は広告主のボイコットにめっぽう弱い[英エコノミスト]

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広告業界を軽蔑するイーロン・マスクは、バイラルなスローガンを得意とする。11月29日に開催されたニューヨーク・タイムズのイベントで、世界一の富豪は、昨年彼が買収したソーシャル・ネットワーク、Xがツイッターとして知られていた頃の広告を引き上げる企業についてどう思うかと質問された。「誰かが私を脅迫しようとしているのなら、『勝手にしろ』」と彼は答えた。 彼のアプローチは、億万長者にとっては自然なことかもしれない。しかし、昨年、収益の90%ほどを広告から得ていた企業にとっては大胆なことだ。Xから広告を撤退させた企業には、アップルやディズニーが含まれる。マスクは以前、Xがブランドにとって安全な空間である証拠として、彼らの存在を挙げていた。

By エコノミスト(英国)