あなたの買い物を完全制覇するAmazon 帝国の戦略

Amazonはあなたの購買のすべてを占拠するつもりだ。これまで手薄だった現実世界にまで手を伸ばしています。

あなたの買い物を完全制覇するAmazon 帝国の戦略

予測

Amazonはあなたの購買のすべてを占拠しつつあります。これまで手薄だった現実世界にまで手を伸ばしています。デジタル、リアルの双方におけるタッチポイントと購買で十分なスケールを握れば場合、Amazonは人々の購買において最強になるはずです。

論拠

Amazonが昨夏Whole Foodsを買収したことは大きなニュースでした。Whole Foodsは米スーパー市場の2%シェアに過ぎません。他のスーパーマーケットと収益を比較すると、Whole Foods(160億ドル)はWal-mart (2720億ドル)、Kroger (870億ドル)、Costco ($670億ドル)に遠く及びません。Amazonはこれまで書店の開店やAmazon Goの発表、Amazon Freshでの店舗網の整備など、オフラインへの参入を伺っているようでしたが、それがこの買収でより具体的な形になりました。


スーパーマーケットはデータ収集装置

まずAmazonが昨年に発表した「Amazon Go」を思い出してみましょう。Amazon Goでは入場のゲートでアプリの画面を認識させた後は、買い物かごを持たずに好きなものをあなたのバックに入れて、チェックアウトできます。これが何を意味しているでしょうか?

Amazon Goはコンピュータービジョン、ディープラーニング、センサ・フュージョンという自動運転で用いられているのと同様のテクノロジーが活用されていると説明されています。センサ・フュージョンとは複数のセンサ、例えばレーザレーダや車載カメラなどから得た多くのデータを処理することで、単一のセンサからは得られない高度な認識を実現できるといいます。

Teslaの自動走行車がとても分かりやすい例です。

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画面の右側がフロント、サイド、後方に設置されたカメラであり、目まぐるしく物体認識を続けています。同時にレーザーレーダーのデータをリアルタイム処理しています。この処理には高度で最適な演算能力を提供するコンピューティングパワーが必要となります。Teslaは近年注目の集まる半導体メーカーのNVIDIAを採用しています。

NVIDIAの提供するチップは二つの引力を生み出しています。一つがクラウドへの引力。もう一つがエッジへの引力。テスラの自動走行車のコントロールにはデータ発生源での即座の処理が重要になります。

乗用車のように速い速度で移動するもので、コンピュータビジョンによる認識とそのデータのリアルタイム処理が可能なのです。比較的動きの少ない店舗内での応用はおそらく不可能ではないはずです。

Amazon Goで想定されるコンピュータビジョンの活用

  1. チェックイン時に入り口のゲートで、アプリのコードをかざしアカウント認証します(将来的には顔認証や生体認証を組み合わせた二段階認証に発展するかもしれません)。
  2. ゲートでアカウントの持ち主の人間の位置を確認し、その後店内での移動すべてが、コンピュータビジョンによりトラックされるはずです。棚から商品をとったときにその人が買ったということを認識するのにカメラ、レーザー、ソナー、重量センサーのフュージョンが用いられると考えられます。
  3. 「棚Aに手を伸ばしたのがAmazon Account Bさん。複数のセンサデータから棚から商品Cが一つとられたことが確認された。カメラは商品CがBさんのバックに入ったのを確認した。Bさんのカートに商品Cを追加する」。

いくつかの課題が残っており、サービス開始の課題になっていると推測できます。

  • ユーザが買った商品を正確に把握しないといけません。100%に近い精度がなければ体験が悪化します。
  • 不正行為の防止
  • 一度商品を手にとって違う場所に返す顧客の行動
  • ユーザが多量のセンサに「監視されている」と意識させない店舗デザイン

コンバージョンマシーン

今度はマーケティングの視点から眺めてみましょう。Whole Foods買収によりeコマースと相性の悪い生鮮食品のコンバージョン地点を押さえました。

  • Amazonは大規模ユーザに対するクロスデバイストラッキングが可能です。 ユーザによるモバイルからの購買行動は拡大を続けており、デバイスごとのログインが得られているはずです。アカウントとデバイスのつながりを知ることで、デジタル上の行動を獲得します。
  • デジタル上の行動がもたらすコンバージョンをとる装置としてAmazonは極めて有力です。 オンライン上の行動・購買に関して優位になりうるデータを蓄積しています。
  • ここにリアルの生鮮食品のコンバージョンをもつWhole Foodsが加わりました。 実店舗というゴールを持つことでマーケティングからコンバージョンへのカスタマージャーニーをめぐるデータ解析において有意なものを採れるかもしれません。もちろん、ホールフーズは全米小売マーケットシェア2%にすぎないので貧弱ではあるが、プライム会員と顧客層が重なると指摘されています。つまり、Prime会員のような高位中間層以上の顧客に関しては、ネットの行動データと、Amazon本体とホールフーズによる多ジャンルに渡る購買データの蓄積が行えます。これはコマースサービスなどのカスタマイズに必ず生きてきそうです。
  • Walmartのような通常な小売業者は、Amazonが支配的なインターネットコマースの存在感が希薄です。 ウェブサイト、モバイルアプリなどを開発していますが、十分なユーザー数やトラクション確保できていません。Amazonは買収で小売業に地歩を築くことが可能ですが、Walmartが逆をすることは難しい。何しろAmazonはeコマースの競合が生き残れないほどの競争環境を敷き続けてきました。この人々のデジタルコマースに費やす時間を独占している状況はAmazonが他の小売業者に対して長期的に優勢を築ける大きな要因です。

サプライチェーンをまるごと改善

Amazonはロイヤルカスタマーを囲い込んだ上で、商品開発、製造、物流、マーケティングなどを統合していこうとしているかもしれません。限定した顧客層に対して圧倒的なベネフィットを提供することで、やがてPrime会員になろうという引力が生じることが、想定できます。Prime会員のユーザーベースが増えれば増えるほど、その財・サービスから得られる便益が増加するでしょう。ネットワーク外部性です。

  • 収穫される多量のデータはやがては、プライベートブランドの商品開発にも生かされることになるでしょう。 生産設備のイノベーションが起きれば、あなたの細やかな好みにまで各商品をカスタマイズできるようになるかもしれません。Amazonはあなたの買い物の傾向をすべて把握しているので、プレディクティブにあなたにカスタマイズ商品をおすすめするようになるかもしれません。
  • 顧客が生み出す多量のデータを使って商品展開の速度をとても速くできます。 ファストファッションブランドが行うような、マーチャンダイジングと販売の短期的なサイクルを生み出せます
  • Amazonは広告事業を急速に拡大しています。 顧客の購買データを活用する広告買い付けソフトウェアのDSP(デマンドサイドプラットフォーム)からセラー向けのソリューションも行います。広告主はAmazonのDSPで広告を買い付け、AmazonやWhole Foodsでコンバージョンを確認することができます。
    -バックサイドの物流でイノベーションを起こそうとしています。 Amazonは2012年にKivaを買収しています(その後、Amazon Roboticsに改称)。KivaのテクノロジーはAmazonの倉庫作業の一部を自動化しています。
  • Amazonは人手の作業が必要なピッキングに関しても「Amazon Picking Challenge」というコンテストを行い、高額の賞金を付与して自動化の解を求めています。 倉庫作業は以前から、Amazon創業時から従業員の不満が大きく、従業員の確保が困難です。最終的には人間の手を極力廃したオペレーションを望んでいるのが伺えます。

あなたを膜のように包み込むAmazon

  • Amazonは人々とのタッチポイントを拡大する戦略を進めています。 その代表であるホーム音声アシスタントデバイスのAmazon Echoは爆発的な速度で普及しています。Echoに搭載されるAmazon Alexaは今年1月のCESで自動車メーカーや電機メーカーのスマートホームプロダクトに採用が進み、Google Assistantへのリードを印象づけました。
  • Amazonはスピーディにユーザベースを押さえていますが、音声認識のパフォーマンス自体はGoogleほうが上かと言われています。 360iの調査によると、3000件の質問を与えられたGoogle Assiatantはそのうちの72%に回答しましたが、Amazon Alexaは13%に過ぎませんでした。GoogleはAmazonの6倍回答しました。音声認識のパフォーマンスは両者の激突を大きく左右するはずです。

Google Assistantの優位性

  • 検索で築いたKnowledge Graph
  • 広範な用途に対応するAssistant
  • 強固な開発者コミュニティ
  • DeepMindなどAIスタートアップの買収
  • AI研究者の囲い込み

Amazon Alexaの優位性

  • 好調なEchoの販売台数(2017年1月1100万台)
  • 広範なパートナーシップ
  • 特定の利用方法(商取引、Voice-Enable=作業代行)への特化
  • Amazonはバリューチェーンを握っているのでAlexaで稼ぐ必要がない

音声認識精度で世界1位というGoogleに対して、Amazonの機会は音声認識自体で収益を作る必要がないことだ。Alphabetの2016年通年決算とIABオンライン広告レポートから推定すると、Googleの収益の4割程度が検索広告からもたらされています。

仮に消費者行動が「すべてを音声で済ませる」ように向かえば、検索後にスクリーン上で広告を見るプロセスは省略されます。Voice-enable(音声で物事を実現すること)とスマートホーム、音楽・機器や各種プロダクト / アプリケーションの連携はそちらに向かっていますが、この流れの一部はGoogleの主要な収益源の不安要因になりかねないのです。今年のGoogle広告部門の会議ではAssistantをトランザクションの手数料で収益化する可能性がほのめかされました。

AmazonとしてはGoogleがこの相反する利益を調整し終える前にスピーディに動いて、コマース・エンターテイメントプラットフォームの強みを活かせるエコシステムと、相応のパフォーマンスを作れるかが重要なのです。

Amazonアカウントがすべてを集約する

あなたがAmazonの世界を泳ぐときその拠点となるのはAmazonアカウントです。

Amazon Prime会員(全米8000万人)は非Primeに対して平均86%多くお金を使います。 Costcoの会員制モデルに似た仕組みを作ることができます。オンライン―オフラインにまたがる会員制モデルを築くことができるはずです。

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Costcoのビジネスモデルをオンラインとオフラインをまたぐ形で再現したとも表現できます。 Jeff BezosはCostcoのサブスクリプション型ビジネスモデルに着想を得たこと知られています。2001年にBezosはCostco創業者のJim Sinegalと会談しました。SingealはCostcoのビジネスは顧客ロイヤルティに拠るものだ、とベゾスに説明したそうです。

Costcoは絞り込まれた品数を大量に仕入れ、利益がほとんど出ない水準まで価格を下げます。広告には費用を割かず、他店より低価格で販売する代わりに50~100ドル程度の年会費を取ります。Costcoの利益の大半が商品の販売ではなく年会費からもたらされます。

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Prime会員がWhole FoodsでCostcoの会員同様ディスカウントを楽しめるなら、Amazon Prime会員への引力とネットワーク外部性を引き起こせるかもしれません。Whole Foodsのコールドチェーンを獲得したので、今後はAmazon Freshで進めようとしていた生鮮食品の宅配にも弾みがついたはずです。

Amazonアカウントに紐付いてリアルタイムでもたらされるトランザクションデータから、Whole FoodsがAmazonのサイトやアップで行われる秒刻みのダイナミックプライシングを採用することが可能になりそうです。Whole Foodsのプライシングは高すぎると揶揄されている点や、生鮮食品は在庫はロスにつながる点からも、ダイナミックプライシングが小売業にもたらすインパクトは大きいはずです。

結論

Bezosの戦略はシンプルなものと推測されます。Amazonのアカウントを利用すること、特にPrime会員であることのベネフィットを積み増していくことです。そのためにはこれまで通り利益を出さずグロースに注力することです。

Photo Via Amazon.com press room

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