米国のEV供給網構築を難しくする中国の一極支配

米国は大規模の産業政策によって、電気自動車(EV)の供給網を中国から切り離し、自国内に引き入れようとしている。しかし、長期的な投資で圧倒的な地位を築いた中国への依存はそう簡単に切れるものではない。

米国のEV供給網構築を難しくする中国の一極支配
Licensed under the Unsplash+ License

米国は大規模の産業政策によって、電気自動車(EV)の供給網を中国から切り離し、自国内に引き入れようとしている。しかし、長期的な投資で圧倒的な地位を築いた中国への依存はそう簡単に切れるものではない。


2022年8月17日に施行されたインフレ抑制法は、北米で製造された電気自動車(EV)に寛大な税額控除を提供している。

同法は、2024年までに電気自動車のバッテリーに使用される重要鉱物の50%を北米または米国の同盟国から調達し、2026年末までに80%にすることを自動車メーカーに要求している。

同法は、電池セル、モジュール、材料の生産奨励金を最大限に活用し、電気自動車のクレジット要件に準拠しようとするインセンティブの創出を企図しているが、現実はそううまくいかないようだ。

フィナンシャル・タイムズ(FT)の報道によると、フォード、ステランティス、フォルクスワーゲン(VW)などの自動車メーカーは、この新しい規則をめぐって、電池に含まれる少量の中国製材料が、一定の閾値で許容されるよう規制当局に求めている。

VWは10%以下に設定することを提案。VWアメリカCEOのパブロ・ディ・シは、業界はそんなに速く動けないと述べた。米国議会は、代わりに2030年までのより段階的なプロセスを作成する必要があると、彼と現代自動車の最高執行責任者のホセ・ムニョスは語っている。

フォードは、所有者に関係なく米国で組織されたすべての企業、およびブラックリストに掲載された国と提携している合弁企業に対して「懸念される外国企業(foreign entity of concern)」というラベルを貼らないよう求めているという。

フォードは自動車メーカーは7月、中国の電池メーカーであるCATLが、来年にはマスタング・マッハEに、2024年にはF-150ライトニング・トラックに電池を供給すると発表していた。

中国の電池支配

フォードの例が明らかにしているように、大半の自動車会社は、中国の電池供給網に依存している。国際エネルギー機関の報告書によると、中国は世界のニッケルの35%、リチウムの半分、コバルトの60%、希土類元素(レアアース)の90%の精製工程を支配している。

EV用電池のサプライチェーンのすべての段階での生産が一握りの企業に集中しており、電池にとって重要な部品である正極と負極の製造は、中国企業が独占している。IEAの分析によると、正極は世界の生産量の半分以上を7社が占め、そのうち上位3社のうち2社が中国企業である。

BloombergNEFが11月中旬に発表した「世界リチウムイオン電池供給チェーンランキング」で、中国は3回連続で首位となった(図表参照)。BloombergNEFは2027年の予測においても、中国が首位となった。報告によると、中国は現在、電池セル生産能力の75%、負極材と電解液の生産能力の90%を担っている。

出典:BNEF’s global battery supply chain ranking table 2022
出典:BNEF’s global battery supply chain ranking table 2022

ゴールドマン・サックスの見方

しかし、ゴールドマン・サックスは、米国と欧州は2030年までに1,600億ドル以上の新規設備投資により、EV用電池の中国への依存を低減できると予測している。

中国と競合する国々が自給自足のEVサプライチェーンを手に入れるには、電池に782億ドル、部品に604億ドル、リチウム、ニッケル、コバルトの採掘に135億ドル、これらの材料の精製に121億ドルの費用が必要になると、報告書は計算している。

ゴールドマン・サックスのアナリストは、今後3年から5年の間に、中国抜きでも完成品電池の需要を満たすことができると見ている。これは主に、米政府から多額の補助金を得る韓国のLGとSKによる米国での投資によるものとされる。

欧米におけるEV用電池生産の経済性が、中国とのデカップリングにおける根本的な障壁となっている。「最近の企業発表から推測される米国の1台当たりの設備投資額は中国より78%高い。最近の労働力不足と賃金インフレも米国での電池生産をより高価にするだろう」とアナリストは指摘している。

また、中国以外のEVサプライチェーンでは、環境リスクも未解決の課題となっている。これまで世界は、鉱物の採掘だけでなく、毒性の高い化学物質やその廃棄物を伴う材料加工についても、中国に依存してきた。

Read more

AI時代のエッジ戦略 - Fastly プロダクト責任者コンプトンが展望を語る

AI時代のエッジ戦略 - Fastly プロダクト責任者コンプトンが展望を語る

Fastlyは、LLMのAPI応答をキャッシュすることで、コスト削減と高速化を実現する「Fastly AI Accelerator」の提供を開始した。キップ・コンプトン最高プロダクト責任者(CPO)は、類似した質問への応答を再利用し、効率的な処理を可能にすると説明した。さらに、コンプトンは、エッジコンピューティングの利点を活かしたパーソナライズや、エッジにおけるGPUの経済性、セキュリティへの取り組みなど、FastlyのAI戦略について語った。

By 吉田拓史
宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

宮崎市が実践するゼロトラスト:Google Cloud 採用で災害対応を強化し、市民サービス向上へ

Google Cloudは10月8日、「自治体におけるゼロトラスト セキュリティ 実現に向けて」と題した記者説明会を開催し、自治体向けにゼロトラストセキュリティ導入を支援するプログラムを発表した。宮崎市の事例では、Google WorkspaceやChrome Enterprise Premiumなどを導入し、災害時の情報共有の効率化などに成功したようだ。

By 吉田拓史
​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

​​イオンリテール、Cloud Runでデータ分析基盤内製化 - 顧客LTV向上と従業員主導の分析体制へ

Google Cloudが9月25日に開催した記者説明会では、イオンリテール株式会社がCloud Runを活用し顧客生涯価値(LTV)向上を目指したデータ分析基盤を内製化した事例を紹介。従業員1,000人以上がデータ分析を行う体制を目指し、BIツールによる販促効果分析、生成AIによる会話分析、リテールメディア活用などの取り組みを進めている。

By 吉田拓史
Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Geminiが切り拓くAIエージェントの新時代:Google Cloud Next Tokyo '24, VPカルダー氏インタビュー

Google Cloudは、年次イベント「Google Cloud Next Tokyo '24」で、大規模言語モデル「Gemini」を活用したAIエージェントの取り組みを多数発表した。Geminiは、コーディング支援、データ分析、アプリケーション開発など、様々な分野で活用され、業務効率化や新たな価値創出に貢献することが期待されている。

By 吉田拓史