高速食料品宅配「インスタントデリバリー」の急速な台頭

高速食料品宅配「インスタントデリバリー」の急速な台頭
Image based on Jokr.

要点

注文から15分で食料品を届ける高速食料品宅配「インスタントデリバリー」に世界中で投資マネーが注ぎ込まれている。強烈な資金燃焼という時間制限を抱えながら、最速で顧客の欲求を実現することで既存プレイヤーを押し出そうとしている。


今年7月、高速食料品宅配新興企業のJokrは南北アメリカとヨーロッパでの事業拡大を促進するために、GGV Capital、Baldton Capital、Tiger Global Management等から1億7,000万ドルの資金を調達した。 ドイツで設立されたJokrは今年始めにサービスを開始したばかりだ。

Jokrはヨーロッパでも事業を展開しているが、主に北米と、米国、ブラジル、メキシコなどの南米の市場に注力しています。ヴェンツェルによると、同社は消費者にとって食料品だけではなく、掃除用品や医薬品なども販売し、数分で配達することを目標としている。

The Informationによると、最近、Jokrは 2億5,000万ドルを上限とする新たな資金調達を投資家に打診したと、この件に詳しい2人の関係者が語っている。

今年に入ってから、VCはJokrのような企業に何十億ドルもの資金を投入し、食料品業界のシェアを奪おうとしている。先月、トルコのGetirは5億5500万ドル、ドイツのFlinkは2億4000万ドルを調達した。

宅配サービスの競争はまもなく米国全土に広がりそうだ。Jokr、Fridge No More、Buyk、1520などの聞き慣れない名前の新興企業が、投資家に売り込みをかけ、時には総額数億ドルの資金を調達している。

The Informationによると、昨年10月にニューヨークでインスタントデリバリー用の倉庫を立ち上げた最初のスタートアップであるFridge No Moreも、約1億6,000万ドルの新たな資金調達ラウンドを最終的に決定しているという。今回のグループの中で最も若いBuykは、シリーズAラウンドで5億ドルという最も大きな金額を目標としているとされる。

急成長 vs 資金燃焼

これらのインスタントデリバリー企業は、グロサリーストア(小型の食料品店)で売っているような食料品を注文から「15分以内」で宅配するとうたっている。高速食料品宅配は「Amazon on Steroids(ステロイドを使ったAmazon)」と形容されている最速戦略だ。

これらの新興企業は、高いコストをかけても、メーカーや流通業者から直接仕入れた商品を保管できるため、利益率が向上し、特定の地域に合わせた商品を販売することができると主張している。

彼らは「ダークストア」と呼ばれる倉庫を人口の多い地域に8分以内で行ける地域に設置する。それによって15分配達が可能になる。

収益性を高めるためには、個々の倉庫で収益を上げるために必要な顧客の獲得を迅速に行うことが重要だ。The Informationによると、Fridge No MoreのDanilovは、同社のダークストアがキャッシュフローを黒字化するためには、1日に250~300件程度の注文が必要だと見積もっているという。Danilovは、同社の初期の倉庫の中には、損益分岐に必要な注文量を達成し始めたところもあると述べている。

この倉庫モデルは、InstacartやDoorDashのようなアプリベースの大企業が、食料品店のパートナーと販売収入を共有するモデルとは異なる。倉庫や仕入れが必要なため、Instacartのような宅配して代金の一部をもらうモデルよりもコストは高くつく可能性が高い。

Amazonのお急ぎ便とeBayの売買仲介による到着の対比を考えてほしい。Amazonは即配によりユーザーのロイヤルティを向上させることができる反面、仕入れや物流を抱えるためコストが高くつく。eBayは仕入れをしないためアセットライトで利益率が上がりやすいものの、Amazonのようなプレイヤーに顧客を奪われやすい。インスタントデリバリーは食料品宅配のAmazonのポジションをとり、InstacartやDoorDashのようなプレイヤーを押し出そうと目論んでいるだろう。

しかし、高速宅配を実現するための赤字は、規模の拡大によって収支が均衡することを期待して、1日に処理できる配達量を増やさなければならないというプレッシャーを新興企業に与えている。

今年初めに世界10都市で食料品の配達サービスを開始した新興企業「Jokr」は、The Informationが閲覧した内部データによると、7月末時点でわずか170万ドルの売上で1,360万ドルの損失を出している。Jokrは年初来の7カ月間に、売上高よりも商品の購入と配送に230万ドル(約2億5,000万円)を費やした。

シェア拡大のために、ニューヨークやロンドンなどの大都市では大規模な投資が行われているようだ。高速宅配のスタートアップ企業は、小規模な都市の倉庫を何十件も借り、また、UberやInstacart、DoorDashの配達を担当する契約社員の代わりに、通常はフルタイムのドライバーやライダーなどの労働者を雇っている。

マンハッタンでは、Fridge No MoreとJokrが、ビルボード、バスターミナル、E-Bikeステーション、デジタルタクシーを広告で埋め尽くし、新しい顧客を獲得している。

彼らはできるだけ多くの資金を調達し、できるだけ多くのダークストアを開設し、街中でプロモーションを展開している。恐ろしい速度で資金を燃焼しているだろう。このようなモデルでは、時限爆弾を体に巻きつけてトライアスロンをしているようなもので、成功は針の穴を通すようなものと考えられる。

背景

パンデミックが始まって以来、オンライン食料品業界の競争は激化しており、多くのサービスが競っている指標の一つが配達時間。かつては、2時間以内に食料品を配達することは、オンラインで食料品を購入する人の多くを感動させる約束だったが、そのハードルは高くなっている。

2020年3月以降、食料品のオンライン配送は活発化していますが、ほとんどの消費者はまだ店舗で買い物をするか、ピックアップを注文するかに限られている。ACI Worldwideと共同で実施したPYMNTSの調査のデータによると、オンラインで購入して自宅に商品を配送してもらっている食料品購入者は23%に過ぎないことが判明した。

しかし、オンラインショッピングを利用している人たちは、スピードと利便性を重視している。調査によると、オンラインで食料品を購入する人の4分の3以上が、手軽さや利便性を要因として挙げており、57%が「より速いから」という理由でこのチャネルを選択していることがわかった。

オンライングロサリーの普及は、コロナウイルスの発生をきっかけに始まったかもしれないが、普及率はまだまだ低い。これは拡大余地なのか、それともここが上限なのだろうか。

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