HippoのSPAC上場分析
Hippo Enterprisesは、特別目的買収会社(SPAC)と合併する最新の保険技術企業だ。Hippoは、保険テクノロジー企業を50億ドルで評価する取引でReinvent Technology Partners Z(ティッカー:RTPZ)と合併すると発表した。

Hippo Enterprisesは、特別目的買収会社(SPAC)と合併する最新の保険技術企業だ。Hippoは、保険テクノロジー企業を50億ドルで評価する取引でReinvent Technology Partners Z(ティッカー:RTPZ)と合併すると発表した。
2015年に立ち上げたHippoは、消費者に住宅所有者保険を提供しており、顧客は1分以内に保険の見積もりを取得し、5分以内に保険契約を購入することができるという。買収が完了すれば12億ドルの現金を保有することになるが、これは年央になると予想される。Hippo社とReinvent社の両社の取締役会は、この取引を承認している。
Hippoは、テクノロジーの導入が遅れている保険業界の再発明を目指すいくつかの保険技術者のうちの1社である。取引を発表した投資家向け資料によると、今年の年間保険料総額は5億4,400万ドルに達すると予測されている。この新興企業は400人以上の従業員を擁し、7億900万ドルの資金調達を行ってきた。
住宅所有者保険は、暴風雨、火災、盗難などの幅広い危険に対して、住宅、ガレージ、敷地内のその他の構造物および住宅内の家具、設備、衣服等の所有物を対象とする。Hippoが提供する住宅保険商品は現在32州で販売されており、米国の人口の70%以上をカバーしており、2021年末までには米国の人口の95%をカバーできると見込んでいる。
1. 沿革
Hippoは、半導体企業のVC投資部門であるインテルキャピタルの元投資家だったアサフ・ワンドと、ソフトウェアエンジニアリングと研究開発の分野で豊富な経験を持つ起業家であるエヤル・ナボンによって設立された。過去にいくつかの会社を設立した経験を持つシリアルアントレプレナーであるワンドは、「時代遅れ」の保険業界で父親の長いキャリアに触発されて保険に興味を持ったという。
Hippoに入社する前、ワンドは消費者向け製品を設計・開発し、後に2015年に買収したSabi社の創業者兼CEOを務めていた。それ以前は、マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルタントを務め、ベンチャーキャピタルのインテル・キャピタルでは戦略投資家として活躍していた。シカゴ大学でMBAを取得し、イスラエルのIDC Herzliyaでファイナンスの学士号と法学のLLBを取得。現在はカリフォルニア州パロアルトを拠点に活動している。

2015年、ワンドの3社目のスタートアップであるSabiが買収された直後、ワンドとナボンはHippoを設立した。
2016年12月、製品開発の資金調達のため、HippoはシリーズAラウンドで1,400万ドルのベンチャーキャピタルの資金調達を行い、2017年4月にカリフォルニア州でローンチした。ローンチ時の同社のマーケティングは、60秒で住宅所有者向け保険契約の見積もりを提供すること、透明性の高いオンライン購入プロセス、契約者の住宅の潜在的な被害を積極的に特定して防ぐことができるスマートホームセンサーを中心としたものだった。
2018年11月、HippoはComcast VenturesとFifth Wall Venturesが主導するシリーズBの資金調達で2,500万ドルを調達した。この資金調達の一部は、テキサス州オースティンにカスタマーサービスと保険業務センターを開設するために使われた。 2018年11月には7,000万ドルの資金調達が発表され、2019年3月には米国の住宅所有者の50%以上がHippoの保険を利用できるようになり、売上高が前月比25%増、被保険者財産総額が500億ドル以上になったことを報告している。7月には、メアリー・ミーカーのボBond Capitalを中心とした新規ベンチャーキャピタルから1億ドルの資金調達が行われ、Hippoの企業価値は10億ドルに達した。
2020年7月、HippoはシリーズEの資金調達で1億5,000万ドルを調達した。2020年11月、Hippoは三井住友海上火災保険から3億5,000万ドルを調達した。
Hippoは2019年11月、自宅でのウェルネスチェックを提供することを目的としたサンフランシスコを拠点とするテック対応サービスのスタートアップ、Sheltrを買収した。今回の現金と株式の取引により、Hippo社ですでに働いている200人以上の従業員にSheltr社の8人の従業員が加わることになるが、Hippo社は支払った具体的な価格を明らかにしなかった。
2. 商品
同社の公開情報によると、何千ものデータポイントを活用して数分で顧客のアンダーライティング(保険の契約時に引き受けの可否を判断することや、どういった引受条件・保険金額・保険料率で引き受けるかなどを決める一連の業務)を行い、最も重要な資産を守るために重要な修理や天候保護が必要な場合には、住宅所有者を監視して警告する。保険業界は、リアルタイムのデータへのアクセスによって、顧客体験とリスク管理の向上という劇的な変革の初期段階にある。Hippoの現在の成長率と強力な自動保険契約管理システムは、この変革を推進する基盤となっていると考えている。
センサー、衛星画像、地図情報等のデータを活用した機械学習(ML) ベースの保険引受判断、防災・減災やメンテナンス、優れたUX/UIを通したアプリケーションおよび苦情対応、幅広い販売チャネルネットワーク等、さまざまな商品・サービスを持っている。
HippoはIoTデバイス企業に加えて、不動産、ローンサービサー、金融分機関、地理空間データおよび分析会社など、業界全体で成功を収めている数十の組織と提携。複数のデータポイントに基づいて、リスクスコアを算出する保険引受モデル。このデータには、家の年数、屋根のコンディション、プールの有無、 構造等さまざまなものを含んでいる。
保険引受後も、リスクに関するさまざまなデータをリアルタ イムで入手し、保険引受対象のモニタリングを実施。衛星写真で屋根を見て変化があればその情報を契約者に知らせ事故防止につなげたり、センサーで異常を検知して事故防止につなげたりするなど、先進的な事故防止を実現しているという。

オンラインにて60秒で見積もり可能(4分で保険契約締結)。 継続的なリスクモニタリング、クレームコンシェルジュの 事故対応等により、平均NPS(ネットプロモータースコア: 顧客の継続利用意向を測る指標)は競合大手保険会社平均の 約3倍にあたる76点という高評価を獲得している。
2019年に買収したSheltrは「訓練を受けた信頼できる」住宅の専門家によって年2回の家屋点検・メンテナンスを実行するホームメンテナンスソフトウェア会社。炉フィルターの交換、煙探知機や一酸化炭素検知器の電池交換などの予防的なメンテナンスを行うほか、家電製品のカタログを作成したり、住宅の外観状態をモニターしたり、住宅サービスを事前に提案したりする技術主導型の住宅アセスメントを実施している。
2021年2月18日には、HippoはIoT機器によるスマートホームセキュリティシステムを提供するADTと提携を発表した。ADTのシステムと連携することで、住宅所有者は住宅保険料を節約し、生命、財産、家族、資産をより良く保護することが可能になると、Hippoは説明している。
3. ビジネス
3.1 手堅い財務
Hippoは例にもれず赤字ではあるものの、通常のSPACとのリバースマージャー(逆合併)を実行する新興企業とは状況が異なる。2020年通年の赤字幅は−8,900万ドルに過ぎない(例えば、Uberは同年の純損失は67億ドルである)。
Written Premiumは顧客が特定の期間に会社が発行した保険の適用を受けるために支払わなければならない総額を説明するために使用される保険業界の会計用語だ。基本的には顧客の契約の継続を想定するため、サブスクリプションの経常収益(Recurring Revenue)に類似している。

事業の規模を拡大させながら、2025年に黒字化する絵を描いている。フィンテック企業が常とする、実物資産を保有しないアセットライトなビジネスを運営しており、競合する収益が同規模の伝統的な保険会社よりも従業員数が少なくて済んでいる。
2025年までプライベート市場でちょびちょび資金調達するよりは、昨年公開市場からの調達の波に乗って、5年分の調達を今回ひとまとめに終えてしまおうという印象を受ける。逆合併相手のReid HoffmanらがスポンサーするSPACは、玉石混交のSPACの中でもとりわけ素性が良いものである。
Hippoは、プライベート市場からの調達と両天秤にかけたはずだが、公開市場にマネーが唸っている現代では、こっちのほうが得なのだろう。
3.2 非常に堅調な顧客獲得
顧客の平均継続年数はなんと8年強と想定されており、一顧客(「ユニット」)がビジネスのためにどれだけの価値を生み出すかを示すUnit Economicsは5.4Xに到達しているという。営業部隊の人件費を織り込んだ、SaaSビジネスで3X以上で優秀とされているが、そのようなコストソースが少ないこのビジネスで5.4Xは優良な顧客獲得のサイクルを持っていると考えていい。

3.3 Unit Economicsが継続的に改善
左図は、継続率(Retention Rate)のコーホート分析であり、次第に改善しているのがわかる。右図は損失頻度(Loss Frequency)でこれは減少している。これらが意味することは、HippoではUnit Economisが継続的に改善している、ということだ。

3.4 規模の経済が働くと想定
- Written Premiumは21-25年のCAGR43%を想定
- Gross Profit(売上総利益)は21-25年のCAGR92%を想定
- Total Earned Premium(=収益)に対する割合、つまり、売上総利益率は2021年の9%から次第に増加し、2025年には28%に達すると予測する。

3.5 Lemonadeと比較すると割安
いくつかの保険会社が昨年、IPOを通じて株式を公開した。そのほとんどはアフターマーケットで好成績を収めた。Lemonade(LMND)の株式は29ドルのIPO価格から230%上昇し、Duck Creek Technologies(DCT)は27ドルの公募価格を65%近く上回ったままで、MediaAlpha(MAX)の株式は19ドルのIPO価格から170%上昇している。

4. SPAC
Reinventは、LinkedInの共同創業者であるReid Hoffmanと、Zynga(ティッカー:ZNGA)の創業者であるMark Pincusがスポンサーを務める2番目のSPACとなる。

典型的なSPACの合併とは異なり、ReinventとHippoは創業者の株式を2年間ロックアップすることに合意した、と声明は述べている。ピッチデックによると、Hippoの上級経営陣と重要な既存投資家もロックアップの対象となる。Reinventの別会社は、第2四半期に合併するJoby Aviationに対し、一定の株価を達成するまで、経営陣は株を売れない制約を課している。

この取引には、パブリック・エクイティへの5億5000万ドルの私募増資(PIPE)が含まれており、これまでの5億ドルから増額されている。Dragoneer Investment Group, Lennar Corporation, Ribbit Capitalを含むHippoの既存投資家は、投資信託会社やReinventも参加したPIPEを主導した。Reinventとの合併が完了すれば、Hippoの株主は同社の約87%を保有することになる。

逆合併を通じてHippoは6億3,800万ドルの現金を取得し、Reinventらへのワラント等に1億ドルが費やされる予定。Hippoが一連の取引で得るキャッシュは、PIPEを通じた5億5,000万ドルを加えると、11億6,000万ドルに達している。
この翻訳記事が説明するように、中央値的なSPACは、逆合併の対象企業と公開市場の投資家にフェアではないが、このHippoの案件はフェアなものであり、下図の左で、Absolute Return(絶対リターン)プラスに転じる分布に含まれるものへの類似性を指摘することはできる。

*個人投資家は、合併の直前までにReinventに投資し、合併後のHippoの株式を受け取ると、株式が一定程度希釈化することに留意する必要がある。理論上は、希釈化を織り込んで株価は下がるはずである。
参考文献
- 米国インシュアテック企業「Hippo社」との戦略提携について. MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 三井住友海上火災保険株式会社.
- Klausner, Michael D. and Ohlrogge, Michael, A Sober Look at SPACs (October 28, 2020). Stanford Law and Economics Olin Working Paper No. 559, NYU Law and Economics Research Paper No. 20-48, Available at SSRN: https://ssrn.com/abstract=3720919 or http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3720919
Image via COCO / Hippo
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