深刻な銀行システムの「レガシー問題」:LINE銀頓挫が再び示唆

LINEの銀行プロジェクトの頓挫は、日本の銀行システムがかなりレガシーであることを再び印象づけた。韓国のカカオやアクセンチュアができることが、LINEとみずほにはできなかったのだ。

深刻な銀行システムの「レガシー問題」:LINE銀頓挫が再び示唆

LINEの銀行プロジェクトの頓挫は、日本の銀行システムがかなりレガシーであることを再び印象づけた。韓国のカカオやアクセンチュアができることが、LINEとみずほにはできなかったのだ。


LINE Bankのプロジェクト中止が決まった。理由はシステム開発だ、とみずほ側は説明している。中核となる勘定系システムには当初、富士通製の勘定系システムを導入する予定だった。しかし、日経クロステックによると、LINE Bankは2020年秋頃、全銀システムとの接続に関する追加機能開発にかかるコスト負担で折り合えず、富士通製を放棄した。

LINE Bankは韓国バンクウェアグローバルが開発した「BX-CBP(Core Banking Package)」を採用した。BX-CBPは、韓国銀行の他、2021年4月に台湾で開業したLINE Bank Taiwanが採用した実績がある。

もちろん、システム開発だけが悪者だったはずはない。プロジェクト停止には非常に多くの要因があったようだ。LINEは、ヤフー・ジャパン、Zホールディングス(ZHD)との統合が近づく中で、PayPayシリーズと重複するフィンテック部門の清算が求められたのかもしれない。

ZHDはソフトバンクグループ(SBG)系企業の性質を受け継ぎ、重い負債を背負っている。以下の記事で指摘したように、ZHDの2022年10月-12月期のNet Debt-to-EBITDA Ratio(EBITDAに対する純負債の比率)は2.48で、危険水域とされる3に近づいている。上場以降、収益の柱を見つけられなかったLINEが年間で100億円にも迫る赤字を出していたフィンテック部門をカットするのは、避けられない選択と言える。

LINEがヤフーの軍門に降る理由
赤字続きのLINEは、ヤフーにしがみつくしかなかった。巨大な利用者数を儲けに繋げられるかは経営統合の当初から問われているが、両社はまだ答えを出していない。新興勢力の台頭とAIトレンドのうねりの中で「老舗連合」に残された時間は多くない。

みずほ側も、LINEが本格的にSBGの傘下に入ろうとする中、SBGは2022年以降、急激な規模の縮小を続けており、「ソフトバンク一本足」のリスクを分散するインセンティブが働いているだろう。みずほは、SBGのライバルである楽天との関係を深めつつある。

それでも、システムの問題から目を背けられない。新銀行のシステムが日本の銀行規制に準ずるには、富士通のようなベンダーに頼るのが近道だったはずだ。それでも、途中で富士通を放棄する決断がなされた。

富士通の劣勢を裏付ける物語は他にもある。ソニー銀行と富士通が開発を進める新システムでは、「FUJITSU Banking as a Service(FBaaS)」をアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)に載せるという触れ込みだったが、これが難航し、2022年度中の稼働目標を達成できなかった。

4,500億円以上を費やしたみずほ銀行の勘定系システム「MINORI」が前代未聞の相次ぐ障害を起こしたことは、日本の銀行システムの凋落を決定づけた出来事だ。MINORIで重要な役割を担ったのもまた、富士通である(日立製作所、日本IBM、NTTデータも忘れてはならないが)。

海外勢のほうがうまくやっている

LINEは、本国の韓国でライバルとなるカカオが実行した戦略を日本でコピーすることで成長してきた会社と見ることもできる。LINE Bankの試みも、大成功したKakaoBankを模倣する意図があったのかもしれない[1]。

KakaoBankはソニー銀行とは異なり、最初からクラウド上での構築に絞り、「マイクロサービス」と呼ばれる難易度は高いが、拡張性の高いシステムを採用した。KakaoBankは2017年7月に公開され、最初の24時間の運用で24万人以上の顧客を集め、2019年7月11日までに1,000万人以上の顧客を得た。KakaoBank製の勘定系システムはこの急速なユーザーの膨張に耐えた。

「国内初のデジタルバンク」となった、ふくおかフィナンシャルグループ傘下のみんなの銀行は、勘定系システムとして、アクセンチュアが開発した、Google Cloudをベースにしたフルクラウド基幹システム「アクセンチュア クラウドネイティブ コアソリューション」(通称MAINRIメイリー)を採用した。

みんなの銀行はレガシー金融のゲームチェンジャー
世界的なデジタル化の潮流に乗り遅れる日本

アクセンチュアの検証では、480万口座分の顧客データと明細データを秒間2,000件以上参照し更新するといったミックストランザクションの負荷をかけ、全口座に対する利息計算バッチを並行して実行した。秒間2000件以上の負荷集中と利息計算バッチの並行実施において、200~300ミリ秒のレスポンスですべて応答したという。

同社のスマートフォンアプリでは、普通預金を「ウォレット」とし、貯蓄預金の中に仮想の「ボックス」を作って整理・整頓ができるようにするなど、KakaoBankのようなデジタルバンクと同様の設計になっている。

カカオやアクセンチュアにできることが、LINEとみずほにはできなかったのだ。

注釈

[1]メッセージングアプリの開発も東日本大震災の被災者がネットをライフラインにしたことをその発祥とする公式の広報ストーリーもあるが、FacebookのMessengerをコピーしたKakao Talkに触発されたと見るのも不自然ではない

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