「ゲームビジネスのNetflix化」を切望するマイクロソフト
大規模の顧客層と知的財産(IP)を囲い込む
要点
マイクロソフトはゲームをNetflixのようなサブスクビジネスに変えようとしている。そのためには大規模の顧客層と知的財産(IP)を抱き込み、規模の経済を達成する必要がある。
マイクロソフトは日曜日に開催されたElectronic Entertainment Expo(E3)やそれに関連した発表したが、これは、同社のゲームビジネスをハードウェアにとらわれない形態にする戦略をとっていることを示唆している。
発表を通じて、マイクロソフトが運営する、Netflixのようなゲーム配信サービス「Xbox Game Pass」の魅力が増している。Xbox Game Passは、今後発売される代表的なゲーム『Halo Infinite』と『Starfield』の両方を、発売と同時に配信する、と発表した。ゲーマーはこれらのゲームに最低でも1本60ドルを投じるか、月額10ドルからのGame Passに登録するか、どちらかを選べる(普通は後者だ)。E3で発表された30本のゲームのうち、27本がGame Passサービスに登場し、その多くが発売と同時に登場する。
マイクロソフトは、Game Passが2017年に初めてデビューして以来、Game Passの成功につながる種を蒔いてきた。このサービスでは、加入者に100以上のゲームからなる厳選されたライブラリへのアクセスを付与し、月額わずか10ドルで利用できる。しかも、『Halo』から『Gears of War』『Forza』まで、マイクロソフトが発表したすべての主要なXboxゲームが、ライブラリの一部として発売時にサービスに公開されることになっていた。Game Passではゲームのダウンロードやストリーミングが可能だ。
この4年間でGame Passは飛躍的に成長し、現在ではXboxとPCを合わせて1,800万人以上の加入者を誇っている。このサービスでは、自社のゲームだけでなく、サードパーティのゲームスタジオが提供するさまざまな大作ゲームを提供している。
マイクロソフトは3月に有名ゲームスタジオである「ベゼスダ」の75億ドル買収を完了したが、これにより、Xbox傘下のゲームスタジオの数は23になり、ソニーの13を大きく上回ることになった。これらが制作したゲームをサブスクで配信するのは、オリジナルコンテンツの大作をユーザー獲得と維持の肝にするNetflixに類似する戦略だ。
プレミアムゲームのサブスクは儲かるか?
しかし、マッキンゼー・アンド・カンパニーのDan SingerとEnrico D’Angeloの報告書は、プレミアムゲームのサブスクリプションは、勝利の法的式とは言えないと主張している。
まず、活況を呈している「フリートゥプレイ」(無料プレイ)はNetflix型に一定の制約を課している。Netflixのバリュープロポジション(価値提案)は、魅力的なコンテンツの無尽蔵のライブラリを顧客に提供することだ。しかし、最近のゲーマーは、フォートナイトのような1つのゲームで無限ループのプレイを好む傾向があるため、たくさんのタイトルの「遊び放題」を価値提案とするサブスクリプションと相容れない可能性がある。
さらにSingerらは2つの詳細な課題を提示している。1つ目はパブリッシャーとの力関係だ。「現在、ゲームパブリッシャーは、60ドルのゲームをデジタルまたは物理的に販売した場合、1本あたり少なくとも42ドルの利益を得ることができる。大ヒット作ゲームの差別化はパブリッシャーに大きく依存しており、これは映画やドラマの場合よりも顕著だ」。ヒットを飛ばせるパブリッシャーの交渉力は著しく高い。
2つ目が、AAAのライセンスがサブスクプラットフォームの経済性を損ねる可能性だ。Singerらは「年に2本の大ヒット作のライセンスを取得するだけで、プラットフォームのコストはユーザー 1 人当たり毎月8ドルになる可能性がある」と主張している。Game Passは月額10ドルであり、Singerらのモデルに則ると、3本のAAAタイトルを配信した場合、赤字になる。
プレミアムゲーム開発の法外なコスト
MMORPGの金字塔「Ultima Online」のリードゲームデザイナーだったRaph Kosterのブログ "The cost of games" (2018) によると、ゲーム製作費は毎年高騰している。大多数のゲームの製作費は5,000万ドル以下で、基本的には全く予算をかけずにリリースされているものが圧倒的な数を占めている一方、AAAタイトルは外れ値だという。さらにAAAの中でも上位のゲームでは高騰傾向がより鮮明だという。おそらくこれは少数のAAAがプレミアムゲーム市場の半分程度の収益を生み出している市場構造を反映し、パブリッシャーがAAAに対して賭け金を積み増していることを意味するだろう。
AAAタイトルを開発するには、マーケティング費用を除いて5,000万ドルから1億ドル以上かかることもあり、予算はその2倍になることもある。このようなゲームには成功の保証すらない。
言い換えれば、一部のAAAタイトルは非常に大きな利潤を生み出すが、それを得るための賭け金も高騰しており、パブリッシャーはすべてを失うリスクがある。パブリッシャーが、現在の60ドル程度を売り切るモデルから、バンドルの15ドルのサブスクリプションサービスへの提供にシフトするのは、サブスクリプション運営者が取り返せる見込みのない対価をパブリッシャーに支払ったときにだけ成立するだろう。
結論
これをサブスクリプションで成功させるには、マイクロソフトは、今後もAAAタイトルを制作するゲームスタジオの買収を繰り返し、Netflixのような2億人を超える有料会員を達成し、圧倒的な規模の経済を実現する必要がある。そして、もしかしたら、マイクロソフトが今回のアナウンスで意図しているのはそういうことかもしれない。
ゲーム機ビジネスはゲーム機本体では赤字。パブリッシャーのゲームタイトルへのライセンス料の徴収によって黒字化する構造だ。PCやAndroidからもプレイ可能なGame Passのような、ハードウェアにとらわれないゲームのNetflixは、このビジネス上のボトルネックをクリアできる可能性があることも、マイクロソフトは熱心な理由の一つだろう。