『パラノイアだけが生き残る』− インテルが経験した戦略転換の指南書

インテルのメモリーからの撤退とマイクロプロセッサへの集中を決定した経営者Grove。「パラノイアだけが生き残る」("Only the paranoid survive")、というのは、彼が発すると、とても含蓄のある言葉となります。

『パラノイアだけが生き残る』− インテルが経験した戦略転換の指南書

Andrew Grove(アンドリュー・グローブ)は1936年にハンガリーのブダペストで中流階級のユダヤ人家族に生まれました。Groveは1956年のハンガリー革命では、20歳のときに家と家族を離れ、国境を越えてオーストリアに逃げました。無一文でしたが、かろうじて英語を話すことができたので、1957年に彼は最終的に米国に向かったのです。

Groveはカリフォルニア大学バークレー校で化学を専攻し、博士号を取得しました。そして彼は、最初の商業的に成功したシリコンチップを製造したカルフォルニア州サンノゼのFairchild Semiconductor に就職しました。Fairchild Semiconductorは、1957年にFairchild Camera and Instrumentの一部門として設立され、トランジスタおよび集積回路製造のパイオニアとなりました。ムーアの法則で知られる、コンピュータ科学者Gordon MooreらがFairchild Semiconductorを離れ、1963年に新会社を設立したとき、Groveは3番目の従業員として参加し、最終的にはCEOになり、世界最大の半導体メーカーへの変革を主導したのです。

1981年には、インテルは世界の半導体ビジネスを圧倒的に支配していました。彼らはメモリチップ(DRAM)を製造し、世界で流通するDRAMの約60%を所有していました。パーソナルコンピュータの革命が始まり、世界は年々デジタル化していきました。 インテルのチップは1981年に最初の人気のあるパーソナルコンピューターの1つであるIBM PCに組み込まれました。当時IBMはコンピュータ業界を垂直的に支配しており、そのエコシステムの一つとなることは、成功を意味していました。

問題は、誰もが同じビジネスに参加したがったことでした。米国では毎日新しい企業が出現しており、70年代後半から80年代にかけて、日本の半導体メーカーはインテルに追いつき始めました。彼らは低い価格と迅速な可用性で競合していました。インテルは自社製品が劣勢になりつつあることに気付きました。1988年までに、日本メーカーは世界市場の50%以上を占めていました。

彼と当時のCEOであるMooreが下した決断は、非常に有名です。グローブはMooreとの重要な瞬間を回想します。Groveは「もしわれわれが追い出され、取締役会が新しいCEOを任命したとしたら、その男は、いったいどんな策を取ると思うかい?」とMooreに問いました。Mooreは「メモリー事業からの撤退だろうな」と答えました。Groveは「それをわれわれの手でやろうじゃないか」と語り、二人はメモリー事業からの撤退を決定したのです。

インテルはマイクロプロセッサーに焦点を合わせ始めました。同社はIBMと契約を結びました。そして、ゲーム業界やソーシャルメディア革命などを後押しするパーソナルコンピューター革命を後押ししたのは有名な”Intel Inside”(インテル入ってる)でした。 Groveは最終的にインテルのCEOになり、インテルは世界で最も収益性の高い会社の1つになります。

本書は、生き残れなかった日本の伝統的電機企業への教訓としても機能します。Groveらが下した決断は、彼を脅かした日本メーカーが、韓国と台湾、最近では中国の半導体企業に脅かされたときにとらなかった決断でした。官僚が支配する百貨店型の日本の電機屋さんは、表舞台から姿を消しました。昔の話です。

彼は政情不安から逃れ米国に移住しました。そこから彼には学歴を積む機会が与えられ、インテルという次の時代の波を掴むことになります。インテルのCEOとしては、日本勢の安価なメモリの構成から逃れてマイクロプロセッサーへの重点投資に踏み切りました。「パラノイアだけが生き残る」("Only the paranoid survive")、というのは、彼が発すると、とても含蓄のある言葉となります。

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