創業者カラニックが築いたウーバーの男尊女卑文化の実態
昨年9月に出版された「Super Pumped:The Battle for Uber」では、ウーバーで起きた目まぐるしいドラマと目を背けたくなる企業文化が垣間見れます。カラニックの追放を引き起こしたスキャンダルと論争のいくつかは、創業者兼CEOが生み出した、悪い行動を正常化する企業文化に由来します。
ニューヨーク・タイムズのテクノロジー担当記者マイク・アイザックの著書 "Super Pumped:The Battle for Uber"(未邦訳)は、昨年9月に出版されました。本書はウーバー(Uber)の創業から2019年のIPOまでの過去10年間をカバーしています。アイザックは、本書を執筆するために、ウーバーの現・元従業員に対し「数百のインタビュー」を実施しました。"Super Pumped"は同社の価値が勢いよく上昇したことを指しているだけでなく、筋肉増強サプリメントにありそうな名前であり、物議を醸した男尊女卑的な企業文化を皮肉ってもいるのです。
創業者兼CEOのトラヴィス・カラニックは、ウーバーを開始する前のキャリアの大部分で「失敗」を経験していました。1998年、KalanickがUCLAをドロップアウトし共同創業したScourは、ユーザーが音楽ファイルとメディアファイル共有ソフトウェアを開発しました。Scourはベンチャーキャピタルから400万ドルを調達しましたが、アメリカ映画協会やアメリカ記録産業協会などの複数のエンターテイメント業界団体から著作権侵害で損害賠償を求める訴えを起こされました。会社は破産保護を申請した結果、最終的に訴えは却下されています。
カラニックの次のスタートアップであるRed Swooshと呼ばれる別のファイル共有会社は、もっと良い結果をもたらしました。2001年にRed Swooshを創業した後、カラニックと共同設立者のMichael Toddは、2007年に事業を1900万ドルでAkamai Technologiesに売却しました。Isaacの本によると、カラニックはその売却で200万ドルを受け取りました。カラニックは資金調達で失敗し、通常よりもだいぶ多い株式を投資家にわたしていたことが、売却益の小ささの理由を物語ります。
カラニックはRed Swooshを成功させるために何年も苦労しました。アイザックによると、その期間中に、Red Swooshは何度も資金をショートさせ、生きるために土壇場の投資を確保する、ということを繰り返しました。Red Swooshの運営中、カラニックは給料を受け取らずに3年以上暮らしていたため、両親の家に引っ越しました。
これは本書にはない内容ですが、彼はウーバーの最初期はほぼ会社に携わっていませんでした。「長年付き合ったガールフレンドと別れたため」途中から会社への関与を始めたと言われます。最初期は共同創業者Garrett Campらのチームがタクシーの管理システムの応用を思いつき、自己資金でプロジェクトを進めていたのです。
バイラルビデオ
アイザックは、組織的な性差別やジェンダーバイアス、セクシュアルハラスメントを主張する女性エンジニア Susan Flowler によるブログ投稿などの一連のスキャンダルの後、ウーバーのネガティブな社会的印象を議論するために幹部が会議をした2017年のシーンについて説明しています。会議中、ウーバーのコミュニケーションエグゼクティブは、彼が運転手を罵倒している様子が収められているBloomberg Newsによる報道を、カラニックに示しました。
アイザックによると、カラニックは「これは本当にどうしようもない」とバイラル動画のなかの自分自身を見た後に語り、それから、「床の上で身もだえ」を始めた、と記述しています。彼がマーケティング広報チームの一人を侮辱すると、マーケティング担当シニアバイスプレジデント Jill Hazelbaker が「なんてことをするのですか!」と激高し「私はあなたとこの会社のために火の中を歩きました!なのにあなたはこんなことをするなんて!」と語ったとアイザックが取材した元従業員は語りました。
カラニックは、その後 Hazelbaker の家で行われた幹部による非公式の会合でも「私はひどい人です。私はひどい人です。私はひどい人です」 と同じことを何度も繰り返し言ったそうです。カラニックは後にウーバーの従業員に社内メールを送信し、ウーバーのドライバーを「無礼」に扱ったことを謝罪しました。ウーバーのCEOは「リーダーとして根本的に変わり、成長しなければならない」と全社向けのメモに記しています。
カラニックの追放を引き起こしたスキャンダルと論争のいくつかは、創業者兼CEOが生み出した、悪い行動を正常化する企業文化に由来する、とアイザックは考えています。Uberの従業員が、会社のクレジットカードでストリップクラブで遊ぶことについて冗談を言うと、カラニックは「会社の『おごり』で性交渉をする規則」を説明する社内メールを送信した、と記述されています。
2014年に従業員が連れ添って韓国のエスコートバーを訪れたとされることを含む不適切な事件をめぐっては、アイザックは、カラニック自身がプレイボーイと思われようとする動機をもっており、そのような企業文化を形成したと見ています。
加えて、ウーバーのマレーシアのオフィスで、地元のギャングに尾行されていた女性従業員が、男性マネージャーにテキストメッセージで、ギャングにレイプされるか心配していると伝えました。彼はテキストメッセージで「ウーバーには万全のヘルスケアがあります。我々はあなたの医療費の支払いをします」と答えたそうです。
アイザックは、ウーバーのタイオフィスにいる女性従業員についても書いています。女性従業員は、パーティーでコカインの吸引を要求する男性の同僚を避けようとしました。アイザックによれば、彼女が去ろうとしたとき、男性のマネージャーは彼女をつかんで、コカインの山に顔を押し込み、同僚の前で吸引させた、とアイザックは記述しています。
その他のできごと
地方議会にUberを受け入れてもらうため、カラニックは、リンクドインで働いていたエンジニア、ベン・メトカルフェを雇用し、市の行政調査で配車サービスに自動的に賛成票を投じるコンピュータープログラムを作りました。また、一時期は任天堂Wiiのテニスゲームで、世界第2位のスコアを保持していました。これは彼がウーバーで成し遂げた実績と同様輝かしい記録です。
まったく楽しい本ではないのですが、なぜ企業文化が重視されるかがよく分かります。この状況を踏まえて競合のLyftに投資していたa16zのBen Horowitzは著書"What You Do Is Who You Are: How to Create Your Business Culture"を書いています。ウーバーはLyftなどの競合を陥れるための巧妙な策略(外部の専門チームを雇って妨害工作をしていた)をとっていました。腹に一物あり、なのでしょう。
参考
The ウーバー IPO - Acquired Podcast
Photo by JD Lasica (CC BY 2.0)