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超富裕層に課税し気候変動に賭けろ テック経済レビュー #7

アメリカの超富裕層は所得の取り分が過剰であり、貧困層より税負担が少ないため、税を課すべきだ。だがそのお金を何に使うか?

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ジョージ・ソロスが超富裕層課税を提言

ヘッジファンドマネージャーのジョージ・ソロスとFacebookの共同創設者クリス・ヒューズを含む米億万長者のグループが、2020年選挙の決定的な問題の1つとして経済的不平等が浮上しているため、超富裕層に対する「富裕税」を支持した。

「アメリカは私たちの富にもっと課税するという道徳的、倫理的、経済的責任を持っている」と彼らはミディアムの記事に書いている。 「富裕税は、気候危機への対処、経済の改善、健康への影響の改善、公平な機会の創出、そして民主的自由の強化に役立つ」。

億万長者たちは税収を気候変動、健康保険、教育、直接的な所得格差対策に充てることを提案しているのだ。

ソロスらが提言しているのは、超富裕層への「穏やかな課税」である。超富裕層には租税回避のカードが非常にたくさんあり、政府が「厳しい課税」を試みれば、彼らは税制の抜け穴をつこうとするだろう。

この主張は民主党の上院議員で次期大統領選への意欲を示しているエリザベス・ウォーレンらの賛同を得ている。ウォーレンは民主党進歩派(Progressive)の主要人物で、民主党大統領予備選挙に出馬している。ここでは「進歩派」には深く踏み込まないようにしよう。

常軌を逸した米超富裕層の所得占有率

つまり億万長者は「富裕税」を課す人を支持すると宣言したわけだが最も有力なのはウォーレンでありウォーレンのへの支持表明のようでもある。

ウォーレンの「超億万長者税(Ultra-Millionaire Tax)」を見てみよう。ウォーレンは5000万ドル(約53億6500万円)以上の純資産に対して2%、10億ドルを超える純資産にはさらに1%の税を課すと主張している。税収は10年で2.7兆ドルを見込んでいる。

UC Berkeleyのエマニュエル・サエズとガブリエル・ザックマンの2人のフランス人が彼女の経済顧問を務めている。サエズは『21世紀の資本』のトマ・ピケティとの共同研究が多くあり、経済的不平等、超富裕層研究の大家。ザックマンはタックスヘイブンの研究で業績が多数あり「タックスヘイブンに隠されている資産が、世界のGDP(国内総生産)合計の10分の1にも相当する」とする2017年の論文はとても有名だ。

この2人の主張は明確である。

この2人とトマ・ピケティの共著論文”Distributional National Accounts: Methods and Estimates for the United States”(Decemnber 2016)を参考にしてみよう。

所得上位10%の所得占有率は1937年頃から急落し始め、1942~43年頃にどん底に達するとその後は80年代から上昇し続けている。課税後でも40%程度の所得シェアを得ている。

Unfairness Back / Souce: ”Distributional National Accounts: Methods and Estimates for the United States”(December 2016), Thomas Piketty, Emmanuel Saez, Gabriel Zucman

上位1%と下位50%の課税前所得を比較すると、1995年頃上位1%が逆転し、下位50%がシェアを落とし続けている。

Triumph of Top 1% / Souce: ”Distributional National Accounts: Methods and Estimates for the United States”(December 2016), Thomas Piketty, Emmanuel Saez, Gabriel Zucman

そして超富裕層には租税回避の手段がたくさんある。論文では、トップ0.1%の家族は、純資産の3.2%にあたる連邦、州、地方の税を負担すると算定されているが、99%は純資産の7.2%にあたる税を負担すると算定されている。

サエズとザックマンは2019年の論文で、”progressive wealth tax(進歩的資本課税)”を提案しており、それがそのままウォーレンの主張になっているのだ。

課税をするか否かといえば、するべきだと僕は思う。

うまく使える?

課税したとしても、米国はもっと大きな問題にぶつかることになる。そのお金をどううまく使うか、うまく使うためのスキームは存在するのか、である。市場は失敗する、あるいは理論的に想定されているような市場は実際には存在しない。このため、一部の超富裕層は不当な優位性を駆使して賭けに勝ち続ける。だからそこに税を課す、ここまでは正着だ。

ただ税を課して得た資源をうまく使えなければ、超富裕層のお金のほんの一部を政府に移転してもあまり意味がないのだ。

ソロスらの目論見はこの通り。

この収入は、気候変動を緩和するためのクリーンエネルギー革新、普遍的な子育て、学生ローンの債務救済、インフラの近代化、低所得世帯のための税額控除、公衆衛生ソリューション、その他の重要なものなど、将来のスマートな投資の費用の大部分を占める可能性がある。

格差是正のための福祉への投資は非常に重要だが、ここでは気候変動への投資に着目したい。

この課税が気候変動を解決するための原資になるとすると楽しい。気候変動への対応としてクリーンエネルギーへの投資が必要なのは間違いがない。ただその投資は少なくとも数年、あるいは10年以上の長期の粘り強い投資が必要になり、民間ではなかなかそれを提供できない。リターンを度外視してでも「人類を救うため」の投資ができるのは公的セクターだからだ。

ビル・ゲイツは脱炭素エネルギー技術に投資するBreakthrough Energy Venturesの会長を務めており、現在10億ドルのファンドを運用しているが、来年下半期までにさらに10億ドルから15億ドルを調達する予定と今週語っている。

このファンドの投資候補には、核融合、固体電池、無炭素鋼生産、「持続可能なタンパク質」に取り組む新興企業などが含まれる。持続可能なタンパク質とは牛以外のタンパク質供給源のことを指す。ゲイツは牛が多量の炭素を排出しているとし、「国として考えると中国と米国に次ぐ排出量だ」と指摘している。

Via Gate Notes (Source: UNFCCC, European Commission, UNFAO)
電気を作ることは、毎年、温室効果ガス排出量全体の25%にしかなりません。 1分子の温室効果ガスを も排出せずに必要な電力をすべて生成できたとしても、総排出量をわずか4分の1に削減できるだけです。

牛以外の脱炭素的なタンパク質生成手段を見つけられれば、大きな炭素削減効果が見込めるようだ。

とにかく話をクリーンエネルギー戻すと、ゲイツはめぼしいスタートアップを選定し、数年、数十年の投資に耐える機能を提供するのが、政府は得意ではないと指摘している。

私たちはそのお金を機能させるための新しい方法を生み出している。エネルギー研究は、実現するまでに数年、さらには数十年もかかることがあるため、企業は長期にわたってそれらと協力していく意思のある忍耐強い投資家を必要としている。 政府は理論的にはそのような投資を提供することができますが、実際には、有望な企業を特定し、それらの企業の成長を支援するための機敏な態度を維持するのは得意ではない。

気候変動は多量の資源を費やしてでもブレークスルーを起こさないと人類の存亡に関わる死活課題だ。その投資の効率、効果についてまだ世界は明確な解法をもたないため、今後の探求が求められる。

超富裕層に課税した得た資源が無駄にならないことを切に祈っている。新聞記者時代に政府が税金をうまく使わないことを度々目にして来たのでかなり疑り深くなっているが。

追記

僕はインドネシアに5年住んでいたが、1998年のアジア通貨危機の傷跡が2010年代のインドネシアにたくさん残っていた。人々を苦しめている穴だらけのバケツのようなインドネシア流の民主主義もまたアジア通貨危機の副産物だ(民主主義以前の開発独裁時代の制度設計についてはここに書いた)。当時のマレーシアの首相、マハティールはかつてイングランド銀行をつぶし、後にアベノミクス相場で大儲けすることになるジョージ・ソロスをこの厄災の元凶として名指ししている。フィランソロピストとしてのソロスが露出されるたびに僕はそのことを思い出してしまう。

Reference

An Open Letter to the 2020 Presidential Candidates: It’s Time to Tax Us More

”Distributional National Accounts: Methods and Estimates for the United States”](https://www.nber.org/papers/w22945)(December 2016), Thomas Piketty, Emmanuel Saez, Gabriel Zucman

“How would a progressive wealth tax work? Evidence from the economics literature” Emmanuel SAEZ (UC Berkeley),  Gabriel ZUCMAN (UC Berkeley), February 5 th, 2019

"Climate change and the 75% problem" By Bill Gates October 17, 2018

Takushi Yoshida

Published a year ago