中国企業の米取引所からの大量上場廃止は回避できる?

米国の証券取引所に上場する約260社(時価総額約1兆3,000億ドル)の中国企業は、上場廃止の危機に瀕している。アリババが香港上場を発表したことで、中国企業が廃止を織り込んでいることが示唆された。回避可能なのだろうか?

中国企業の米取引所からの大量上場廃止は回避できる?
ナスダック証券取引所。"Nasdaq Take 1" by bfishadow is licensed under CC BY 2.0.

米国の証券取引所に上場する約260社(時価総額約1兆3,000億ドル)の中国企業は、上場廃止の危機に瀕している。アリババが香港上場を発表したことで、中国企業が廃止を織り込んでいることが示唆された。回避可能なのだろうか?

今週、上場廃止の新たなシグナルが加わった。中国の電子商取引大手アリババは、香港での新規上場を目指すと述べており、これは最終的な退場の前触れとなりうる動きである。

アリババはまだ上場廃止リストに入っていないが、今週2021年の年次報告書を発表した後、すぐにリスト入りする可能性がある。 SECが候補に挙げた中国企業の中には、オンライン不動産会社のKEホールディングや製薬会社のザイ・ラボなど、すでに香港に上場している企業もある。 オンラインビデオプラットフォームのビリビリは、香港上場の手続きを進めているところだ。中国企業は、すでに最悪の事態に備えつつあるのだ。

米当局は再度中国に詰め寄っている。ゲーリー・ゲンスラー証券取引委員会(SEC)委員長は、米国の上場企業の監査人を代表する公共政策団体である監査品質センター(The Center for Audit Quality)の27日の講演で、今年末までに監査が完了する「見込み」があるなら、米国の規制当局が米国上場中国企業の監査人を「すぐに」検査できるようにすることで米中が合意しなければならないと主張している。中国と香港の監査人への検査に要するリードタイムが長いこと、さらにコロナの厳しい渡航要件も、米中が監査アクセスに関する実行可能な枠組みを見つける時期を早める要因になっていると、ゲンスラー氏は指摘している。

エンロン事件を受けて制定されたサーベンス・オクスリー法(2002年)に基づき、すべての上場企業は、米国公開会社会計監視委員会(PCAOB)による監査作業文書の閲覧が義務づけられている。米国証券取引委員会によると、PCAOBは50カ国以上の国・地域と連携し、審査を認めている。だが、この20年間で、この法律を遵守できなかった国が2つある。中国と香港である。北京は、監査書類に中国の国家安全保障に関わる重要な機密が含まれている可能性があるとして、米国による閲覧を拒否している。

ナスダックで取引されている上場企業であるラッキンコーヒーは、2019年の年次報告書で年間売上を3億ドル過大計上する会計不正を行ったことを認めたため株価が急落し、米国株式市場の投資家に大きな打撃を与えた。これにより、長年くすぶっていた問題が激化した。翌年、基準を厳格化した「外国企業説明責任法」(HFCAA)が、超党派で議会で承認された。

HFCAAは2002年のサーベンス・オクスリー法を改正し、海外の上場企業に対する開示義務の追加と米国証券取引所からの上場廃止という罰則を追加したものである。HFCAAでは、監査役が3年連続で米国規制当局の査察を受けられない企業は上場廃止になる。このため、上場廃止は2024年に封切られると考えられている。

北京とワシントンはこの長年の問題を解決するために過去数カ月間協議してきたが、ほとんど進展がないようだ。SECのゲーリー・ゲンスラー委員長は2週間前に、両者が合意に達する自信はないと述べている。

ここ数カ月、中国は米国が納得し、かつ自国の目標に沿った妥協点を見出そうとしていることを示唆している。今年4月、中国証券監督管理委員会(CSRC)は、アメリカの規制当局が中国企業の帳簿にアクセスすることを妨げる2009年に施行された規則を撤廃した。最近のFTの報道によると、中国は米国に上場している中国企業を、非機密データ、機密データ、秘密データの3つのカテゴリーに分けたいと考えているようだ。

参考文献

Rita Cao. HFCAA: Congressional Reaction Amidst the Tightening US-China Relationship. Nov 2, 2021. Columbia Business Law Review.

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