「メタバース」に共通の定義が存在しない問題

「メタバース」というバズワードは余りにも焦点が定まらない言葉になってしまった。それでも、各社はそれぞれが異なる見方で技術開発を進めている。どの会社が最初にスイートスポットを発見するだろうか。

「メタバース」に共通の定義が存在しない問題
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「メタバース」というバズワードは余りにも焦点が定まらない言葉になってしまった。それでも、各社はそれぞれが異なる見方で技術開発を進めている。どの会社が最初にスイートスポットを発見するだろうか。


ほとんどの人はメタバースを定義できない、 とAppleのCEOであるティム・クックは先月末、語っている。欧州を訪問していたクックは、オランダのニュースパブリッシャーBrightに対して「『何か』をきちんと理解することは、いつの時代も大切なことだと思うんです。それに、一般の人がメタバースを語れるかどうか、本当に自信がないんです」と話している。

クックはメタバースというバズワードに懐疑的な見方を示した最新のテック業界のリーダーとなった。SnapのCEOであるエヴァン・シュピーゲルは英ガーディアンに対し、この用語は「かなり曖昧で仮説的」であるため、同社は使用を避けており、仮に複数の人に定義を求めた場合、すべての人の定義が 「全く異なる」だろうと述べている。一方、Amazonのデバイス責任者であるデビッド・リンプは最近、「数百人にメタバースとは何かと尋ねたら、205通りの答えが返ってくるだろう」と述べ、この用語の「共通の定義」は存在しないと語っている。

しかし、クック、シュピーゲル、リンプは「メタバース」という言葉に公的に懐疑的だが、Apple、Snap、Amazonはすべて、程度の差こそあれ、メタバースの未来を動かすとメタが考えるテクノロジーと同様のものに投資していると伝えられている。

クックは拡張現実(AR)の大きな支持者である。前述のBrigthの記事では、「スマートフォンのない生活、インターネットのない生活を今振り返るように、ARのない生活をもうすぐ振り返ることになるだろう」とイタリアのナポリ・フェデリコ2世大学で公演で語っている。「そんなに長くはかからないだろう」

Appleは早ければ2023年にAR/VRを組み合わせたヘッドセットを発表する計画があるとされる。Snapは昨年最初のARメガネを限定ベータ版としてリリースし、すでに数百万人が同社のアプリを通じてARと関わっていると述べている。Amazonは数年にわたりいくつかのARアプリケーションをリリースしており、少なくとも1つのARデバイスを開発中であると考えられている。

Metaは2014年にOculusを買収した後、すでにいくつかの仮想現実(VR)ヘッドセットをリリースしている。2024年には初のARメガネをリリースする予定だが、当初は開発者向けにのみ提供されると伝えられている。

Metaが警戒すべき相手がTikTokの親会社バイトダンスだ。ソーシャルメディアでMetaの牙城を喰っているバイトダンスは、既存のテクノロジー組み合わせで作られたVRヘッドセットを、Metaの新ヘッドセット発表の一ヶ月前である9月に市場投入した。

バイトダンス、Metaの1ヵ月前に新型VRヘッドセットを発表へ
バイトダンスのVR子会社である小鳥看看科技(Pico)は、今週、新しいヘッドセットを発表する準備をしている。 同社は17日にリンクトインの投稿で、9月22日にオンラインイベントを開催することを明らかにした。 Picoは「新製品の発表」を約束し、VRヘッドセットのシルエットを投稿し、「私たちが持っているものをお見せするまで待ちきれません」と発表した。 10月に新型VRヘッドセットを発表する予定のMetaに先んじた格好だ。MetaはソーシャルメディアでバイトダンスのTikTokに手厳しくやられている中で、メタバースでも同社の圧力を受けている。バイトダンスが急速にメタバース領域で追い上げていること…

ARゲームの草分けとも言える「ポケモンGO」を開発したNianticの創業者ジョン・ハンケは、常にVRのような人々が仮想空間に埋没する方向への技術の進化に異を唱えてきた。10月初旬に公開されたフィナンシャル・タイムズ紙のクリスティーナ・クリドルとのインタビューでは、ARや空間コンピューティングも、インターネットやスマートフォンと同じように試行錯誤を繰り返して、人々の生活の根幹をなすものに変化しようとしている、と主張している。

ハンケは、ARメガネこそまだ登場していないもの、スマートウォッチやワイヤレスポッド、QRコードなどによって一種の拡張現実はすでに実現していると考えている。「ARはウェアラブルという形で、私たちに忍び寄るのです。そして、最終的には私たちの目にも届くようになるのではないでしょうか」

それでも、変曲点としてはメガネの登場になる、と彼は言う。「(広範な人々の利用に耐えるARメガネが登場するまで)3年か5年か、そのくらいのタイムフレームで考えています…」。

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OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

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OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

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アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

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