東南アジアの巨大二輪市場に電動化の波[吉田拓史]
東南アジアで、電動バイクへの移行が始まった。サプライチェーンの整備と政府補助金による需要創出が進む中、台湾や中国、地場の新興企業が長きに渡った日系メーカーの支配をひっくり返そうと目論んでいる。
東南アジアで、電動バイクへの移行が始まった。サプライチェーンの整備と政府補助金による需要創出が進む中、台湾や中国、地場の新興企業が長きに渡った日系メーカーの支配をひっくり返そうと目論んでいる。
インドネシア最大の配車企業Gojekと総合エネルギー会社TBS Energi Utama(TBS)の合弁会社Electrumは、インドネシアの西ジャワ州ブカシに電動バイク製造工場の建設を開始した。2024年半ばまでに完成する予定で、年間最大25万台の生産が見込まれている。
工場では当初、年間3,000~5,000台のeスクーターを生産し、部品の40%を現地調達する予定。韓国から輸入したバッテリーセルを利用する計画だが、最終的には国策企業Indonesia Battery Corporationが生産したものを利用する方針という。Indonesia Battery Corporationは中国CATLと韓国LGエナジー・ソリューションと協業し、2026年までに国内で電池生産を開始する予定だ。
Electrumの電動バイクはすでに公道を走っている。同社の500台は、Gojekが展開するバイクタクシーやフードデリバリーに利用されている。公表はされていないものの、Electrumの電動バイクは台湾の電動バイク企業 Gogoroの技術に依存しているだろう。
Electrumは、2022年2月、国営石油ガス企業プルタミナ、Gogoroなどとともに、インドネシアにおける電気自動車(EV)エコシステムの開発を加速させるための協力関係の強化を発表していた。そのひと月前、Gogoroは、台湾を代表する電機企業の鴻海精密工業、Indonesia Battery Corporation、地場電力大手Indika Energyとともに持続可能なEVエコシステムを共同開発することで合意。 Gogoroは、昨年バリ島で開催されたG20サミットでは、同社の電動スクーターを提供し、インドネシアがネット・ゼロの取り組みを売り込むのに貢献した。
Gogoroは台湾で、電動スクーター、オートバイを提供し、都市部では、二輪車向けのバッテリー交換ステーションを運営している。さらに、Gogoroは、これらのステーションのおよそ20%を、余剰の電力を電気系統に戻すことができる「仮想発電所(VPP)」に転換し、小売電気事業者の顔も持つ。
台湾勢のプレゼンスは、政府の「多様化」のニーズと一致している。インドネシアの二輪市場は日本勢がほぼ完全に支配している。
インドネシア政府は3月、2024年までに電動バイクの販売補助に7兆ルピア(約4億5,588万ドル)を充てることを明らかにした。補助金は80万台の新しい電動バイクの販売と20万台の内燃エンジンバイクの改造をカバー。インドネシア二輪車産業協会のデータによると、昨年10月の時点で登録されている電動バイクは3万2,000台近くあった。同国は、2030年までに電動バイクの年間販売普及率25%、年間生産能力250万台の達成を目標に掲げ、同地域で圧倒的な市場とメーカーになることを目指している。
アジア開発銀行(ADB)の報告書は「電動バイクは、2030年までに新規販売台数シェアで化石燃料を使用するバイクを上回る」と予測。「2030年までに、新たに販売される二輪車の80%が電動バイクとなり、二輪車の総ストックに占める電動バイクのシェアは約45%、約5,500万台となる」
二輪の電動化で先行するのは中国(登録台数3.4億台)だが、東南アジアにもトレンドが波及している。中国勢と台湾勢のほか、東南アジア諸国で新興企業が雨後の筍のように誕生しており、フロンティアの争奪戦は始まっている。
日本勢も電動化
日本勢も電動バイク製品の投入を始めている。インドネシア市場を支配するホンダは、昨年11月、2030年にインドネシアの電動二輪車販売台数を年間100万台に引き上げる計画を発表した。23年に2車種、24年に2車種、25年以降に3車種の電動二輪車、と日刊自動車新聞は報じている。ホンダはインドネシアで交換式バッテリー型電気バイクの実証実験を2018年に開始し、交換式バッテリー型電気バイク「PCXエレクトリック」をすでに販売している。
ヤマハも2022年に電動バイクの実証実験を実施。11月から同国の4カ所で電動スクーター「E01」のテストマーケティングを開始した。