アドビがFigmaを200億ドルで買収した理由
アドビのFigma買収は、頻繁に大型買収を行い事業領域を拡大する、10年以上継続された戦略が、頂点に達したことを示している。アドビほど買収を効果的に使えた例は珍しいが、そろそろ当局の網にかかってもおかしくはない。
要点
アドビのFigma買収は、頻繁に大型買収を行い事業領域を拡大する、10年以上継続された戦略が、頂点に達したことを示している。アドビほど買収を効果的に使えた例は珍しいが、そろそろ当局の網にかかってもおかしくはない。
買収の概要
アドビはクラウドベースのユーザー・インターフェース(UI)デザインツールFigmaを買収する契約を締結したと発表した。買収額は約200億ドル。現金と株式の約半分ずつの取引だ。
FigmaのCEOと従業員に対して、約600万個の譲渡制限付株式(RSU)が追加で付与され、買収完了後4年間で権利が確定する。
アドビは、現金対価を手元資金と必要に応じて負債で調達することを想定している。この取引は、必要な規制当局の承認と認可を取得し、Figmaの株主の承認など、その他の取引完了条件を満たした上で、2023年に完了する予定だ。
Figmaの概要とUIツール市場
Figmaはチームコラボレーションに適しているプロトタイピングツール。2016年のリリース以来、ブラウザで直接動作することを理由に、UIデザイナーに人気だ。ソフトウェアをインストールしたり、複数のライセンスを購入したりすることなく、どのコンピューターやプラットフォームからでもプロジェクトにアクセスできる。
Figmaの特徴は、コラボレーションを念頭に置いて設計されていることだ。チームとしてプロジェクトをリアルタイムで編集し、誰が何を変更したかを確認したり、コメントやフィードバックをデザインに直接埋め込むことができる。
一番の競合といえるSketchは2021年5月にリアルタイムコラボレーション機能をリリースし、この分野でFigmaに追いつこうとしているが、サブスクリプションと対応バージョンのMacアプリを持っている人だけが利用できるという制約が設けられている。
アドビは「Adobe XD」という競合製品を2016年に投入していた。PhotoshopやIllustratorでも同様のデザインは可能だが、デジタルアプリケーションの大量投入時代を迎えてUI設計に特化した同製品が作られた。
FigmaはSketch、Adobe XDとともにこの市場の3強を占めていた。同社は今年4億ドル以上の年間経常収益(ARR)を上げる見込み。
買収の意味合い
FigmaのCEO Dylan Fieldは、「アドビのクリエイティブ分野での技術、専門知識、リソースを利用することで、Figmaプラットフォームの成長と革新を加速させる大きな機会がある」と買収の利点を説明している。「例えば、画像、写真、イラスト、ビデオ、3D、フォント技術などの専門知識をFigmaプラットフォームに取り入れる機会がありうる」
Figmaはアドビの長期に渡る買収ラッシュの最新のリストに名を連ねたことになるが、200億ドルはこれまでにない規模だ。アドビはクリエイティブ、マーケティングのサブスクリプションによる経常収益を享受するキャッシュリッチな企業だ。
アドビ2015年以降、年平均約20%収益を伸ばし、推定170億ドル(約2.4兆円)となったが、買収のほとんどは、マーケティング、eコマース、アナリティクスといった隣接事業のものだった。
競合企業や自社製品が持たない機能を持つ新興企業を買収し、サブスクリプションのラインアップを拡大するのはアドビのシャンタヌ・ナラヤン政権(2007年〜)で安定的に継続されているアプローチである。特にクリエイティブ部門と双璧をなすマーケティング部門の多くの製品は買収によって整えられた。
Figmaのほか、Lightricks、Canvaなどの新興企業は、より消費者向けのサービスを提供しており、かつては疑いようもなかったアドビの優位性を奪っていた。
Index Ventures、Greylock Partners、Kleiner Perkinsといった企業が支援するFigmaは、1年前の最後の資金調達ラウンドで100億ドルと評価されていた。同社はIPOを想定できる規模にあるが、IPOは枯渇しており、2023年にIPOを先送りする企業が少なくない。この市場環境がFigmaにとってアドビの買収オファーを魅力的に感じさせた可能性は否定できない。
ただ、そろそろ独占禁止の網にかかってもおかしくない。アドビは3社が支配的なUIデザインツールのうち2社を握ることになるため、当局が買収を承認するのか否かは興味深いところだ。