核融合は2050年のネットゼロ目標には間に合わない?
核融合は気候変動の「犠牲」の必要性を回避することはできない、と専門家は述べている。しかし、遠くとも豊富な持続可能なエネルギー源である核融合は、希望を与えてくれるかもしれない。
核融合は気候変動の「犠牲」の必要性を回避することはできない、と専門家は述べている。しかし、遠くとも豊富な持続可能なエネルギー源である核融合は、希望を与えてくれるかもしれない。
英国議会の科学技術特別委員会が核融合に関する公聴会を5月下旬に開催し、核融合が2050年までに世界の平均気温を1.5℃以内に抑える目標である炭素排出量ネットゼロにどう資するか、専門家が意見を話した。
国際核融合エネルギー機構(ITER)のチーフ・サイエンティストのティム・ルース博士は、「潜在的な原子エネルギー源は、気候変動の犠牲となった21世紀後半に、持続可能な経済発展のための『希望』を市民に提供することが約束されている」と語っている。しかし、英テクノロジー誌The Registerによると、ルース博士は英国は2050年までに電力の10%さえも核融合から供給することは不可能であると語った。「答えは明らかにノーだ。そのための燃料製造能力がない。産業としての能力がない。そのための燃料製造能力がない」と述べた。
核融合は水素の一種である重水素と三重水素が合体し、高いエネルギーを持ったヘリウムと中性子が生まれる過程である。燃料に当たる重水素と三重水素は現状高価であり、安価な製造方法をめぐる探求が行われている。日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドの投資が注がれるITERのルース博士は、燃料の製造工程への投資が別に必要であることを主張したのだろう。
核融合は昨年重要なマイルストーンを達成し、2040年までに実験的なエネルギー供給を示すかもしれないが、ルース博士は委員会に出席した他のパネリストと同様に、核融合は地球温暖化の最悪の事態を回避できる方法で世界のエネルギー生産を脱炭素化するための実用的解決策にはならないだろう、と同意したという。
The Registerによると、最も楽観的な意見を述べたのは、ファーストライト・フュージョンのCEOであるニック・ホーカー博士で、この10年の間に、実験が研究者が投入した以上のエネルギーを生み出すという「物理学的問題」を解決する、信頼できる計画がいくつかあると語った。 「私は、2030年代には核融合発電所のパイロットプラントができると思う。そして、2040年代にはコスト競争力のある核融合発電所ができると思うが、規模は小さいでしょう。2040年代に突然、すべての電力を核融合発電でまかなうということはないでしょう。太陽光も風力も、手に入る限りの(持続可能な)資源が必要だ」と語った。
英原子力諮問機関(NIRAB)の前委員長であるデイム・スー・アイオン氏は、商業的な核融合の可能性を示すプロトタイプのプラントができるのはいつになるのか懸念を示した。「2040年以降の話でしょう。もし、核融合発電がグリッドで利用できるようになるということであれば、まだ解決していない工学的、技術的課題をすべて解決すれば、今世紀後半には十分に可能だ」
核融合は世界中で大規模な研究資源が投入されているフィールドの1つである。今年1月、米国の科学者たちは、カリフォルニア州ローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設(NIF)で、プラズマの自己加熱を示す結果を発表した。この論文では、核融合から生じる熱が燃料の主な加熱源となる燃焼プラズマを、4回の実験を通して実現し、それぞれ100キロジュール以上のエネルギーを得たことが報告されている。その翌月、英国オックスフォードにある欧州トーラス共同研究施設(JET)を運営する科学者と技術者は、核融合による熱エネルギーが59メガジュールという、これまでのJETが達成した記録の倍以上となる記録を発表した。