コスパ最強の次世代太陽電池が発電効率の壁を破る

シリコン太陽電池の理論的な変換効率の限界は29.4%で、改良の余地が小さい。既に量産されているシリコン太陽電池とペロブスカイト太陽電池を連結することで、この限界を超える高効率太陽電池を実現できる可能性がある。費用対効果が高く、科学者の間で研究が進んでいる。

コスパ最強の次世代太陽電池が発電効率の壁を破る
ペロブスカイト・シリコン・タンデム太陽電池。出典:スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)

シリコン太陽電池の理論的な変換効率の限界は29.4%で、改良の余地が小さい。既に量産されているシリコン太陽電池とペロブスカイト太陽電池を連結することで、この限界を超える高効率太陽電池を実現できる可能性がある。費用対効果が高く、科学者の間で研究が進んでいる。


シリコン太陽電池の理論的な変換効率の限界である29.4パーセントに近づいている。最も一般的な太陽電池は、光を吸収するためにシリコンを使用している。最新の商業用シリコン太陽電池の効率は現在24パーセント以上に達しており、実験室での最高の太陽電池の効率は26.8パーセントである。将来的な効率向上の余地は非常に小さい。

しかし、既に量産されているシリコン太陽電池とペロブスカイト太陽電池(PSC)をタンデム化(二つのものを連結すること)させて、製造コストを抑制しつつ高効率太陽電池を達成しようとする戦略がある。ペロブスカイトの上層は短波長光を吸収し、シリコンの下層は長波長光を吸収するため、太陽光をより効率的に電気に変換することができる。この「ペロブスカイト・シリコン・タンデム太陽電池」の開発によって、シリコン系の変換効率の理論的な限界である29.4%を超えられることが確認されている。

このタンデム太陽電池は、少なくとも理論的には、40パーセントを超える効率を低コストで達成する方法を提供するため、費用対効果が高く、科学者の間で研究が進んでいる。

2022年、ドイツのHelmholtz Zentrum Berlin (HZB) の研究者は、このタンデム太陽電池で29.8%の効率を達成し(*1)、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究者たちは、31.25%という新記録で首位の座を奪った。これに対し、HZBは32.5%の効率を達成。この記録は、2023年4月にサウジアラビアのアブドラ王立科学技術大学(KAUST)の研究者たちによって33.7%の効率で更新された。

HZBのチームは、『ネイチャー・ナノテクノロジー』誌の最新論文で、この画期的な効率を達成した方法の詳細と、ペロブスカイト太陽電池の将来性をさらに高める方法についての洞察を発表した。重要な成果は、ペロブスカイト化合物の改良と、ヨウ化ピペラジニウムという新しい分子を表面修飾に用いたことで、電荷再結合とそれに伴う損失を低減することができたことだ。HZBは現在、タンデム型セル構造に関する正確なデータと情報を公表している。

スイスの研究者たちは、二つの方法で太陽電池の効率を大幅に上げることに成功した。まず一つ目の方法では、平らなシリコンの上に、特殊な技術を用いてペロブスカイトという物質を塗りつけることで、太陽電池の効率を30.93%に上げた。二つ目の方法では、シリコンの表面を少し凹凸にした上で、新しい技術を使ってペロブスカイトを塗りつけることで、効率を31.25%まで高めた。特に二つ目の方法は、より多くの電力を作り出すことができ、また既存の産業用シリコン太陽電池との互換性もある。

KAUSTのチームは現在、面積が240平方センチメートルを超える工業規模のペロブスカイト/シリコン・タンデムセルを製造するためのスケーラブルな方法と、重要な工業的安定性プロトコルに合格する高度に安定したタンデム太陽電池を得るための戦略を模索している。

米国エネルギー省国立再生可能エネルギー研究所(NREL)のKai Zhuは、自ら電池を作り試験した結果、ペロブスカイト太陽電池は、より低い総コストでより高いエネルギー収率を生み出す可能性を秘めている、と結論づけた。Zhuが設計したプロブスカイト太陽電池は、前面では直射日光を、背面では反射された太陽光を取り込むことが可能となり、このタイプのデバイスは単面型デバイスを凌駕することができる、と主張した。

また、Zhuは、ニッケルを塗ったグラファイト層とビスマス・インジウム合金層を提案している。この2つの層は、簡単にペロブスカイト素子に組み込むことができ、低コストで製造できるという。

参考文献

  1. Tockhorn, P., Sutter, J., Cruz, A. et al. Nano-optical designs for high-efficiency monolithic perovskite–silicon tandem solar cells. Nat. Nanotechnol. 17, 1214–1221 (2022). https://doi.org/10.1038/s41565-022-01228-8
  2. 村上拓郎. ペロブスカイト系タンデム太陽電池の世界動向

Read more

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAI、法人向け拡大を企図 日本支社開設を発表

OpenAIは東京オフィスで、日本での採用、法人セールス、カスタマーサポートなどを順次開始する予定。日本企業向けに最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を見込む。日本での拠点設立は、政官の積極的な姿勢や法体系が寄与した可能性がある。OpenAIは法人顧客の獲得に注力しており、世界各地で大手企業向けにイベントを開催するなど営業活動を強化。

By 吉田拓史
アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表  往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビ、日本語バリアブルフォント「百千鳥」発表 往年のタイポグラフィー技法をデジタルで再現

アドビは4月10日、日本語のバリアブルフォント「百千鳥」を発表した。レトロ調の手書き風フォントで、太さ(ウェイト)の軸に加えて、字幅(ワイズ)の軸を組み込んだ初の日本語バリアブルフォント。近年のレトロブームを汲み、デザイン現場の様々な要望に応えることが期待されている。

By 吉田拓史