ロボタクシーがネオ・ラッダイトの瞬間を迎える:導入都市数は着々と拡大

自律走行車(AV)を利用した無人タクシーである「ロボタクシー」が、感情的な反対とも言える「ネオ・ラッダイト運動」の瞬間を迎えている。米国での展開都市は拡大しており、長い助走の末、普及局面にたどり着いた。

ロボタクシーがネオ・ラッダイトの瞬間を迎える:導入都市数は着々と拡大
出典:Cruise

自律走行車(AV)を利用した無人タクシーである「ロボタクシー」が、感情的な反対とも言える「ネオ・ラッダイト運動」の瞬間を迎えている。米国での展開都市は拡大しており、長い助走の末、普及局面にたどり着いた。


自動運転(自律走行)のタクシー、いわゆる「ロボタクシー」の展開に関して、サンフランシスコで激しい議論が起きている。多くの技術革新がそうであるように、賛成派と反対派の両方がいる。

8月10日、カリフォルニア州公益事業委員会は、Alphabet傘下のWaymo(ウェイモ)とゼネラル・モーターズ(GM) 傘下のCruise(Cruise)に24時間365日の商業運行を許可した。それまでは夜間のみ運賃ありの自律走行車(AV)の運行が認められていた。

しかし、反対する住民もいる。反ロボタクシー団体であるSafe Street Rebelは、タクシーにコーンを置く「コーニング(coning)」という手段に訴えている。これは、フロントガラス手前のボンネットにコーンを置くことであり、AVの挙動が停止する。現地では「AIに対する初の物理的抗議活動」と紹介されている。このグループの代表は、新しい産業機械に抗議した19世紀の職人であるラッダイトの起こした機械うちこわし運動との類似性に言及している。

このような「ネオ・ラッダイト運動」は、AIやソフトウェア、機械の浸透によって世界中で観測されている。最近では、ハリウッドの映画・テレビの脚本家1万人以上が、盗作防止のためAIによる原作・原案の作成に反対し、大規模なストライキを実行した。

ネオ・ラッダイト派がソーシャルメディアで目立っているが、実際には、反対派の論理は様々なようだ。ウーバーのドライバーは、雇用の喪失を心配する。ゴミ処理車や消防車、救急車の走行を阻害する可能性にも言及されている。生乾きのセメントの上でAVが立ち往生した事件は、交通当局や警察、建設会社などの懐疑心を煽った。

反対派を勢いづける事故も起きた。8月中旬には、サンフランシスコで、CruiseのAVが2件の衝突事故(うち1件は消防車との衝突)に巻き込まれた。カリフォルニア州当局はGMに対し、車両の一部を「直ちに」路上から撤去するよう要請し、Cruiseはこれを受け入れた。

WaymoとCruiseがともに主張する論点は、「人はあまり優れた運転手ではない」ということだ。今年2月、Waymoはセーフティドライバーなしの自律走行最初の100万マイルに関するデータを発表した。車両が経験した20件の接触事象のうち、負傷者の報告はなく、少なくとも1台の車両がレッカー移動された衝突事故は2件のみであった。米国では、2022年に交通事故で4万3,000人近くが死亡した。飲酒運転をせず、疲れず、法律を遵守するよう訓練された自律走行車(AV)は、その助けになるかもしれない

ビジネスは長い助走期間を経てようやく飛翔しようとしている。Cruiseのカイル・ヴォクトCEOは7月、GMの株主に対し、「私たちは、ほとんどのビジネスが夢見るような、指数関数的な成長を遂げています」と語った。Cruiseは2025年に10億ドルの収益をGMにもたらすことを目指している。

全米に広がり始める

フェニックス、サンフランシスコ、オースティンは現在、一般市民が運転手のいないロボタクシーを呼ぶことができる唯一の都市だが、このリストは来年中に10都市以上増える可能性がある。計画されている市場のほとんどはサンベルト地帯(北緯37度以南の温暖な地域)で、天候に恵まれ(AVは雪に弱い)、州の政策も歓迎されている。

WaymoとCruiseが市場をリード。現代自動車と共同出資しているMotionalも大きな拡大計画を持っているが、より慎重なアプローチをとっており、今年後半にはラスベガスからスタートする予定だ。

Cruiseは、シアトルとワシントンDCで手動によるデータ収集を開始した。このデータ収集は、これらの場所での商用サービス開始の前段階である。このプロセスでは、ロボットタクシーを手動で運転し、現地の走行環境や気候に関する情報を収集し、その後、都市の地図を作成する(*1)。シアトルが選ばれたのは、坂が多く、雨が多いという、AVのセンサーにとって難題となる条件を考慮してのことという。

Cruiseは15都市で事業を展開。新しい都市での同社の典型的な展開には、最初の手動によるデータ収集とマッピング、人間の安全運転手によるテスト、そして最終的な無人運転テストが含まれる。配車サービスは、まず従業員に導入され、その後、より広い一般市民に導入される。

ロボタクシーの法的地位は全米的に確実なものになっていない。米議会は2017年以来、超党派の協力の兆しはあるものの、AV法案を可決していない。Autonomous Vehicle Industry Association(自律走行車産業協会)によると、23の州がAVのテストや配備を許可する法律を可決した。その他、特に北東部ではテストを許可している州もあるが、13州ではAV関連の法令が制定されていない。

「自動運転車が私たちの道路に真の利益をもたらす未来は、非常に容易に想像できる」と米アトランティック誌のLora Kelleyは書いている。「しかし、まだそこに到達していないのではないかという疑問がある」

脚注

*1:ヴォクトCEOはこう言う。「我々は今、プレイブックを走らせている。都市を偵察し、データセットを増強し、再トレーニングし、検証し、運行を開始する。いったん稼働すれば、データはどんどん流れ込んでくる」。

参考文献

  1. Francesca M. Favaro et al. Interpreting Safety Outcomes: Waymo's Performance Evaluation in the Context of a Broader Determination of Safety Readiness. arXiv:2306.14923v1 [cs.SE] for this version
  2. Engström, J., Liu, S.Y., Dinparastdjadid, A. and Simoiu, C., (2022). Modeling road user response timing in naturalistic settings: a surprise-based framework.
  3. Favarò, F., Fraade-Blanar, L., Schnelle, S., Victor, T., Peña, M., Engstrom, J., Scanlon, J., Kusano, K., and Smith, D. (2023). Building a Credible Case for Safety: Waymo's Approach for the Determination of Absence of Unreasonable Risk.

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