メタバースは死んだ? まだ始まってもいない
AIブームとの比較からメタバースブームの「終焉」をうたう論調が増えている。実際には技術が一般層を唸らすほどの水準にまだ達していないだけであり、これが「遅延して」実現していくと考えられる。どのくらい遅延するかが鍵だ。
AIブームとの比較からメタバースブームの「終焉」をうたう論調が増えている。実際には技術が一般層を唸らすほどの水準にまだ達していないだけであり、これが「遅延して」実現していくと考えられる。どのくらい遅延するかが鍵だ。
NTTデータグループのコンサルティングファーム、クニエのメタバースビジネス実態調査によると、「事業化の成否が判明した取り組み」のうち91.9%が事業化に失敗していることが判明した。
近年、メタバースというバズワードに伴い、過剰だったり見当違いだったりする期待が醸成された。実際には、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)は発展途上の技術で、「ポケモンGo」のヒットから、ゲームの成功は想定しやすいものであるが、それ以外のユースケースではまだ決定的なインパクトがない。
NFTとメタバースの融合というビジョンは時代の徒花として消えた。NFTはデジタルアイテムの唯一性を証明できると誇大広告されたが、実際にはそれを保証する署名としてワークしないことが、一般層にも知れ渡っている。
ただ、業界が目的地に向かっていることは確かだ。ハイプを取り除かれた今が、メタバースの行き先を見るのに適切な時期なのかもしれない。
iPhoneやファミリーコンピュータのような決定的なハードウェアの登場が待ち望まれるが、そこに向かっている兆候はある。
各所の動向
- ブルームバーグのMark Gurmanは29日、Metaが開発中の新型VR器の「Meta Quest 3」の利用の機会を得て、大規模な改良を紹介した。Gurmanによると、Quest 3は、オリジナルのQuest 2よりも「はるかに軽く、薄く」なっており、長時間の使用でも快適であるようだ。
- フィナンシャル・タイムズによれば、MetaがARグラスで有名なMagic Leapと、数年間のIPライセンスと製造に関する契約について交渉しているという。詳しい交渉内容は明らかにされていないが、これらの会社間の提携はヘッドセットの共同開発を含まない模様。Magic LeapがMetaに対して光学技術の一部を供与する可能性があるとの見方が出ている。Magic Leapは野心的なARグラスのビジョンを掲げて35億ドルを調達したがうまくいかず、エンタープライズ市場に焦点を当てたより控えめのビジョンに転換した。
- Metaのメタバースの取り組みを否定する論調は多いが、同社は取り組みをやめていない。CEOのマーク・ザッカーバーグは、4月下旬の決算説明会で「AIの他に、私たちが注目している大きなテクノロジーの波は、『メタバース』です。私たちはメタバース・ビジョンへの注力から遠ざかっているという説がありますが、それは正確ではありません。私たちは、何年も前からAIとメタバースの両方に注力していますし、これからも注力し続けます」と説明した。
- ブルームバーグのGurmanは6月5日のAppleの開発者会議にさきだって、複合現実(MR)ヘッドセットの情報をリークされた。Gurmanが引用したRealityヘッドセットに関連する匿名の情報源によると、 Appleの「Reality」ヘッドセットの設計は初期の計画から大きく変化したという。当初の計画では軽量のARグラスを考えていた。しかし、計画が進展するにつれて、外部パススルーカメラを搭載したARとVR両方の要素を持つヘッドセットへと変貌を遂げたという。新しいxrOSオペレーティングシステムで動作し、価格は約3,000ドルになる予定という。
- ソニーが2023年2月22日に発売されたPlayStation VR2(PSVR2)の初回販売数を初めて明らかにしたが、PSVR2はリリースから6週間で約60万台を販売し、初代PSVRの55万台を8%上回る好スタートを切っていた。
- Microsoftは2016年にARヘッドセットのHoloLensの最初のバージョンをリリースし、ゲームや消費者向けアプリケーションでの成功に期待したが、プロジェクトが停滞。同社は現在、主にエンタープライズ向けのツールとして販売し、米軍との12万台、最大220億ドル相当の契約にこぎつけたもののうまくいかず、契約解除に伴いレイオフに踏み切っている。
- TikTokの親会社BytedanceはMetaのデバイスのために開発したタイトルを、BytedanceのPicoヘッドセットに移植すると、一部のVR開発者に1タイトルあたり15,000ドルから25,000ドルのインセンティブを提供しているとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。Picoも今年3分の1の従業員を解雇したと言われている。
メタバースはすでに成功しているという意見も
ゲーム業界の視点では、メタバースはすでに成功しており、今後より拡張していくと言えるかもしれない。メタバースという概念を提唱した、エピック・ゲームズ CEOのティム・スウィーニーの定義では、メタバースは「SNSに変わるコミュニケーションのための3D空間」であり、二次元スクリーンの中ですでに繁栄していることになる。
スウィーニーは3月の開発者向け会議で、GamerBeatのDean Takahashiのインタビューに対し、自社が開発するフォートナイトや、子どもに人気のロブロックスという代表的なメタバースゲームを挙げ、「この6年間を振り返ってみると、メタバースのオーディエンスは、ごくわずかな数から約6億人にまで成長している…ここには数十億人のユーザーに達する新興市場があるのです。そのことを評価し、根拠のない誇大広告や、その周辺の主張、NFTとは切り離して考えるべきだ」と話した。