ベンチャーキャピタルに積み上がる数十兆円の待機資金
世界のベンチャー投資は、記録的な2021年から2020年の水準まで巻き戻された。しかし、投資家の資金調達の速度は昨年を上回っており、待機資金は市場に投じられる時をいまかと待っている。
世界のベンチャー投資は、記録的な2021年から2020年の水準まで巻き戻された。しかし、投資家の資金調達の速度は昨年を上回っており、待機資金は市場に投じられる時をいまかと待っている。
2022年第3四半期、世界のスタートアップへのベンチャー投資は前期比34%減に見舞われた。スタートアップエコシステムの参加者の多くは低迷を予想していたが、この劇的な展開は、多くの創業者や投資家の背筋を凍らせるものだろう。
リサーチ会社CB Insightsによると、22年第3四半期の世界のベンチャー資金調達額は745億ドルに達し、9四半期ぶりの低水準となった。34%減は四半期ベースでは過去10年で最大の減少率で、ピークだった21年第4四半期からは58%減。ディール件数は7,936件となり、前期比10%減となった。
米スタートアップは、第3四半期の世界の資金調達の半分弱(49%)を占めているが、Founder Collectiveのジェネラル・パートナーであるMicah Rosenbloomは、米国では、プレシードラウンドとシードラウンドの市場は比較的活発なままだが、シリーズA以降の投資家は苦しむかもしれない、と説明している。
それはベンチャーキャピタル(VC)の金主であるリミテッド・パートナー(LP) の事情が関係するという。LPはこの信用収縮の時期にはバリュエーションの増加で得られるペーパーゲインではなくキャッシュリターンをより重視するようになっている。
LPの中にはVCに対して投資の速度を遅くするよう要求する者もいるようだ。Rosenbloomは、2001年のドットコムバブル崩壊後の景気後退期には、多くのVCがLPに出資された資金を「返却」した事例を紹介している。
先週のTechCrunch Disruptでは、米大手VCであるGeneral CatalystのNiko Bonatsosは、スタートアップは自然淘汰のサイクルを経なければならず、それは「適者生存 」になるだろうと述べた。
何百もの新しいVCが、生き残るために互いに合併することを決めるか、ベンチャーキャピタリストという職業から離れる者もいれば、シニアパートナーを退職で失い、自分の会社の将来がどうなるかを考えなければならない者もいるだろう、と彼は主張した。
米VCのBloomberg Betaの投資家Roy E. Bahatは、多くのベンチャーキャピタリストが「静かな退職」をしていると説明したスレッドを投稿している。大型エグジットで甘美な思いをしたのに、おそらく価値がゼロになるスタートアップで新しい旅を始めようと思いづらい、とその状況を描写している。
「『手抜きモード』でベンチャーキャピタリストをするのは本当に簡単だ。パートナーとのミーティングで意見を述べたり、LPを昼食に招いてバリュエーションの推移を話題にしたり、そして誰にも見つからないことを祈るのだ」
ワシントン・ポストのNitasha Tiku、Gerrit De Vynckは、Instagramに代わるカジュアルなソーシャルメディアとして若者の間で人気を集めているBeRealが、以前のSnapchatやClubhouse、Pinterestのように、話題性のあるスタートアップの要素をすべて備えていたにもかかわらず、投資家が付けた企業価値は6億ドル程度にとどまった、と書いている。昨年まで毎日のように登場していた、バリュエーション10億ドル以上の「ユニコーン」の地位には遠く及ばなかったのだ。
CB Insightsによると、従業員の解雇、CEOの辞任、経費削減により、ハイテク企業特有の過剰な特典がなくなり、2022年第3四半期に投資家が作った10億ドル以上の企業はわずか25社にとどまった。1年前は、その5倍以上のユニコーンが誕生していた。
TwitterやLyftなどの企業に投資しているOutlander VCの創設者であるベンチャーキャピタリストのPaige Craigは、「お金と名声のためにやっている人たちなど、エコシステムからやってはいけない創業者たちが大量に出てくることになるだろう」と述べた。
BeRealの最初の資金調達ラウンドに投資したベンチャー企業Andreessen Horowitzを含むかつて隆盛を極めた投資家は、その投資を縮小している。ベンチャーキャピタル調査会社PitchBookによると、レイターステージの新興企業へのベンチャーキャピタルからの資金提供額は、第2四半期と比較して第3四半期には50%近く減少したという。
しかし、楽観的な意見もある。ベンチャーキャピタリストのJon Sakodaは、ディールフローの停滞は一過性であると考え、VCに託された2,900億ドルのドライパウダー(待機資金)は、2023年にスタートアップ市場を再び活性化させる、と主張している。
彼の予測では、記録的な水準の資金調達が今後数年間続くと見ている。PitchBookによると、米VCは2022年第2四半期までで1,215億ドルを調達し、記録的な 2021年の1,389億ドルに上半期だけで迫っている。
同時に、VC業界は2016年以降5,730億ドルを調達しており(過去6四半期だけで2,610億ドルを記録)、待機資金が十分にあるという楽観的な見方を示している。彼の作成したモデルによると、VC業界は今年、昨年と比較して小幅な減速にとどまり、2023年と2024年も記録的な投資水準が続くという。