Twitter買収でSNS時代は大きな節目を迎えた

Twitterがマスクの「慈善事業」でその公共性を正しく満たすための改造を施されようとしている。Facebookはメタバースのための「金づる」となった。SNS時代が大きな節目を迎えたことは確かで、世界は次世代の新しい方法を探している。

Twitter買収でSNS時代は大きな節目を迎えた
2022年3月17日(木)、米カリフォルニア州サンフランシスコのツイッター本社で、従業員が料理の皿を運んでいる。Photographer: David Paul Morris/Bloomberg

イーロン・マスクがTwitterを買収し非公開化を目指すことで、2000年代以降のインターネットで支配的な存在だったソーシャルメディアに一つの区切りがついた。

マスクは、言論統制の廃止、ユーザーによるツイートの編集許可、ボットの拡散対策、アルゴリズムの公開など、ツイッターで実現したい変化の一覧をほのめかしている。ツイッターの稼ぎ頭である広告モデルの将来についても疑問を投げかけている。中には、サンフランシスコの本社をホームレスシェルターにするという型破りな提案もある。

現代のソーシャルメディアで起きていることについて、マスクなりの視点があり、彼なりの解決策を持っているのだろう。これは、Twitterがこれから新たに価値を創出していくものではなく、その修復によって社会が受けている損失が緩和され、再び価値を提供できるようになる、という含意がある。近年、SNSはインターネットの黄金郷の地位を失ってきたが、いまではそのダウンサイドに視線が集まっている。

Twitterが誤情報、ヘイト、陰謀論を増幅する装置の1つであったことは、Twitterが研究者に対してオープンだったことによって明らかになっている。頑なにデータをオープンにすることを拒んでいるFacebookとは対称的で、この点は称賛に値するだろう。

今回の買収の枠組みはマスクの「Twitter改造ゲーム」を難しくしている側面がある。世界一の富豪と言えど、キャッシュを融通できるわけではないマスクは、レバレッジド・バイアウト(LBO)という手段をとったが、これは被買収企業に、買収のために必要とした負債の負担を強いるものである。Twitterは黒字化するのに長期に渡って汲々としてきた会社であり、今も底堅いキャッシュフローを持っているとは言いがたい。マスクは負債の重力を感じる前にキャッシュフローを黒字へと導きたいところだ。(しかも、Twitterがすんなり買収提案に応じた背景には近く公表される四半期決算の内容がマズいという噂がある)。

さらに、マスク個人にもプレッシャーが掛かっている。彼は、資金の一部を用立てるためテスラ株を担保にした負債を採用したため、Twitterの株価が一定以上下落すると追証が求められると考えられている。長い苦難の時を経て、今では無敵の様相を見せるテスラの株の一部を、それよりも格段に価値の低いと思われるTwitterのために売らないといけなくなるシナリオもありうる。

つまり、マスクとTwitterには複雑な時間的制約が生じている。買収の興奮が冷めた後、Twitterという問題がいかに難しいものだったかを人々は思い出すことになるはずだ。

Facebookも軸足をすでに変更している

マスクが検討している、SNSが広告以外の収益源を得るというアイデアは目新しいものではない。ケンブリッジ・アナリティカ事件が公になり、広告事業に対して規制当局の目が光りだした2018年頃から、ソーシャルメディア最大手のFacebookは広告以外のビジネスモデルを模索し始めた。それは独自の暗号通貨の開発や、WeChatを真似たスーパーアプリ化の模索という形をとった。これらは壁に当たり有意な形を取るまでに至らなかった。

2021年初頭にはネットを通じてドナルド・トランプ元大統領らに煽られた暴徒が連邦議会を襲撃した。同年秋には内部告発者のフランシス・ホーゲンが、経営陣が広告収益を守るため誤情報を拡散するアルゴリズムを容認したことを告発した。マーク・ザッカーバーグは直後に社名をメタへと変更し、メタバースへのベットを宣言した。ソーシャルメディアに関わっていた人員をメタバースの部署へと配置換えし、積極的な人材採用を実行している。

メタバース投資の原資は、今でも非常に収益性の高いソーシャルメディアにおけるターゲティング広告によって賄われている。Facebook上の有害コンテンツを検知するための機械学習モデルを開発するチームもまたそのままメタバース部門へと配置換えされたと報じられている。社会に打撃を与えて得たカネで新しい事業領域を追求している、とも言えるだろうか。

2022年の最初の四半期決算では、同社のプロダクト群のアクティブユーザー数が初めて減少し、昨年から漂い続けた「終わりの始まり」の印象が決定づけられた。同社はユーザーのアクティブ性に関する情報を公開していないが、TikTokへの言及が幾度となく行われた電話会議は、間違いなく何かを物語っているだろう。

Facebookのプラットフォームが広告収益の大半を生み出す先進国では衰退していることは、2010年代後半から頻繁に囁かれ続け、特にこの数年は公の秘密だった。それでも、広告主側から見ると、ターゲティング広告の品質はTwitterのような同業他社と比べると格段に違うため、広告予算の割当先としては上位の地位を占め、収益は拡大を続けてきた。しかし、ユーザーが減り、頻繁に利用しなくなれば、広告商品としての魅力も失われていくことになる。

もちろん、SNSが完全に死ぬ、という意味合いではないだろう。「メタバース」というSF小説中の言葉を最初に熱心に広めたのはエピック・ゲームズのティム・スウィーニーであり、彼のようなゲーム開発者が3Dの世界でソーシャルメディアを再発明しようとしている。TikTokもまたスナック菓子のような短尺動画を若年層に日々大量に見せることに成功している。

それでも、SNSのような製品を無料で公開し、広告で収益化するビジネスモデルは、誤情報を広めようとしたり、人々の対立を煽ろうとしたりする悪意の人々にとって搾取可能な機会となることはすでに十分に証明された。我々が知りうる限りでも、驚くべきことが起きてきたし、公表されていないものがまだまだある可能性は否定できない。TwitterやFacebookのような2000年代に登場したソーシャルメディアはかつてのシャイニーさを完全に失った。同じようなことがインスタグラムやTikTokにも訪れる日が来るだろう。人々は新しいものを常に求めているし、古いものの悪い側面が知られれば知られるほど、その傾向は強まるだろう。

かくして、代表的なSNSの1つは非公開化され、毀誉褒貶の男マスクのフリーハンドに託されることになった。マスクは買収について経済的な興味はないと語っている。慈善事業のようなものかもしれない。

別の代表的なSNSは、人の製品をパクることに一ミリ病の呵責も感じないハーバード卒の男が、メタバースという流行り言葉に気づき、そこに見出した覇権の可能性にチャレンジするための「汚れた資金供給役」としての位置づけを得た。この枠組みの中では、世界中の民主主義に危険な影響を与えてきたFacebookが関係する大量の問題の解決が静かに無視されている。立派なことだ。

こう思わざるを得ないだろう。「ここにはもう新しく、素晴らしいものがなく、悲しい話しか残ってないのではないか」と。そして、情報を流通させるための新しい製品が望まれているのではないか、とも。


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※4/29〜5/08のGW機関は無料ニュースレターを休みます。有料レターは続きます。

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