グーグルの「自社検索デフォルト化」戦略を日米当局が狙い撃つ
日本の独占禁止当局がグーグルが採用する自社検索をデフォルト化する慣行を問いただすと取り沙汰されている。これは米司法省が、グーグルがアップルにデフォルト化のために支払う報酬に照準を合わせた格好だ。
日本の独占禁止当局がグーグルが採用する自社検索をデフォルト化する慣行を問いただすと取り沙汰されている。これは米司法省が、グーグルがアップルにデフォルト化のために支払う報酬に狙い撃ちするのに呼応した格好だ。
公正取引委員会は、グーグルがスマートフォンやブラウザに対して自社の検索をデフォルトとして搭載するよう働きかけており、ライバルアプリの搭載を制限していた疑いがあるとして、独占禁止法違反の疑いで調査に乗り出す方針を固めた、と時事通信が週末に報じた。週明けに主要各紙が追いかけ報道をしたことから、公取委の方針は確実なものと考えられる。だが、関係者談話に基づく報道の段階であり、公取委の正式な発表を待つ必要がある。
これは先週の米司法省対グーグルの訴訟の動向を受けてのものだろう。米司法省はグーグルに対する反トラスト裁判を再開したが、その司法省の刀の切っ先は、グーグルが20年に渡ってアップルと交わしているグーグル検索のデフォルト化の契約に向けられた。
アップルは、2003年にブラウザ「Safari(サファリ)」を提供開始して以来、自社製品全体のデフォルト検索エンジンをグーグルに設定してきた。この契約は収益分配システムへと変化し、長年にわたり、グーグルはデフォルトを維持するため莫大な金額をアップルに支払っている。この支払いは、両者の間のInformation Services Agreement(ISA、情報サービス合意)に基づいて行われている。
この種の支出は、グーグルの親会社アルファベットの財務報告では、Traffic Acquisition Costs(TAC、トラフィック獲得費用)と表現されている。2022年通年のTACは489億ドル(7兆3,200億円)に及ぶ。TACはアップルに対するものだけでなく、サムスンのような大手スマートフォンメーカーや米通信キャリアにも支払われている。
英メディアThe Registerによると、証券会社バーンスタインのアナリストは、グーグルからアップルへの年間支払額は180億〜200億ドルに達し、アップルの年間営業利益の14-16%を占めると推定している。
司法省はグーグルがアップルや他の企業と反競争的な取引を行い、検索エンジンを独占的に提供していると主張している。これは、1990年代に米国がマイクロソフトを相手取って以来、最大のハイテク反トラスト法裁判である。
司法省は、グーグルがブラウザーや携帯電話上で目立つ位置にあることが、代替サイトへの乗り換えを妨げると主張している。ブルームバーグによると、2007年、グーグルのチーフエコノミストであるハル・バリアンは、デフォルト設定を「検索競争における強力な戦略的武器」と呼んでいた。2014年、グーグルはアンドロイドのユーザーが「プリセットされたアプリから離れることはほとんどない」と判断した。
これに対して、グーグルのグローバル・アフェアーズ担当プレジデントであるケント・ウォーカーは、司法省(DoJ)の主張に対して、「深い欠陥がある」と述べ、消費者の利益にならないと反論するブログを公表した。
ウォーカーは、ユーザーがグーグルの検索エンジンを選ぶのは選択によるものであり、強制によるものではないと強調した。ウォーカーは、グーグルの販売促進努力を、プレミアムな棚スペースにお金を払っている企業になぞらえ、グーグルの競合他社はユーザーが簡単にアクセスできると主張した。「同省の訴状は、グーグル検索を人々が簡単に利用できるようにするための我々の努力を批判するために、怪しげな独占禁止法上の議論に依拠している」とウォーカーは書いた。
技術的には、グーグルだけが唯一の選択肢ではない。アップルのユーザーは、そうしようと思えば、デフォルトの検索エンジンをDuckDuckGo、Bing、Ecosiaに切り替えることができるし、多くのサードパーティ製ブラウザもデバイスのデフォルトに設定できる。アップルもグーグルも、切り替えは簡単だと主張している。
しかし、行動科学の実験で示されているように、消費者はデフォルトに弱く、切り替えようとはしない傾向がある。
アミット・メータ判事は来年まで判決を出さない見込みだが、もし司法省が勝訴した場合、控訴や救済策を確立するための二審の可能性もあり、裁判の解決は何年も長引くことが予想される。
裁判が明らかにしたこと
- 内部文書のひとつでは、グーグルの財務担当幹部が、検索広告ビジネスをドラッグの販売に例えている。
- ブッキング・ホールディングスの重役に転身したグーグル歴9年の古参社員は、広告主にコストのかかる変更を不作為に課す自社の検索エンジンを「慈悲深い独裁者」と呼んでいた。
- グーグルで15年間、検索広告製品の開発に携わったSridhar Ramaswamyは、同社の広告重視の姿勢は消費者体験を弱め、プライバシーに関連する「大きな社会的影響をもたらす多くの意図しない副作用」をもたらすと証言した。
- Neevaというグーグルに代わるサブスクリプション・ベースの検索エンジンを作ろうとして失敗したRamaswamyは、アップルのインサイダーとのコネクションがあったにもかかわらず、サファリのオプションリストに検索エンジンを追加してほしいという打診に応えてもらうことさえできなかったと証言した。グーグルの「支払いは事実上、エコシステムを例外的に変化しにくいものにしている」と彼は言ったという。