噴出するSNSの問題とその処方箋|平和博|メディアの未来#5
2020年9月8日(火)、米ノースカロライナ州ウィンストン・セーラムで行われたドナルド・トランプ米大統領の選挙集会前に、陰謀論Qアノンの旗を手にする参加者。本写真はブルームバーグ ベスト・オブ・ザ・イヤー2020に選ばれている。Photographer: Logan Cyrus/Bloomberg。

噴出するSNSの問題とその処方箋|平和博|メディアの未来#5

「メディア」の岐路を議論するインタビューシリーズ。第5回のインタビュイーは、元朝日新聞記者で、桜美林大学リベラルアーツ学群教授(メディア・ジャーナリズム)の平和博。違いの一つは規模の問題だ、と平は言う。

吉田拓史

デジタル化、スマホ化、そして近年のSNSをめぐる様々なトラブル。「メディア」は再び岐路に立たされている。そこでアクシオンでは「メディアの未来」と題し、編集長の吉田拓史が様々な識者にインタビューを行うことにした。

第5回は、桜美林大学リベラルアーツ学群教授(メディア・ジャーナリズム)の平和博。平は朝日新聞社の記者として、シリコンバレー(サンノゼ)駐在、科学グループデスク、編集委員、IT専門記者(デジタルウオッチャー)などを担当した。2000年代からブログ、SNS、AI、フェイクニュースに関する多数の著書を出版。新聞記者時代から自身のブログ「新聞紙学的 | Journodelic Medialog」でメディアをめぐる現代的状況について活発に発信を続けてきた。

このインタビューは12月8日に行われた。


現在、人々が使う主要SNSは2000年代にその端緒を開いている。当時からSNSの動向をつぶさに観察してきた平は当時と今を比較すると、非常に大きな違いが生まれていることを指摘する。「一つは規模の問題です」と平は言う。「世界人口80億人のうち、Facebookの月間アクティブユーザー数だけでおよそ30億人です。YouTubeでもやはり20億を超えている。そのような国境を越えたリアルタイムのグローバルインフラになってきているというのが、まずソーシャルメディアの今の位置付けなのだろうと思います」

「その中で、情報のクオリティーにかかわらず指数関数的に広がっていくというのが、情報の生態系の一つの特徴だろうと思っています。つまりノード(節)としての個人が発信する情報圏は、かつては例えば地域、家族、友人という物理的な制約に閉じられたものでしたが、今はそれが世界と直接、双方向、リアルタイムでつながっている。その違いは非常に大きいと思っています」

ソーシャルメディアが社会に対してインパクトをもたらすことが意識されたのは、2010年の末から2011年の初めにかけての中東・北アフリカの民主化運動「アラブの春」が一つのきっかけだった、と平は言う。

「あの民主化運動はソーシャルメディア革命と言われ、情報の共有、拡散ではFacebook、Twitterが大きなツールになったと言われています。この時のFacebookの月間アクティブユーザー数は約6億人。現在は約30億ですから、5倍になっています。数は5倍ですけれども、ネットワークの価値はノード数の二乗だというメトカーフの法則でいくと、この10年ほどで25倍の価値になっています」

「2月に起きたウクライナ侵攻では、ウクライナのゼレンスキー大統領が侵攻直後に自撮りの動画をソーシャルメディアで世界に発信して、それが欧米諸国による支援の後押しになった側面もあります。そういう位置付けに今、ソーシャルメディアの情報はあるのではないかと考えています」

新型コロナのパンデミックは、世界中をつなげるネットワークの新たな試練となったようだ。「2020年からのパンデミックでは、まさにウイルスの拡散に合わせてフェイクニュースが拡散されて、それ自体がインフォデミックという呼ばれ方をしました。例えばワクチン接種などの感染対策の妨げになるということで非常に懸念されてきて、現在もその懸念は続いているわけです」

「去年1月のアメリカの連邦議会議事堂乱入事件では5人の方が亡くなっていますが、これもその背景に、ソーシャルメディアでのフェイクニュース、陰謀論などの拡散も指摘をされています。そして先ほどのウクライナ侵攻では、ゼレンスキーさんのような情報発信が可能だった一方で、フェイクニュースが情報戦の武器となりました。戦場がユーザーのスマートフォンと直接つながって、間違った情報が拡散されてしまうという問題点も指摘されました」

プラットフォーム企業からの内部告発も相次いだ。昨年、Facebook(現Meta Platforms)の経営陣が、フェイクや低品質コンテンツの拡散を防ぐアルゴリズムを会社の収益性に悪影響を及ぼすとして採用しなかった、と内部告発者が大量の社内文書とともに明らかにした。今年に入ると、Twitterでも同社の元セキュリティ担当幹部が、Twitterはずさんなセキュリティ運用をしており、規制当局との約束を破り、社内に海外のスパイが紛れ込んでいる、と主張した。

「2016年のフェイクニュースの氾濫と、その主な舞台となったFacebook、Twitterに対する批判から、ソーシャルメディア、プラットフォーム上でのコンテンツに対する管理、コンテンツモデレーションのあり方が、この数年で非常に強く問われています。社会、ユーザーからの、安全安心に使える場であってほしいという要望が極めて強くなったのが、2016年以降、現在までの一つの流れではないかと思います」

その端的な例が、11月16日に発効したEUのデジタルサービス法(DSA)だ、と平は言う。巨大プラットフォーム事業者を主な標的として、EU域内のサービスにおける違法・有害コンテンツ対策とそのための体制整備を求め、違反すれば最大で総売上高の6%に上る制裁金を迫る新しい規制である。

「日本でも総務省の有識者会議、プラットフォームサービスに関する研究会が今年8月に発表した取りまとめで、プラットフォームのコンテンツ対策の透明性、アカウンタビリティー確保のために法的な枠組み導入も検討していく必要があるのではないか、という提言がなされています。プラットフォームの自主的な取り組みだけに頼っていくフェーズから、一定程度そこに強制力を持った透明性とかアカウンタビリティーを要求していくべきでないかという流れが、大きく動き出しています」

マスク

直近のSNSの混乱は、イーロン・マスクがTwitterを買収したことだ。ただ、ビジネス的な観点からは、どのようなメリットがあるのか、よく分からないところもある、と平は言う。

「イーロン・マスクさんは世界一の富豪ですが(*1)、総額で440億ドルという買収金額、日本円で6兆円という買収金額は非常に大きく、しかもTwitterは過去10年間で8年赤字です。さらに今回の買収では、130億ドルの借り入れの負債分をTwitterが抱えていて、利払いが年間12億ドルぐらいになるという報道も出ています」

「通常の考え方でみれば非常に厳しい状況です。大幅なリストラが行われていますが、広告収入が90%という現在のモデルを本当にドラスティックに変えて、利益の出るような形にできるのか。これまで数々の実績があるマスクさんの手腕が注目されます」

平はもう一つ、プラットフォームの社会的責任という観点を指摘する。「先ほどお話ししたように、ソーシャルメディアのようなプラットフォームを安心安全に使っていきたいという社会、ユーザーの要請、プラットフォーム自身の取り組み、それを担保する法整備が、特に2016年からの6年間、ずっと続いてきたわけです。それをいわば逆回転させるかのような言動、あるいは実際の取り組みが行われています」

「コンテンツ管理で後退するということは、社会に不安を呼び起こさざるを得ないわけです。またフェイクニュース、ヘイト、誹謗(ひぼう)中傷が広がってしまうのかという不安感は、もちろんユーザーにはあるでしょう。同様の懸念は、自社ブランドの毀損(きそん)につながりかねないという広告主の不安にもつながる。大手広告主が相次いで広告掲載を見送っているという動きは、そのような不安感の表れだろうと思います」

平は、EUの行政執行機関である欧州委員会の域内市場・デジタル担当、ティエリー・ブルトン委員が、マスクとオンラインでミーティングをしたことに言及した。ブルトンは、デジタルサービス法(DSA)では制裁金として最大でグローバルの売り上げの6%が課される規定があり、違反が続く場合にはサービスの一時停止のような制裁条項もあると繰り返し強調したと報じられている。

「有能なシリアルアントレプレナー、そして世界一の富豪がTwitterを買収したとしても、法の規律、あるいはユーザー、広告主、社会が求める安全安心というものに変化はないということです。そのギャップをマスクさんはどのように埋めていくのか。それが大きなポイントだろうと思います」

マスクが、規制当局に対して「表現の自由」を旗印に掲げるのは初めてではないようだ。米証券取引委員会(SEC)と自身のツイートを巡って対立した際にも、「表現の自由」を彼は盾にとった。「2018年8月、マスクさんはテスラの上場をやめる、というツイートをする一方、月末には非上場を撤回する。株価を混乱させたということで、翌月、SECが証券法違反でマスクさんを訴追しました。結果として制裁金4,000万ドルをテスラとマスクさん個人で負担をして、和解に至るわけです。ただこの時の和解条項で、株価を混乱させるようなツイートを以後しないように、マスクさんがツイートをする前に弁護士がチェックをすることを義務化しています。ところがそれ以降もマスクさんは物議を醸すようなツイートをやめていません。そしてそのたびにSECから説明を求められることを繰り返し行ってきたわけです」

「このSECとの和解条項そのものが自分の『表現の自由』を侵害しているということで、マスクさんは裁判所に和解条項の撤回を求めていますが、今年4月にそれも退けられています。そのような中でのTwitterの買収です。マスクさんが主張する『表現の自由』の背景として、そのようなSECとの確執も浮かんでくるのではないかと考えています」。

ファクトチェック

平が在籍した朝日新聞社のようなメディア企業から見たフェイクニュースへのアプローチはどのようなものだろうか。その一つはファクトチェックである。「ただし今のところ、海外に比べて日本の特にレガシーメディアはそれほどファクトチェックに力を入れているようには、あまり見えません」と平は言う。

「朝日新聞社は比較的早く、2016年秋から国会の討論を対象にしてファクトチェックを行ってきました。毎日新聞社も、ファクトチェックのコーナーを設けて継続的に取り組んでおられます。けれどもメディア全般として、例えばアメリカや台湾、韓国などの状況と比べて、やはりファクトチェックの取り組みは低調かとは思っています」

今年10月に立ち上がった日本ファクトチェックセンターには平も運営委員として参加をしている。BuzzFeed Japanの創刊編集長で朝日新聞時代の平の同僚でもある古田大輔が、編集長を務めている。

「今回のウクライナ侵攻開始当初から、国際組織『国際ファクトチェックネットワーク(International Fact-Checking Network:IFCN)』が認証した世界70以上の団体が連携して、侵攻にまつわるさまざまな動画、画像、テキストのフェイクニュースをファクトチェックし、情報集約サイトにまとめて公開をすることを続けています。フェイクニュースが多言語で展開されているので、国際連携でさまざまな言語に対応できる取り組みが必要だからです」

「しかし、この国際コミュニティーに日本から参加している団体は今のところゼロです。ですから、少なくともその第1号というか、その国際コミュニティーへの参加ということも日本ファクトチェックセンターを立ち上げた一つの大きな理由です」

生成型AIへの対応

最近はジェネレ―ティブAI(生成型AI)が急速に広がっている。クリエイティビティの新たな発展を引き起こすものである一方、これを利用したフェイクの急増が懸念されている。実際に拡散した事例として、今年9月の台風15号の水害に絡んで、画像生成AIによるフェイク画像がTwitterで拡散した事例があった、と平は指摘する。

「AIを使った判別の難しいフェイク画像、フェイク動画の拡散という点で見れば、既に、2017年秋ごろから話題になっていたディープフェイクスがあります。これは当初はフェイクポルノとして拡散していきました。ポルノも女性に対する人権侵害として問題ですが、それが政治的に使われた場合、例えば紛争につながってしまうなどの危険性も指摘をされてきました。ただこの間、その検出技術も開発されてきました。AIに対してはやはりAIで、一定の特徴を検出して排除する取り組みが続いてきたわけです」

「ウクライナ侵攻では、3月半ばに偽のゼレンスキー大統領が降伏宣言をするという、ディープフェイクスを使ったフェイク動画が拡散されました。一つ参考になるのは、ウクライナ政府は情報機関が収集した秘密情報を基に、偽のゼレンスキー大統領の動画が出回る2週間前に、このような動画を見たら、それはディープフェイクスです、と注意を呼びかけるキャンペーンを展開していたんです」

平は、フェイクニュースが拡散する前にその手口を暴露し、「予防接種」効果を狙う取り組み「プレバンキング(事前暴露)」に言及している。ケンブリッジ大学、ブリストル大学とグーグルの研究部門「ジグソー」が、ユーチューブユーザー540万人を対象にした大規模実験は、「予防接種」の効果を示している。

「今は画像、イラストがメインですが、動画でも今後そのレベルのクオリティーの高いものが拡散してくる可能性があります。やはりAIで生成したものについてはAIで一定程度の検出をする、プラットフォームの取り組みも非常に重要になってくると思います」

平は法的責任の明確化も抑止力になりうると語っている。「AIの生成画像ではないですけれども、2016年の熊本地震の際に、地震によってライオンが逃げたというような画像を付けたツイートが行われました。これに対して、その発信をしたユーザーが偽計業務妨害の容疑で逮捕されました。最終的には不起訴になっていますが、そのような形で社会に混乱を及ぼす情報発信を行った場合には、法的責任も問われるということを、ユーザー側もいま一度認識をしておく必要があります」

平は、噴出するインターネットの情報をめぐる問題について、決して悲観はしていない、と語る。「フェイクニュースも、社会に影響を与えないのであれば、単に間違った情報というだけのことです。社会にどれだけ深刻な影響を与えるのかという、その危険度のプライオリティを見極めていく必要があります。感染症対策や民主主義、選挙に直接悪影響を与える、安全保障に深刻な影響を与える。このような誤情報、偽情報、フェイクニュース、あるいは誹謗中傷、ヘイトにはしっかりと取り組んでいく必要はあるだろうと思います」

インタビューの文字起こし

【文字起こし】噴出するSNSの問題とその処方箋|平和博|メディアの未来#5
吉田:昨今は、SNSでの情報伝播(でんぱ)についてはかなり批判的な意見も増えてきたというような状況だと思います。私が元々DIGIDAYという会社で編集者をやっていた時に平さんのブログをよく読んでいましたが、平さんが伝えるような内容が長期的に多分変化してきたのではないかというのは、ブログやフォーマーを見ていたりして思うのですが、ここら辺はどうのようにお考えでしょうか。 平:一つは規模の問題です。ソーシャルメディアの広がり方、社会におけるソーシャルメディアの位置付け、存在感がだいぶ変わってきたという印象はあります。具体的には今、世界人口がこの間80億人という数字が出ていましたが、Facebook…

平 和博(たいら かずひろ):早稲田大学卒業後、1986年、朝日新聞社入社。横浜支局、北海道報道部、社会部、シリコンバレー(サンノゼ)駐在、科学グループデスク、編集委員、IT専門記者(デジタルウオッチャー)などを担当。2019年4月から現職。

著書:新著『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(2019/2/13刊)、既刊『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(2017年)『朝日新聞記者のネット情報活用術』(2012年、いずれも朝日新書)、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』(2011年)『ブログ 世界を変える個人メディア』(2005年、いずれもダン・ギルモア著、朝日新聞出版)。共著『メディアは誰のものか――「本と新聞の大学」講義録』(2019/3/15刊、集英社新書)『メディア・イノベーションの衝撃―爆発するパーソナル・コンテンツと溶解する新聞型ビジネス』(2007年、日本評論社)


*1: フォーブスによる世界の富豪番付では12月7日、世界一の座はLVMHのCEO、ベルナール・アルノー氏に譲り、マスク氏は2位となった。保有するテスラ株の下落が響いた。Forbes, "The World's Real-Time Billionaires".