太陽光と風力は石炭発電を凌駕しつつある

欧州ではウクライナ戦争の影響で再エネへの移行が急加速し、予想された石炭の復権は起きなかった。米国でも大規模なインセンティブが、再エネが石炭に取って代わるのを促している。

太陽光と風力は石炭発電を凌駕しつつある
Photo by Ricardo Gomez Angel

欧州ではウクライナ戦争の影響で再エネへの移行が急加速し、予想された石炭の復権は起きなかった。米国でも大規模なインセンティブが、再エネが石炭に取って代わるのを促している。


英シンクタンクEmberの最新の報告書によると、2022年、欧州連合(EU)の太陽光発電と風力発電は、電力ミックスにおいてガスを追い越した。ロシアがウクライナ侵攻の際にガスの供給を停止し、エネルギーコストが高騰。原子力や水力発電の減少もあって、化石燃料への依存度が高まったが、太陽光発電と風力発電がそのギャップを埋め、昨年はEUの電力の22%を供給し、初めてガスを追い越した。

欧州は、電力不足を避けるため、各国は石炭やガスの戦略的備蓄を行い、休止中の石炭発電所を待機させたり、停止予定の石炭や原子力発電所をより長く稼働させたりした。EU全体では、2022年に26基、11GWの発電電力量を持つ石炭火力発電所が緊急に再稼働された。しかし、石炭発電容量の増加は一部の人が予想したよりもはるかに少なかったようだ。報告書によると、2022年、石炭火力発電は2021年に比べて1.5ポイント増加し、EUの発電量の16%を占めた。

石炭への回帰が実現しなかったのには、いくつかの理由がある。報告書は、暖冬のほか、主要な要因として風力と太陽光の発電量が大幅に増加したことを挙げている。太陽光は前年比39TWh増、風力は33TWh増となった。

米国でも、産業政策によって太陽光と風力の経済性が、石炭に勝っているとの報告が出た。サンフランシスコに拠点を置く気候変動シンクタンク、Energy Innovationとカリフォルニア大学バークレー校の研究者は30日、米インフレ抑制法(IRA)に含まれる再生可能エネルギークレジットのおかげで、太陽光発電と風力発電の限界費用が、石炭火力発電を上回ったと主張する報告書を発表した。

IRAには、クリーンエネルギー・EV産業のための数千億ドルという多額の銀行融資枠がある。これは石炭発電事業者が受けている融資よりも有利な利率であり、融資対象事業者は低い資本コストを享受できるようになっている。また、稼働を終えた石炭発電所と近隣する地域に対する、再エネを導入するための10%の税額控除が含まれている。

このIRAを考慮すると、石炭発電所の限界費用(ビジネスの拡大に伴う追加的な費用)の中央値は1メガワット時あたり36ドルであるのに対し、太陽光発電の限界費用は1メガワット時あたり約24ドルと、約3分の1の安さであることが判明した、と報告書は主張。ワイオミング州のドライフォーク発電所を除いて、米国内の210の石炭火力発電所を今停止して新しい風力発電や太陽光発電に置き換える方が運転継続費用が安くなると主張した。

このコスト試算に基づいて地域の石炭発電所を太陽光発電に置き換えた場合、地域社会は運営コストの削減に加えて、クリーンエネルギーへの投資で最大5,890億ドルを手にすることができる。その結果、エネルギーの安定性に関する懸念を払拭することができる、と研究者らは述べている。

昨年、国際エネルギー機関(IEA)は、再生可能エネルギー分野の成長予測を30%上方修正し、2025年までに風力と太陽光が石炭を抜いて世界の主要エネルギー源になるとの見方を示した。IEAは主要な要因にウクライナ戦争に関連した世界的なエネルギー危機を挙げていた。

参考文献

  1. The Coal Cost Crossover: Economic Viability of Existing Coal Compared to New Local Wind and Solar Resources,” Energy Innovation: Policy and Technology, accessed January 25, 2023, https://energyinnovation.org/publication/the- coal-cost-crossover/.
  2. Eric Gimon, Amanda Myers, and Mike O’Boyle, Coal Cost Crossover 2.0 (Energy Innovation: Policy and Technology®, May 2021), https://energyinnovation.org/wp-content/uploads/2021/05/Coal-Cost-Crossover-2.0.pdf.

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