気象予報でもAIのブレイクスルー:1分の計算で業界標準を大幅に上回る
AI革命が気象予報にも到来した。GoogleによるAIベースの気象予測モデルでは、従来の方法よりも高い精度を持ち、より迅速な予測を実現し、10日先までの気象情報へのアクセスを容易にするとされている。
AI革命が気象予報にも到来した。GoogleによるAIベースの気象予測モデルでは、従来の方法よりも高い精度を持ち、より迅速な予測を実現し、10日先までの気象情報へのアクセスを容易にするとされている。
AI研究所Google Deep Mindは14日、科学誌Scienceに掲載された論文で、気象予報AIのGraphCastを発表した。GraphCastは3,670万のパラメータから構成されるグラフ・ニューラル・ネットワーク(GNN)による全球気象予報モデル。1979年から2017年までに収集した39年分のデータで訓練されたこのシステムは、10日間の天気予報を6時間単位で作成する。
入力に必要なデータは、6時間前の天気と現在の天気の2つだけだ。そしてモデルは、約0.25度の緯度/経度の解像度で6時間先の全地球気象を予測する。このプロセスを6時間刻みで進めることで、10日先までの最新予報を提供することができる。
GraphCastにはいくつかの画期的な点がある。まず、精度で現在の標準的なシステムを凌いだことだ。Remi Lam率いるDeepMindの研究者は、GraphCastは欧州中期気象予報センター(ECMWF)が作成する業界標準の気象シミュレーション・システムである高分解能10日間大気予測モデル(HRES)よりも正確かつ迅速に、10日先までの気象状況を予測する、と主張した。
次に、必要とする計算資源がスリムになることだ。ECMWFで気象を予測するには数百台のマシンで構築されたスーパーコンピューターを数時間稼働させる必要があるが、GraphCastではグーグル製AI半導体「TPU v4」1台を1分稼働させるだけで予測可能だ。グーグルが発表した未査読論文の著者は、TPU v4は同規模のシステムにおいて、2020年に市場投入されたAI開発の定番であるNVIDIA A100よりも1.2倍〜1.7倍高速で、消費電力は1.3倍〜1.9倍少ないと主張している(*1)。TPU v4はディープラーニング専用ハードウェアの部類に当たり、独自の光回路スイッチ(OCS)を介して相互接続された4096個のチップクラスタで構成される(*2)が、ECMWFが要する計算コストと比較すると安いと言えそうだ。
従来の気象予報は、コンピューターベースの数理モデルを使って天気を予測する手法である「数値天気予報(NWP)」に依存している。NWPでは、まず、人工衛星、気象観測気球、地上の観測所からデータを収集し、大気の初期条件を設定する。これらのモデルは、運動や熱力学などの物理法則に基づき、大気の挙動をシミュレートする。これは慎重に定義された物理方程式から始まり、スーパーコンピューター上で実行されるコンピューターアルゴリズムに変換される。NWPの精度は、初期データの精度とモデルの解像度にかかっている。方程式とアルゴリズムの設計には時間がかかり、深い専門知識が必要である。
また、異常気象の検知についても好成績を出したようだ。GraphCastは、特別な訓練なしに、従来のモデルよりも早く悪天候を検知する能力を示したと研究者たちは書いている。これは、ハリケーン・リーのノバスコシア州上陸を9日前に正確に予測したことで証明されているように、サイクロン(一定のレベルを越えた熱帯低気圧)の追跡においてHRESモデルを凌駕している。GraphCastは、豪雨や潜在的な洪水を予測し、緊急対応計画に役立てるために不可欠な「大気の川」の特徴を把握するのにも効果的だ、とされる。
機械学習ベースの気象予報(MLWP)は、従来のNWPに代わるもので、観測データや解析データを含む過去のデータから予測モデルを学習することができる。これは、明示的な方程式では表現しにくいデータのパターンを捉えることで、予測精度を向上させる可能性を秘めている。
脚注
*1:この論文では、グーグルはTPU v4と新しいNvidia H100 GPUを比較していないが、その理由は入手可能性が限られていることと、4ナノメートル(nm)アーキテクチャであるためであるとしている(TPU v4は7nmアーキテクチャ)。
*2:グーグルは、この光回路スイッチは、もう1つの一般的な相互接続技術であるInfiniBandよりも高速で、安価で、消費電力が少ないと主張している。グーグルは、OCS技術がTPU v4のシステムコストと消費電力の5%未満であると主張する。
参考文献
- Remi Lam et al., Learning skillful medium-range global weather forecasting.Science0,eadi2336DOI:10.1126/science.adi2336